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おかると倶楽部  作者: かべくん
1/2

おかると倶楽部 壱

今は桜花が舞い始めてからしばらく後の時期。

新入生の多くは今頃まさに青春せんとばかりに張り切っていることだろう。

が、新入生の一人である僕は...残念ながら感情がプラスに傾いているとは言えない。


先日、クラブ勧誘会にて『おかると倶楽部』という部活に興味を惹かれ、入部したのだ。

しかし、いきなり問題が発生している。


まず想像していたものと違うのだ。

僕の想像していた『おかると倶楽部』は、せいぜいオカルト小説や動画を部室で見て楽しむ部活だった。が、この部活は違った。

なんと実際に体験しに行くというのだ。存在自体が怪しい怪異をだ。

まぁそれ自体は楽しければ別にいいのだ。なにも起こらず無事に終わるに決まっている。


それ以上の問題は部員である。

女子しかいないのだ。

少なくとも部室内には男子は僕しかいない。

男子はみなモテたいがために運動部に入ったのだろうか。しかしここまで顕著に表れるとは。

正直同性がいないのはかなり不安である。


活動1日目なので部室で部長から説明を受けていたのだが、ちょうど今それが終わったところだ。


「───じゃあ、自己紹介でもしましょうか!」


新入部員が来て嬉しいのか部長のテンションが上がっている。


「さっきも言ったけど、私が部長の水野紗耶香。よろしくね!」


髪を結構伸ばしており、後ろで結んでいる。身長は..まぁ微妙に低いな位だろう。話を聞いている限りかなり活発な人のようだ。


ちなみにこの倶楽部は去年できたばかりで、3年の先輩はいないらしい。


「私が副部長の播野加奈子です。よろしくね。趣味は読書ね。事務処理は大体私がしてるわ」


この人は隣にいる部長とかけている眼鏡もあってかなり大人しい印象がある。身長は女子にしては高く、髪はポニーテールにしている。

なんというか、部長に振り回されて苦労していることが容易に想像できた。


「私たちは以上よ」


「え?」


思わず声が出てしまった。それほど意外だった。


「この倶楽部、去年まで二人でやってたんですか?」


「そうよ」


説明だけだから二人しか来ていないものだと思っていたのだが、本当に二人しかいないとは。というかよくそんなものが倶楽部として認められているな。 


「はいはいいいから自己紹介しなさい新入部員」


水野が急かしてきたの自己紹介をする。


「山辺亮です。クラスは1-4、趣味は播野先輩と同じく読書です。よろしくお願いします。」


「そんな堅苦しくしなくていいのよ」


播野が面倒臭そうに言う。


「あ、はい」


とりあえずこの人は僕を男だからといって変な扱いはしなさそうだというのと、堅苦しい部活ではないことに少し安堵した。


続けて横にいる人物が自己紹介を始める。


「私が日野遥子です!よろしくお願いします!クラスは1-4です!」


髪をおさげにしているこいつは中学からの同級生で数少ない友人の一人だ。好奇心旺盛だが大体いい方向に働かないから面倒である。少し部長からも同じ雰囲気がするが。

ちなみに身長はかなり低く、それを気にしているようだ。あと頭が悪いが、それはそこまで気にしていないようだ。

ただ同じクラスであり、気軽に話せる人間がいるのは悪くないかもしれない。


「1-1の葵郁里です。よろしくお願いします。」


こっちは知らない顔だ。おそらく別の中学から来たのだろう。

身長は水野と同じくらいで髪はロング。前髪はおでこを隠すような綺麗なぱっつんである。

結構おっとりしてる雰囲気がある。


「これで全員終わったかな?じゃあ早速情報収集開始!」


未だにテンションが高い水野が大声でそう言った。

この倶楽部は平日に各自情報収集、そして土日を使って怪異体験を試みる。といったサイクルで行うらしい。

なので今から完全に自由の身だ。


──結局その後家に帰ってきた。

本来情報収集をするべきだが、ネットで漁るのも馬鹿馬鹿しい。そんなもの全部ガセネタに決まっている。

「さて、どうするべきかな...」

と飛行機雲の生成を眺めながら呟いた。

今日はいい天気だ。ちょっと散歩でもしてこようかな。

などと考えているうちに電話がかかってきた。

遥子からだった。


「ねぇ亮くん、今日播野先輩の家で歓迎会するって連絡来たから」


「え?」


「5時に迎えにいくからそれまでに準備しててね!」


そこで電話が切れた。

ちょっと待て

まず歓迎会をするなら解散せずに部室でやれば良くないか?なぜ先輩の家でやる必要がある?

