俺は異世界に呼ばれた
日も沈み夜に差し掛かる頃合い。
時計の短針と長針はちょうど六という数字を指し示していた。
「さぶっ」
冬の寒空のもと片田舎にある小さな駅で一人、竹刀と学生鞄を持ったさらさら髪で綺麗な茶髪の青年が呟いた。
竹刀袋には不破恭弥という名前が刺繍されていた。
この青年、恭弥の身長は一般的な高校二年生と同じだが体つきは良く、ボディービルダーほどではないがそれなりに筋肉は付いていた。
いわゆる細マッチョというやつだった。
「あ〜〜あ、寒すぎる。なんか温くなる便利な魔術があればな〜〜。っていうか魔術師で別にいいことないよなぁ」
恭弥は一般人が聞いていれば即変人か厨二病かに認定されるようなことを口にし愚痴る。
しかし、この青年の言っていることは正しく、彼は魔術を扱う現代魔術師だった。
恭弥は昨日までちょうどアメリカでそれなりに有名な魔術師の魔術の特別講義を受けていたのだ(親に強制的に)。
その講義中に剣道の試合での疲労に襲われ、寝てしまった。
その際に講師から馬鹿にされ、講義を受けていた他の生徒から笑われと恥ずかしい思いをしていた。
そのせいで恭弥は虫の居所が悪かった。
「っていうか魔術師ってなんだよ、生まれた時から決めやがって。全部親の言いなりだよクソが。っていうか今の時代魔術ってなんだよ、意味ねーじゃん別に戦う敵がいるワケじゃないのによ。魔術師でよかったことなんてどっかの大企業の娘と結婚出来ることだけだわ。それだって、別に俺の血の濃さじゃ良くても、どっかの魔術師の家系と結婚するんだろうな〜〜。ハア〜〜〜〜〜。もう俺が救われるには将来のお嫁さんが可愛いことに懸けるしかないか〜〜」
恭弥の愚痴はヒートアップし、魔術師の風上にも置けないようなことを言う彼のもとに突然一羽のカラスが飛んできた。
そのカラスは恭弥の頭上まで来ると、一枚の黒色の折り紙に変わった。
ヒラヒラと落ちてくるその折り紙を取り、見てみると赤い文字が浮かび上がってきた。
コワッ、怖すぎるんだよ、これ。ホントやめて欲しいは。
一頻りボヤいた後、恭弥は折り紙を読んだ。
『 橘家次期当主橘恭弥殿へ
我らが始祖様の直系であらせられる先代の王の御息女様が15歳の誕生日を迎えられました。
その誕生パーティードイツで開きたいと思います。
つきましては、未来ある若者たちに参加願いたいと思います。
日本統括魔術家 七条舞花 』
「はあ〜〜〜〜〜」
その文面を読み上げた恭弥は大きくため息をする。
アメリカの次はドイツ〜〜。
もう少しゆっくりしたい。
ホント魔術師やめたい。
そう言って恭弥は近くのベンチに座る。
「はあ〜〜〜〜〜あ」
ボーッとしていると恭弥は大きなあくびをした。
あ〜〜あ、眠い。電車も全然来ないし、あと30分はかかんるだろうし、あ〜疲れた眠い〜。
恭弥のまぶたは徐々に降りていき眠りに落ちた。
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眠りから少したったタイミングで恭弥は目を覚ました。
「ぁあ………………ヤバイ寝過ごしたかも」
寝過ぎて電車に乗り遅れたと勘違いした恭弥は急いで椅子から立ち上がった。
すると、恭弥は大きく転んだ。
石や何かに引っかかって躓いたわけではなく、ただ足に力が入らず転んだのだ。
何事かと足元を見てみると足が存在していなかった。
恭弥の足から血が出ているということはなく近くにも恭弥のなくなった足は落ちていなかった。
「う、え、……ぁああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
恭弥が悲鳴を上げる。
なんだ!?なんなんだ!?クソが!どこだ、どこから俺を狙ってんだ!!俺なんか狙って意味あんのか!!
どうやってやられた!?
恭弥の脳内は疑問で埋め尽くされる。
そして最悪は終わらない。
足だけではなく、腕までもがなくなろうとしていた。
しかし、幸いにこの理解不能な現象の原因を特定することはできた。
まるで炭酸飲料の泡のようなものが恭弥の全身を侵していたのだ。
もうすでに下半身は侵され、首から下が無くなっていた。
「誰だ!!どんな魔術を使ってやがる!!」
ーーー小さくとも勢いのある泡たちは首を侵す。
「なんなんだよ!!クソクソクソ!!………はぁはぁ、やめて、くれ」
目を瞑り最後にと切れと切れ言うと橘恭弥という存在は跡形もなくこの世界から消え去った。
そして、恭弥が存在した痕跡である竹刀と学生鞄が残された駅に、警笛を流しながら電車が到着した。