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貴方の戦う意味を教えて  作者: 火野 律
始まりの千年樹海
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尊く高貴なる血

 まさに『怪物』、そう表現するほかなかった。

 恭弥が地球でさんざん見てきた妖怪でも悪魔でもない。

 その怪物の体長二メートルほどで、遠目からはカブトムシが二足歩行しているようだった。

 それだけでも充分異常だったが、それだけに止まらない。

 その怪物はこれでもかと言うほど、体の隅々に膨張に膨張を重ねた特大の筋肉が付いており、その筋肉を黒光りする甲羅が覆っていたが、覆いきれずに甲羅の継ぎ目の下からピンク色の筋肉が覗いていた。

 頭部に角はなく、顔はまさに骸骨で死神に見えなくもなかったが、醜く笑っている骸骨は、(実際に会ったことはないが)通常の死神に相対したよりも恐怖を増長させた。

 その『怪物』の周りには人の死体が散乱しており


「ズズズーーーーー」


 と、人の血を啜り、貪り食っていた。

 醜悪に笑いながら。


「えっ………」


 人が食われてる?

 恭弥はその光景を目にし、惨状を理解し、そして吐き気を催す。


「うっぷ」


『怪物』に対しての無知から起因する不安と人間の原始的な本能からくる恐怖で、脇目も降らずに叫び発狂したくなる衝動に駆られる。

 しかし、手で口を押さえ吐くのを我慢し、舌を噛み自らの太腿に爪を立て、痛みで正気を保つ。

 現代魔術でワンパン出来るかもしれない。

 そんな可能性があったが、しかし戦意など、『怪物』に挑み無惨な結果に辿り着いた人たちを見れば1ミリも湧かない。

 そもそも、恭弥に戦闘経験などはないのだ。

 したがって、迷わず逃げることを選択した恭弥は『怪物』から目を離さず後退ろうとした、その時。


「助けてくれ」


 名前も知らない誰かが恭弥に手を伸ばす。

『怪物』の周りに、散らばっていた死体の中に、一人生存者がいた。

 よく、声を聞けばわかったかもしれないが、その人は恭弥を意図的にはないにしろ、この場に呼び寄せた張本人だった。

 しかし、極限状態の恭弥にはそんなことは気づかない、というよりもどうでもよかった。

 命の危険が迫っている。

 その事実を必死に受け入れることだけでよかった。

『怪物』はその生存者に気づくと食うのを中断し、生存者が伸ばした指の先を追って見る。

 そして、恭弥という存在を視界に収めると、


「ギギッ」


 そんな奇怪な音を発し、本物のカブトムシのように翅を広げて恭弥に迫ってきた。

 見つかってしまった以上、慎重さなんてものは無意味。

『怪物』に背を向け、恭弥は一心不乱に逃走する。

 恭弥は『怪物』をなかなか離せず十五メートルの距離を保っていた。

 筋肉モリモリで馬鹿みたいに重いだろう巨体を一対の翅で浮遊させるのは難しく、スタミナ切れでスピードが落ちていく。


 よし、このまま引き離せば。


 しかし、その考えはすぐに覆される。

『怪物』は大きく口を開くと紫色の光線を飛ばしてきた。


 ドカンッ!?


 その光線は恭弥からわずかに逸れ、足元に着弾した。

 着弾した場所には五センチほどのクレーターが出来上がっており、一歩でも足を前に出していれば、指どころか足の甲まで焼き焦げていた。

 その事実に恭弥は背筋が凍る思いだった。

 背後を見ると『怪物』は翅を折り畳み走って恭弥を追ってきた。

 飛んでくるよりも走る方が圧倒的に速く距離をどんどん縮められる。

 恭弥は足が止まっていることに遅れながら気付き、またすぐに走るだす。


 クソ!!クソクソクソクソ!!なんで俺なんだよ!!俺に助けなんか求めんじゃねぇ!!


 心の中で、助けを求めてきたあの男に悪態をつく。


 いや、今は愚痴ってる場合じゃない、打開策を考えないと。


 しかし、これでも魔術師の端くれ、この絶望的な状況でも生存を諦めず、状況の打開に頭を巡らせていた。


 攻撃力は見るからに高い、一発でもくらえば骨の一、ニ本は簡単に折れちまう、しかもスピードもあって、あの意味の分からんレーザービームみたいなので遠隔攻撃も出来る。

 おまけに飛べるって、どういうことだよ!!


「はぁ、はぁ、はぁはぁ」


 追いつかれれば人生ゲームオーバーという緊張で筋肉は強張って思うように走れず、それに加えて五分間全力で走り続けている恭弥の肺は悲鳴を上げていた。

 そんななかでも、恭弥は頭をフル回転させる。


 それにしても、なんで急に走り出したんだ?

 最初っから走った方が、絶対俺を捕まえれたのに、バカなのか?

 ………いや、そうか、バカなんだ!!

 見るからに頭が弱そうだ、絶対脳筋タイプ!

 何か工夫というか小細工だけで、あいつを巻けるかもしれない!!

 何か、何かないか。


 使えそうなものはないかと周囲を見渡す。

 そして、右方に洞窟を見つける。


 よっし、あれを使えば。


 そして、一つの策を思いつく。

 恭弥は右に方向転換する。

 その際に、またもや『怪物』からレーザービームのようなものが凄まじい速度で飛んできたが、それをかわすと、洞窟に向けて一直線に全力で走り、洞窟に入ると、


「我、アトラレイシアの血族に連なりし橘恭弥が我が身に宿るは大半が穢れたものであろうとも、僅かに存在する尊く高貴なる血をもって起点とし唱える。天の岩屋戸を開きて刺許母理坐しく」


 呪文を唱える。

 すると、どこにもなかった岩が出現し、洞窟の入り口を塞ぐ。

 岩に向かって怪物が遅れてレーザービームを撃つも入り口を塞ぐ岩はびくともしない。

 こうして、恭弥は『怪物』から逃げることに成功した。





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