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二刀流

 それはとても単純な答えだった。


「千夏、聞いてくれ! 俺、分かったんだ!」


「何が?」


 ジャージ姿の千夏は、朝からクビにタオルを掛けて食堂へと出向いていた。一緒に生活していると、徐々に女子のガードが下がってくる気がする。


「今まで刀一本で戦ってきただろ。でも、片手で振れるなら……二本持てば良いんじゃないか、って!」


 千夏は眠そうにしている。


「そう、良かったわね。ほら、朝食の時間よ。ちゃんと食べないと力が出ないからね」


「おい待て。そうやって軽くあしらうな。寂しいだろうが」


 面倒そうな千夏は食堂へと入ると、トレーを手にとって朝食を待つ列に並ぶ。俺はその後ろに並び、昨日思いついた方法を語る。


「流石に同じものを二つは用意出来ないけど、安いブレードなら二本で百万! お得だった。買って試そうと思うんだ」


 拠点にある店を見て回ったのだが、そこで売られていたブレード――つまり剣が、百万で売られていた。


「それで今日はモンスターハウスで――」


「まさか買ったの?」


 千夏の驚く顔に、俺は笑顔で頷いた。


「二本使えれば、倒せる量も二倍だ。これで効率アップだ」


 千夏がタオルで口元を押さえ、俺を見て泣きそうな顔をしている。


「太陽……私のために無理をしすぎて」


「なんで泣くんだよ! モンスターが密集した場所で振り回せば、それだけで効率よく倒せるだろうが! ちゃんと丈夫な奴を選んだんだ!」


 千夏が、一度病院に行こうと真剣に言ってくるので、俺は断固として拒否した。






 モンスターハウス。


 手に持った剣は西洋剣のデザインをしていた。


 どちらも同じメーカーの商品で、同じデザインと重量をしている。


 両手に持って扱うと、どうやっていいのか分からない。


「こ、こうやって……ぬおっ!」


 二本同時に扱うのは厄介で、どちらかを補助とするならまだなんとか扱えた。


 しかし、劇的に変わったことがある。


 それは――。


「そりゃっ!」


 その場で一回転すると、刃はモンスターたちを薙ぎ払った。


 片腕では力が入らないのが元の世界だろうが、この世界では人の強さの上限が外れている気がする。


 ブレードを振り回し、次々にモンスターを斬り伏せていく。


 刀は千夏に預けていた。


 流石に背負って戦うときつい。


「段々分かってきたぞ。こうやれば――」


 刀よりも軽く振り回しやすい。


 やはり感覚は違うが、これはこれで良かった。


 気が付けば、モンスターを倒し終えている。


 床に散らばる魔石の山。


 千夏が重そうに刀を持ってきて、俺に預けてきた。


「なんでこんなに重い物を片手で振り回せるのよ」


 生産職ジョブの大人が、二人がかりで持っていたと物を千夏一人で持つのは逆に凄いと思ってしまった。


 ブレードをしまい、刀を受け取る。


 千夏は周囲を見渡して、魔石を拾い集めるのだった。


 俺も手伝っていると、千夏が声をかけてくる。


「……そう言えば、あんたがスキルを使い続ければ成長するとか言っていたわね。アレ、本当?」


 千夏の言葉に、俺は魔石を拾い集めながら答えた。


「本当。でも、俺は戦士ジョブしか経験していないし、他は分からないや。ジョブを外しても、スキルとかは残るんだっけ?」


 ジョブを付け替えていく事にメリットがあるとすれば、まさに【スキル】の持ち越しだろう。


 ジョブを変更していけば、使えるスキルが増えるのだ。


「残るから、こうやってトラップの処理とか出来るのよ。でも、使い続ければ成長するのかしら?」


 俺に戦わせてばかりで負い目を持っているのか、千夏も自分に出来る事を考えていた。


「技量を磨きたいスキルでもあるの?」


「使い続ければ慣れる、っていうのは理解出来るのよ。ただ、本当に強くなるのかと思ってね。私はジョブを変更したばかりだから、まだ慣れないのよ。太陽は別みたいだけど」


 慣れるも慣れないも、俺には攻撃スキルが一つしかないのだ。


 これを鍛える以外にする事がない。


 拾い集め、俺たちはそのまま休憩に入る。


 ただ、この階層は寒い。


 持ってきた防寒着を羽織る。


「……体を動かしていないから寒いわ」


 千夏がそう言うと、俺は掌を天井に向ける。


「何? 何かの催促?」


「俺をどんな目で見ているか聞いておきたいところだが、今は許してやる。俺の魔法を見せてやろう」


 掌に集中し、呪文を唱えると掌の十センチ上に火球が出現した。


「嘘、魔法が使えたの?」


「参考書を買って覚えたんだ。まぁ、これしか使えないけどな」


 火球に手を寄せる千夏は、暖かいのか顔の表情が緩んだ。


「便利じゃない。私にも教えてよ」


 ただ、ここで俺は千夏に教えなければいけない。


