3.再びの成功
妻は先に逝き、子どもたちは自分の道へ進んだ。そしてタタは、ビジネシスの家に、一人残された。その時彼は齢六十七。彼に残されたのは、悲しみと喪失感だけ。
知り合いがいないわけではない。
近くに住むタンパン夫妻。カカカ・マママ・ハハハやアグレッシブ・フォン・アグレッシブなどの商人。
言葉を交わせる者はいた。
だが、それでもタタは救われない。
愛する者たちが手からすり抜けてゆく感覚は、彼の心を蝕み。
彼はいつしか家に引きこもるようになっていった。
タタは何度か、死のうと思った。パトリシアのところへ行こうと、そう考えて。でも、その度にパトリシアの幻影が現れて、タタの行為を制止する。
そうして、タタはついに、死のうとする行為を止めた。
死ねないと悟ったから。
失意の中、孤独に暮らし始めてしばらく。
ふと、転生前のことを思い出す。
忙しさと充実感に満ちているうちはまったく思い出さなかったことを、タタは思い出したのである。
転生する前、まだ現代日本で暮らしていた頃のことを書き記しておこうと、彼はペンを握る。
胸の内にぽっかり空いた穴を埋めるように、タタは文字を書く。
現代日本の暮らしを描いた『future NIPPON』。
それがタタの最初の作品。
十万文字ほどの長編。
ある日、彼はその作品を、かつて親しくしていた商人の一人マーキュリー・ルェーン・フランクルに見せた。
そこには、想像したことさえないくらい便利な暮らしをしている人がいて。マーキュリーは、そこに感動した。そして、「もっと多くの人たちに、これを読ませたい」と言い出す。
マーキュリーが広めたタタの小説『future NIPPON』は、貴族らの間で人気になる。
そして、次作を期待されてしまうタタ。
彼は何作も書く気はなかった。ただ、少し書いてみたいと思って書き始めただけだった。しかし。期待されているなら、と、また次の作品を書き始める。
書いたのは、『頭でっかち』『サスペンダー』『猟奇系女子』『頭でっかちだゾウ』『セッキーガー・トマルァーナイ・ヨールモアールー』など。だが、そこからしばらくは、あまり人気が出なかった。
嫌われるとまではいかないが、人気とまでもいかない作品ばかりで。
だが、七十三歳の終わり。
世界を越える恋愛小説『生まれ変わったマイン』がヒット。
今度は貴族たちの間だけではなく、一般市民にまで人気が出、タタは一躍有名人になった。
それからも、彼は書き続けた。
彼はその時、今までで一番輝いていた。
タタの最初の作品『future NIPPON』は、当時のサンペルグ王女ターシャ・アリアン・サンペルグから、素晴らしい作品だと表彰された。
もう一つのヒット作『生まれ変わったマイン』は、大人気女優ハイネ・アンダリア主演で舞台化され、さらに大ヒット。後にも、主演を変え、何度も公演されたようだ。
かつて冒険家として成功したタタ。
今度は作家として、世にその名を轟かせた。
そして、誕生から八十八年。
彼はこの世を去った。
タタ・パパパ・リロ。
彼の遺作は『あの華』。
戦地タクアンから水の都へ逃れてきた女性トリシアの美しくも切ない最期を描いた、儚く幻想的な物語。
そこに潜む意味は、誰も知らない。
彼自身も、知らなかったかもしれない。