女子に対して邪なことを考えなることがほぼない自分だからまだいいものの、あまりにも危機感が足りない気がする。

というか連絡が唐突過ぎる。時計の針は既に4時をまわっているのだ。


...ツッコミどころが多すぎるのだが、はてさてどうするべきか。

一人暮らしをしているので別に問題はない。夕飯の買い出しも行ってないのでちょうどいいと言えばちょうどいい。

しかもちょうど明日は祝日なので休みだ。疲労してもなんとかなる。


「行こうかなぁ...」


そうして少し不安を感じながら僕は支度を始めたのだった。


───


呼び出し音が鳴る。迎えが来たのだろうと思いバックを持って玄関から出たのだが、道に車が停まっていた。車で来るのは想定外だったが、そんなもの今更どうでもいい。


車に乗り込むと部員が全員揃っていることに気づく。僕が最後だったらしい。

運転しているのは播野の母らしい。

お世辞抜きで結構若く見える。


暇なので遥子に話しかけることにした。


「なぁ遥子」


「何?」


「普通家に男を呼ぶと思うか?」


「私が先輩に亮くんは安全だって言っといたから」


喜ぶべきか否か分からないが、まぁいいか。


僕の家から出て10分もすると、住宅街の中を進み始める。もうすぐ着きそうだと思った矢先、


「あれが私の家よ」


助手席に座っている播野が振り向いて言った。

彼女の指は周りと比べると一際大きい家を指していた。


そもそも他人の家に行くことだけでも慣れない僕は、今更ながら少し緊張していた。


──それからしばらく経ち、時刻はいつの間にか8時を回って長針と短針が真逆の位置にいた。

ちなみにあのあと家に着いてすぐ


「じゃあ、晩御飯にしましょう」


と言って播野とお母さんが台所へ向かい、すぐ戻ってきたのだが、

かなり豪華なのだ。僕と葵は呆然としていたが手をつけないのも悪いので頂くことにした。


出た料理の名前はほとんど分からないものばかりだったが、美味しいものの結構脂っこいので多くは食べる気にはならなかった。

実際遥子や水野も食べ終わっていたのだが、葵がものすごい勢いで食べている。どうやら彼女はかなりの大食いみたいだ。


結局葵が食べ終わる前に先に風呂に入ってしまった。


その後僕たちはリビングで情報収集することなり、今に至る。


「一年はちょっと来て」


と言って播野に呼ばれたので僕と遥子、葵が播野の元に向かった。


パソコンを立ち上げてブラウザを開き、僕たちに見せたのはどうやら「ダークweb」と呼ばれるものにアクセスできるブラウザのようだった。


「ここでいつも調べてるんですか?」


と思わず聞く。

想像以上にヤバい部活かもしれないと思ったのだ。


「さすがに危険かもしれないからあんまり使ってなかったけど、5人になったから使うことにしたの。」


と返ってくる。

横にいた遥子と葵は意味が分かっておらずポカンとしており


「教えようか?」


と聞くと即答で


「教えて」


と返ってきた。


「ダークウェブってのは通常のブラウザからはアクセスできないもので、勿論リスクとして危険性を秘めているし、違法なものもあるからまぁ物好きしか見ないようなものだよ」


へぇ~

と反応した遥子に比べて葵は少し怯えていた。

本当にオカルトに興味なんて在るのだろうか。


「じゃあ山辺くん、頼んだわよ!」


