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35.訪れた安息

 全てが終わった。


 ロベアダ様とタニア様はその日のうちに収監された。死するまで出ることが出来ない恐ろしい場所だから、もう彼女達と会う事は二度とないだろう。

 術士様は皇宮の奥深くにある牢に入っているらしい。処刑をすると魂移をしてまた自由になってしまう恐れがあるそうで、まずはその魂移の術を解かないといけないらしい。牢から抜け出る事は不可能だとヴィルヘルム様が言っていたので、きっとそれは間違いないと思う。

 伯爵家に勤めていた使用人は、皆、逮捕された。

 ロベアダ様達だけでなく、家令様も横領などの不正をしていたそうだ。他の使用人もわたしに対する暴行罪を問われるらしい。



 ロベアダ様達が買い漁ったドレスや装飾品、美術品は全て売却された。不当な税率も下げられて領民の負担は軽くなるそうだ。新しい領主様の元、領民が心穏やかに暮らす事を願うばかり。

 装飾品といえば、ロベアダ様に取られてしまった母の形見のパリュールが戻ってきた。ひとつも欠ける事無く、宝石も細工もそのままに美しいまま戻ってきたのは奇跡に近いと思う。といっても、魔法鍵が掛けられていて、ロベアダ様達には開けられなかったからというのが一番の理由だと思う。売り払われていてもおかしくなかったのに、戻ってきて本当に良かった。


 そしていま、わたしは相変わらずヴィルヘルム様の膝の上にいる。



「大丈夫か、エルザ」


 真名が戻っても、ヴィルヘルム様はわたしの事を『エルザ』と呼ぶ。ヴィルヘルム様に貰った名前だから、わたしもそう呼ばれた方がしっくりくる。


「ええ、大丈夫です。母の形見も戻してくれてありがとうございます」

「それくらいしかしてやれなかったからな。ロベアダ達に下した処分も、思うところはないのか」

「……と言いますと?」


 わたしは横抱きにされたまま、どこか気まずげなヴィルヘルム様を見上げた。


「……処分が軽いとか、重いとかだ。お前の意見を聞かずに、俺が裁いてしまったからな。それは申し訳なく思っている」

「そんな、わたしが出来ない事をして下さったのです。感謝以外にありません」

「本当なら俺がこの手で切り刻んでやろうと思ったんだが。痛覚を鋭敏にして、死にそうになったら回復してを繰り返そうと。……だが陛下に止められてしまってな。監獄へと取り計らってくれたのは陛下だ」


 それは皇帝陛下にも感謝をしなければならない。なんて恐ろしい事を考えるんだろう、わたしの愛しい婚約者様は。


「わたしは、ヴィルヘルム様がそんな事をするのは……ちょっと嫌です。罰を与える為だとしても、あの人達に関わって欲しくないって、そんな事を思ってしまうから」

「そうか……」


 わたしの言葉に、ヴィルヘルム様が穏やかに笑った。わたしを抱き締めて、髪に頬を摺り寄せてくる。甘えるようなその仕草に、またわたしの胸は跳ねた。


「わたし、ヴィルヘルム様にお会い出来て本当に幸せです。貴方がわたしを愛して下さったから、義母達の前に立つのも怖くありませんでした。もうわたしからは何も奪われない。そう、ヴィルヘルム様が教えてくださったからです」

「エルザ……」

「大好きですよ、ヴィルヘルム様」


 想いを告げるのは、今もやっぱり気恥ずかしい。だけど、受け止めてくれると分かっているから、伝えられる。

 わたしの想いを耳にしたヴィルヘルム様はその美しい(かんばせ)をふわりと綻ばせて笑ってくれた。




 わたしが正式にヒルトブランドへ移り住んでから、一週間。

 とても忙しい毎日を過ごしている。それはもう、目が回る程に。


 帝都でも評判のクチュールメゾンで結婚式用の衣装合わせをしたり、宝飾店で衣装に合わせるアクセサリーを選んだり、その合間には評判のカフェでお茶を楽しんだり。

 それに付き合ってくれているのは、ヴィルヘルム様ではなくオーティスさんだ。

 結婚式の準備に男を立ち入らせるわけにいかないとは、オーティスさんの談なのだが……オーティスさんって? まぁ深く聞くのはやめておいた。

 ウェディングドレスやアクセサリーはヴィルヘルム様の好みも反映されているそうなので、それならいいと思う。どうせなら、美しいと思ってもらいたいから。


 そう、わたしとヴィルヘルム様は結婚する。

 とても短い婚約期間になったけれど、ヴィルヘルム様がもう今すぐにでも婚姻の手続きをと言って聞かないのだ。

 準備に時間がかかるから、と一ヶ月の猶予をヴィルヘルム様に貰ったけれど……わたしの愛しい婚約者様は大層ご不満な様子だった。


 わたしとしても、早くヴィルヘルム様の妻となりたいけれど、この準備期間を楽しみたいとの気持ちもあるから複雑なところだった。


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