第2話 「教室」
朝からけたたましいセミのせんずり声を聞きながら俺は登校する。
いつもは耳障りな蝉鳴りが今日はR&Bに聞こえた。まるで宇多田ヒカルがセミ達。
これは明日から夏休みというお膳立てがあるからだろう。
夏の風物詩でもあるセミ、夏休みであるのとないのとではその存在の良し悪しが明確化するセミ、鳴き声はするのにその姿は闇の中のセミ、今まさに俺の口の中へ入ろうとするセミ、
おっと、セミを食べてしまうところだった。
まず教室に入ると、クラスで一番かわいい少女とすれ違った。
当たり前だが無視だ。
念のために言っておくが、俺が無視ではなく彼女が俺を無視という意味だ。まあ、俺に挨拶なんてしてくるわけがない。その長い髪、切ってやろうか。
俺の席は一番後ろだ。この席から黒板の字が見えたためしがない。見えたからと言ってモテ男になれるわけでもないからそんなに頑張らなくても良い問題ではある。
俺の席は窓側だ。この席からは運動場を走るブルマー達が良く見える。見えたからと言ってモテ男になれるわけでもないが、頑張ってしまう良い問題だ。
昨日、ヨドバシカメラで双眼鏡を購入した。最近の双眼鏡は安いわりに高性能だったりする。
俺は自慢の双眼鏡をカバンから出そうとしたが、
ない。
双眼鏡がない。
誰が盗んだ?
俺のカバンからわざわざ双眼鏡を盗んだ奴らめ。
首を切ってやる。
血がドッパドッパ出るまで首をちょん切ってやる。
そういえば今日の朝、母親が買ったばかりの包丁で玉子焼きを切っていた。
その買いたて包丁で切ってやる。
グサグサにしてやる。
ふと俺はあることに気づいた。
明日から夏休みだ。
今日はその夏休みから1をひいた値になるわけで、終業式だ。
終業式の日にブルマーで運動場を走りまわるバカがいるか?
いや、いまい。
そんなバカでもかわいけりゃ夜を共にしてはみたいが、まず、現時点で運動場を回転する奴はいない。
となると、双眼鏡もいらない。
そうだ。俺は双眼鏡を家に置いてきたんだった。
なーんだ、なーんだ、そーだったんだ。
僕はちょっと微笑みました。