いつの前にか後ろにいた水野に椅子に座らせられる。


「え?僕?」


「こういうのは男がやるもんでしょ~。ねぇ加奈子!」


播野がちょっとこちらを気の毒そうに見ながら言った。


「...まぁ、そうなんじゃない」


成る程、俺が呼ばれたのはこれのためか。


「ちなみにネタが見つからなかったらどうs」


「見つかるまで帰さないわよ?」


当たり前のことを言うように水野から返答がくる。


「じゃあ、私たちはゲームしてるから頑張ってね~」


かなりイラっと来た。

新入部員に危険なことを任せるばかりか、「男だから」なんてウザい女子の常套句を使いやがって。あの人はホントにまともな人じゃなさそうだ。

が、正直ダークウェブなど見る機会などほとんどないので、少しだけ楽しみではある。

とりあえず掲示板から情報を得ることにした。 

パッとヤバそうな情報がたくさん出てきた。


───


「ぐがぁぁぁぁぁぁ」


誰かのいびきでふと我に帰った。

時計を見ると既に深夜3時を過ぎていた。

が、倶楽部で使えそうな情報は掴めていない。

ついつい脱線して関係ない情報に目がいってしまっていた。


「...!?」


一瞬、後ろに誰かの視線を感じた気がした。

振り返ると大人しく寝る播野と葵と対照的にいびきをかきながら物凄い寝相で寝ている水野と遥子がいた。性格がそのまま表れている。

播野の家族の誰かが見に来たのだろうか、と思ったがこの部屋にはドアが一つしかなく、しかも視線を感じた方向とは逆にある。


少し気になったが、今は情報収集に集中しなければいけない。

多分眠気が起こした勘違いだろう、と割りきった。

そう思いパソコンに目をやると、まさに活動に使えそうな記事が目に留まった。更新もついさっきである。

正直眠くて仕方が無かったので、そのページをブックマークに挟んで寝ることにした。


パソコンの電源を落とし、そういえば自分の寝る場所は何処だろうと今更疑問を感じた。

...結局布団もベッドもなかった。

どこまで雑な扱いをされるんだ僕は。

全てが面倒になった僕はカーペットの上で横になり、そのまま寝てしまった。


───


「..くん!山辺くん!山辺くーーん!」


「ん?」


葵だった。


「早く起きなよ。みんなもう行っちゃったよ?」


時計を見ると9時過ぎ。

結局6時間も寝なかったのか。

少し脱線した自分のせいもあるとはいえ、あの部長にはいろいろと言いたいことがある。


「行ったってどこに?」


「昨日ブックマークに記事を追加してたでしょ。あれの探索だって」


そういえばまともに記事を見ていなかったので電源の点いていたPCをいじり、例のページを見てみた。


【山行村に正体不明の生物が!】


という見出しで始まっている。

山行村はここから一番近い村で、車があれば10分で行ける距離だ。


記事によるとその正体不明の生物は体長2mで横幅は人間の2倍ほど、手とみられるものが2本で足が4本だという。

手足の構成はケンタウロスのそれに似ているが、身体全体が爬虫類のような外見だという。

そして何よりの特徴が『遭遇すると確実に鼓膜を破る』ことだという。

気圧の変化が起こるわけでもないらしいので、音を異常な音量で発しているのではないかと推測されているが、稀にしか遭遇出来ないからか詳しい調査が行われていないということ。

