24.酒場での誘惑
「例の少女が皇宮に来るそうだ」
「へぇ、元帥閣下はお屋敷に閉じ込めているんじゃなかったの?」
「皇帝陛下の希望らしい」
「それなら断れないね」
俺は黒ローブの男と酒場で飲んでいた。
この男は俺が酒を飲んでいると、いつもどこからかふらりと現れては高い酒を奢ってくれる。
酔っ払ってしまうから、いつもはっきりと顔を覚えることは出来ないが、モノクルの向こうで鶯色の瞳が愉悦で煌くのは印象的だ。
「その少女が来るなら、チャンスなんじゃない?」
「……チャンス……?」
「欲しいんだろ?」
そう、欲しい。
あの少女が欲しい。美しい瞳に俺のことだけを映して欲しい。甘やかに俺の名前だけを呼んで欲しい。欲望のままに全てを奪って、俺のものだと刻みつけたい。
「当日、君はどこにいるの?」
「俺は……その日は非番だが……」
「じゃあ自由に動けるね。陸軍の君が皇宮に居たって可笑しくないだろ? 軍服を着て仕事ですって顔して歩いてればいいんだよ。陸軍の誰かに会ったって、仕事が残ってたって言えばいいんだしさ」
「そうだな。……そうだ、近くに行けるかもしれない」
男が俺のグラスにワインを注いでくれる。
次いで自分のグラスも酒で満たすと、弧を描いた口でそれを飲み干した。
「少女を守るのは、どんな人たちかなぁ」
「元帥閣下は側にいるだろうな。あとは副官が二人、他にも護衛がつくか……隠してでも配置すると思う」
「じゃあ、これをあげるよ」
男はテーブルに黒い石のついた指輪を置いた。
銀の土台に楕円の黒い石。装飾など無骨な指輪だが、その石から目が離せない。
「特別だよ」
「これは?」
「きっと彼女には防御の魔法がかけられるでしょ。その防御を壊してくれる指輪。これがあれば彼女に触れられるよ」
「……触れる……」
「連れ去ってしまえばいいんだよ。この指輪があれば、元帥閣下だって君と彼女の魔力を辿れない。どこにも見つからない場所に連れて行って、自分のものにすればいいんだ」
「……俺のものに……」
男の声が甘い毒のように、俺の体を巡っていく。
指輪を受け取り親指にはめると、それは形を変えてぴったりと肌に吸い付いた。指輪から男に目を向けると鶯色の瞳が俺を見つめている。
「彼女を君のものにするんだ」
「……俺のもの……」
「欲望のままに奪えばいい」
鶯色が昏く揺らめく。口元に描いた弧が不気味なのに美しい。
彼女を俺のものにする。連れ去って誰も知らない場所で求め合って、どろどろに甘やかして熱を打ち付ける。
蟲惑的な誘惑に頭がぐらりと揺れる。
他には何も考えられなかった。