「教えるのは良いけど、俺はこいつを覚えるために二年かかったぞ」


「……え?」


「木刀を振り終えて、疲れたら部屋で毎日魔法の練習だ。魔法職じゃないから覚えは悪いし、扱いは難しいし、応用も聞かないし……それでもいいなら教えてやる」


 二年目にして小さな火が出現した時は、感極まって泣いてしまった。


 ただ、魔法職――専用ジョブを持っていないために、サポートを受けられないから実戦では使えなくなっている。


 魔法自体は覚えられる。流石は、剣と魔法のファンタジー世界だ。


 ただ、使いこなすためには、普通に魔法使い関係のジョブが必要という……。


 そして、数分後には火球の炎も消えた。


「……太陽?」


「もう限界。ジョブのサポートがないと、本当にこの程度しか使えないの。オマケに、二年かけて気が付いたのは、ライター一本あれば十分という落ちだ。宴会芸にもならないからな。それでも覚えるか?」


 千夏が俺から目をそらした。


「……ごめん。太陽も色々と頑張ってきたんだね」


 実は魔法の才能があるのかも知れないと、やることもないので毎日のように練習していた。


 結果がこれでは笑い話にもならない。


「もう少し休んだら二度目を始めるか。その前に、この周辺の通路のモンスターも退治しておきたいし」


 いつかは……剣と魔法を操り、華麗に戦い無双したいものである。






 二度目のチャレンジ。


 両手にそれぞれ握ったブレードを振るい、次々にモンスターたちを斬り伏せていく。


「やっぱり効率が違う。このまま行けば、今日は四回目のチャレンジも――」


 調子に乗って振り回していると、ブレードの感触が変わった。


 刃がモンスターを斬り裂くが、その感覚がおかしい。


「なんだ?」


 今までになかった感覚だが、左手に持ったブレードの感覚がおかしい。


 妙だと思いつつも使用していると、次第に右手に持ったブレードも感覚が変わった。


 ハッキリと違和感がある。


 妙に胸騒ぎがしてくる。


 とにかく急いでモンスターたちを倒そうとすると、先に左手に持ったブレードが――折れた。


 最新の素材ではないが、それでも頑丈で軽いとか言われていたブレードが簡単に折れてしまった。


「嘘ぉぉぉ!」


 二本で百万。


 一本五十万もするブレードが、簡単に折れてしまうとか想像もしていない。


 そのまま右手のブレードで戦うが、右手に持ったブレードも折れてしまった。


「……騙されたぁぁぁ!」


 俺が絶叫すると、千夏が入口に来て俺に刀を渡してくれた。なんとか切り抜けることが出来たが、まさかこんなに脆いとは思わなかった。


 メーカーに文句を言ってやる!






 地上に戻った俺は、メーカーが道具を販売しているテントにやってきた。


 折れたブレードを見せると、店員が俺の顔を見て淡々と告げてくる。


「いや、販売するときに中古品はサービスの対象外だと言いましたよね」


 ソレは分かっている。


 分かっているが、一日で折れるとかおかしい!


「たった一日で折れるのはおかしいでしょう! 二本とも折れたんですよ」


 店員は俺をクレーマーだと思ったのか、態度が悪い。


 折れたブレードを手にとって確認している。


「そんなはずはありませんよ。中古品ですが、しっかり整備だって……あ、あれ?」


 店員の目が見開かれ、道具を取り出すと色々と調べ始めた。


 そして俺の顔を見る。


「……お客さん、これは昨日お売りした商品で間違いありませんよね?」


 何を言っているのか。


「間違いないよ。柄のところの番号とか調べれば良いだろうに」


 店員が大急ぎで製造番号を確認し、俺に売った記録を確認すると頭を抱えていた。


「申し訳ありません。どうやらこちらのミスのようです」


「ほら! ほらぁ!」


 こちらは命懸けの冒険者である。


 中古でも、売るなら最低限度の整備をして欲しい。


 店の中では千夏も商品を見ていた。


「おかしいな。こんなにボロボロになるなんて……あの、失礼ですが、どのような使い方を? どんなモンスターをどれだけ倒したとか教えていただけると助かります」


 俺はブレードを使用した回数を頭の中で思い浮かべた。


「う~ん……片方ずつで二百とか?」


 俺の言葉を聞いて、店員がドン引きしていた。


「い、一日で、ですか? 一日で二百体も!?」


「一日で。だって使っている途中で折れるから」


 俺がそう言うと、店員が叫んだ。


「折れるに決まっているでしょうが!」


 店員が接客業である事を忘れ、頭を抱えるようにして叫んだ。


 後で聞いたのだが、倉田先生曰く明らかに俺の方が悪いらしい。


 店員さんからも話を聞いたが、俺の希望に添うブレードを探そうと思えば、一本で最低でも三百万からと言われた。


 自信を持って大丈夫と言える商品に関しては、一千万より上のクラスだと言われてしまう。


 ……そんなブレードが買えるかよ!