といっても目撃情報が先週の土曜日のみであり、いくら複数情報があるとは言え信憑性がそこまであるとは言えなさそうだ。


「で、あの人たちは車で行ったのか?」


「いや、歩きだよ」


そこは流石に考慮したのか。あの部長にもまだ人の心はあるようだ。


「っていうかそういうのって朝っぱらからやるものじゃなくないか」


そんな怪物がこんな時間からいては騒ぎになっているはずなのだ。が、そんな情報は昨日から一切ない。


「まぁそういう倶楽部なんじゃないのかな」


正直行きたくもない。なにせ疲れているのだ。


「なぁ、耳栓かなにか取りに行きたいから一回家帰りたいんだけど」


するとすぐ葵が耳栓の入った未開封の袋をつき出す。渡されたのか。

クソ。もう正直に言おうか。


「疲れたから帰りたいんだ。頼むよ」


「私はいいけど、先輩たちが来なかったら亮くんが不利になるような噂を流すって」


多分ここで寝泊まりしたことだけで不利な情報なので、床寝ている写真でも撮られていたら終わりだ。高校生活が危うくなる。

...別にそこまで友達がいるわけでもないが、社会的に殺されそうだ。これも含めて僕を呼んで陥れる作戦か。

もしかしたら教師に呼び出されて更なる面倒事になるかもしれない。


嗚呼、昨日ここに来ることを決断した自分が馬鹿だった。


「...そういえば朝食は?」


「ごめん。山辺くんの分まで食べちゃったの」


うん。久しぶりにキレそうだ。ただここでキレても意味がないことくらい分かっていた。


「しょうがないから行こう。途中でコンビニにでも寄ろうか」


ゆっくり支度をして


「お邪魔しました」


と一声掛けて家を出た。


───


僕は今パンを2つとお茶1つを買ってコンビニ外で朝食をとっている。

既に朝食をとったはずの葵も隣でパンを食べている。何故これ程までに食事をとっているのに太っていないのか気になるくらいである。


「そういえば先輩たちはもう着いたのかな?」


「らしいですよ。さっき連絡が来ました」


そういえば連絡先さえ交換していない。あとで諸々やっておこう。


「で?何か成果はあったとかは?」


「今のところ無さそうですね」


まあそうだろうな。

そういえば無意識に遥子に対してと同じ口調で話していたが、特に問題無さそうなのでこのままでいいか。


「よーしじゃあ行こう!」


性に合わないテンションで声を上げてモチベーションを上げる。

が、いつまでも返答がないので振り向くと

お腹を抑えて苦しそうにする葵の姿があった。


「完璧だなぁおい」


ことごとく僕を苦しめてきやがる。ここまで抜かりがないとは。


───


流石に疲れた。1kmほど葵をおぶって来たのだ。

つい先程から葵を下ろして歩いてるのだが、尚も僕より歩くのが遅いのはどうにかならないものだろうか。


今は水野たちとの集合場所である村の中心にあるという大樹に向かっているところだ。


「それにしても人一人いないとはなあ」


今のところ人を見ていない。そもそも人が少ないのだろうか。

だがやはり街外れにあるからか空気が澄んでいる。天気もよく程よく暖かい。

普段なら嬉しいが、今日に限っては天気が良くあってほしくなかった。あるはずもない怪異の探索なんて一刻も早く終わらせたい。


そうこうしているうちに大樹に着いた。

大樹とはいうが、別にそこまで大きいわけでも無い樹である。


「よーし。じゃあ再び探索開始!」


記録用のカメラを水野に渡される。どうやら

僕と播野 水野と遥子 で二グループに分かれて捜索するらしい。葵はしばらく休憩である。

僕たちのグループは西へと向かうことになった。


───


取り敢えずなにかいそうだからという理由で森へ行くことになった。


「そういえば去年迄どんな活動をしてたんですか?」


暇なので聞いてみると


「最初はこんなこと結構やってたんだけどね。当然といえば当然なんだけど飽きて途中からは部活動なんかせずに遊んでたわ」


と帰ってきた。大方予想通りだ。

多分今年もすぐに飽きるだろう。


「何でこのクラブを創部したんですか?」


続けざまに聞く。


「彼女の思いつきでね。一応私、彼女の数少ない友達だから付き合ってあげたの。顧問を探すの苦労したのよね~」


友達が少ないのは頷ける。


「あれ、そういえば顧問って」


「遊び始めてから顔さえ出してないわ。もう半年くらい来てないと思う」


初めて会った時に感じた苦労人というイメージも大体合っていたようだ。

まぁ、これから僕もその苦労を経験するのだろうが。


森に入ったので録画を始める。


「先輩はいると思ってますか?あの化け物」


「ご想像にお任せしますよ~」


なら思っていないに賭けよう。

しかしまぁ、よくもあんな人に付き合おうと思ったよなぁ。脅されてもいなさそうだし。


それにしてもいい場所だ。ほどよい新緑が綺麗で、木漏れ日で辺りは暖かい。深呼吸すると心が洗われるような感覚になった。

側を流れる川は澄んでいて、魚が元気よく泳いでいるのがはっきり見える。


カメラを持っているためスマホで写真が撮れない。本当に惜しい。またここに来よう。

そう思って前を向くと、播野がなにか遠くを見ている。


「何を見ているんですか?」


「あっちから変な音が聞こえるのよね」


耳を澄ますと、確かにあちらの方向からなにか木が倒れる音のようなものが聞こえる。


「誰かが木を切ってるんじゃないでしょうか」


「それにしては静か過ぎない?ちょっと行ってみましょう」


播野がそう言って音のする方向へ道なき道を進み始める。なんだかんだ行って彼女も楽しんでいるようだ。

僕もそのまま彼女の後ろについて行った。


後ろをついていっている状況のお陰であまり疲れないが、ただそれでも歩きにくいのは変わらない。それに少し脚が痒くなってきた。

ちなみにもしものために耳栓をするように言われたので今は着けている。


すると突然播野の足が止まった。耳栓をしているのでなにかを言っているのかは分からなかったが、彼女のところまで行くと


...いたのだ。

体長2mで幅は人の2倍程、手が2本で足が4本の爬虫類のような生物が。


弐話に続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次回が気になるような終わらせ方。 [気になる点] 文体に少し違和感が。 [一言] これからも頑張ってください。
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