 ダンジョン内。


 俺は相棒となった刀を握りしめ、語りかける。


「やっぱりお前が一番だ」


 そんな俺を見て、涙を流しそうな千夏。


 別におかしくなったわけじゃない。


 それにしても、二本のブレードを破壊してしまった。おかげで、この前のダンジョンでの稼ぎは赤字である。


 あの認識出来ない存在の言う通り、俺の持っている刀が実は素晴らしいのかも知れない。


 俺は通い慣れたダンジョン内の道を、いつもと違う方向へと進む。


「太陽、今日はモンスターハウスに行かないの?」


「あぁ、モンスターハウスはもう卒業だ。これからは――」


 千夏を連れて先に進む俺は、更に先へ――階段を降りて、更に地下深くに進んで行く。


「ちょ、ちょっと、太陽!」


「安心しろ。何が来ても俺が守ってやる」


「あんた、時々変な事を言わないでよ! こっちは――」


 ゴニョゴニョと何か言っているが、俺たちを照らしているドローンが警戒音を発した。


 刀を抜くと、見えてくるのは四本脚の武者だった。


 下半身は馬。


 上半身は人で、鎧兜を身につけている。


 槍を持ち、血走った目が俺たちを見ていた。


 その後ろからは、ゾロゾロとモンスターたちが出現してくる。


 千夏が驚く。


「こいつ、厄介な奴だって聞いたわ。太陽、どうするの?」


「俺は運が良い」


「は?」


 刀を持って前に出ると、モンスターたちがこちらに向かってくる。


 目の前にいるモンスターは、地下十四階以降ではかなり強い部類だった。


 槍や刀、そして弓まで扱う。


 モンスターたちを引き連れ戦うので、冒険者たちが出会いたくないモンスターだ。つまり、それだけ冒険者を倒してきたモンスターでもある。


 やはり、強くなるには強い奴と戦うしかない。


 刀を持って駆け出すと、鎧兜を着用したモンスターも槍を突き出してくる。その鋭さは、他のモンスターと比べて恐ろしかった。


 槍の一撃が頬をかすめ、少しだけ血が舞うと俺はそのまま下半身の馬の部分を横に斬り裂く。


 直後、矢が数本飛んできた。


 一本は刀で叩き落としたが、もう一本はベストに穴を開ける。


 ただ、運が良いことに体には当たらなかった。


 矢をそのままに、他のモンスターたちを斬り伏せながら鎧武者たちに向かう。


 気を抜けば死んでしまうと分かってはいるが、こいつらを倒して先に進めなければ、黒虎など倒す事は不可能だ。


「お前らを倒して、俺は先に進ませて貰う」


 吐く息が白く、殺意のこもった一撃を避けながら敵に向かう。


 千夏が援護をしてくれているので、雑魚は倒してくれる。


 弓矢を捨てて、刀を抜いて俺に左右から斬りかかってくる鎧武者たち。


 連携が出来ているだけで、厄介さは跳ね上がってくる。


 ただ、それらを力でねじ伏せてこそのチートだろう。


 頭の中に閃くのは【真空一刀両断】という言葉と、どのように使えば良いのかという使い方だった。


 刀の間合いに入る前に、俺は横に刀を振るう。


 鎧武者たちが笑みを浮かべていたが、そのまま炎に包まれ消え去る。


 十年間の成果か、それともここに来てようやく開花したのか。


 更に俺は先に進む事が出来た。


「戦士ってジョブも悪くないな。出来る事が限られているから、シンプルで良い」


 間合いを広げ、モンスターたちを斬り裂けるようになった。


 これ一つで事足りると言われていたが、まさにその通りだろう。


 次々に襲いかかってくるモンスターたちを、俺は複数同時に斬り伏せられるようになったのだから。


「どうだぁ!」


 調子に乗って振り回していると、雑魚の中に強敵がいたらしい。


 人の姿――下半身も人の鎧武者は、身長が二メートルを超えて大きな刀を持っていた。


「あ、まずい」


「太陽、あんた馬鹿なの!」


 先程の騎馬武者よりも存在感がある鎧武者は、大きな声を出しながら俺に斬りかかってきた。


 その一撃を受け止める。


 流石に、間合いが広がった部分は威力も落ちるのだろう。刃で斬るのが一番と言うことか?


「でかいからって調子に乗るなよ」


 力を振り絞ると、巨体であるモンスターを押し込んでいく。


 ガリガリと刃同士が擦れ合い、火花を散らすが俺の刀には傷一つついていない。


 押しのけ、そして胴を横に斬るように刀を振るうと、相手が血をまき散らす。


 それだけでは倒れないのか、雄叫びを上げ俺に突きを繰り出してきた。


「やってやんよ!」


 まるで刀の扱いに慣れているかのような鎧武者を相手に、俺はそのまま戦い……勝利するのだった。


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