第一章 第八話:再会
運営からR18だと言われてしまったので変更しました。
これで大丈夫なはず……。
(なんて言おう。)
俺は少し迷っていた。
さっきまで早足になるのを我慢していた足が自然と鈍る。
何せ彼女にとっては3年振りの俺なのだ。
おまけに俺はもう死んだと思っている、多分ね。
ちゃんと俺であることを証明しないとならないだろう。
これが元の人間の体ならさっさと顔を見せて終わりなのだが、今はこの体だ。
流石に俺の頭蓋骨の形まではわからないだろう。
・・・むしろわかったら怖いわ。
というわけで俺は少し困っていた。
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街外れに向かう。俺と彼女の家があるエリアだ。
あ、まだ同棲してるわけじゃないよ?
俺の実家と彼女の実家が両方あるエリアね。
同棲する家は俺が帰ったら2人で決めようって約束してあるんだ。えへへ。
俺は商店のあるエリアを進む。
(人が多いな)
やけに人が多い気がする。3年で街の経済も上向いたのだろうか?
奥に見える大きな防具屋を右に曲がると目的のエリアだ。
俺は通り過ぎるついでに店先に飾られている鎧を眺める。
(新しいの欲しいなぁ)
門番にも言われた通り、この鎧ももうボロボロだ。
同じやつなら支給してもらえるだろうけど、やっぱり自前のいい奴が欲しい。
自前のいい武具を使うのはちょっとしたステータスなのだ。
結婚して幸せいっぱい、そのままの勢いで武具も揃えたいものだが・・・。
(うちの女神さまは許してくれないだろうなぁ・・・。)
これからはもっと仕事頑張ろう。出世してもっと給料もらうんだ。
そしたらきっとOKしてもらえるさ。
そんなことを考えながら防具屋を右に曲がる。
いよいよだ、待ちに待ったエリーゼとの再会の・・・。
「え?ない?」
思わず声が出た。
周りに怪しまれていないかと慌てて周囲を探る。
大丈夫、誰にも聞かれていなかったみたいだ。
改めて進行方向を見直す。
無い。
そこに自分が見慣れた景色は無かった。
(カジ、ノ?)
自分が知っている家々の代わりに、バカでかいカジノが建っていた。
なんだこりゃ。
「あのー、すいません」
「ん?なんだい?」
通りがかりの人を見つけたので早速聞いてみることにした。
「知り合いを訪ねてきたんですけど、このあたりって前は人が住んでませんでした?」
そう言ってカジノを指さす。
「ああ、2年ぐらい前に新しい領主の方針でカジノになったんだ。住んでた人たちは他の場所に家をもらったみたいだね」
「それってどの辺ですか?」
「さあね。場所はみんなバラバラだったらしいけど、それ以上はわからんね」
この街の一体どこへ移動になったのか。
他にも何人かに聞いてみたが何もわからなかった。
(どこへいったんだ・・・)
この街のどこかにいるはずの女神を探して夜まで歩き回ったが、手掛かりは見つからなかった。
その日は路上で時間を潰した。
雨の匂いがしていたので夜に降るか、と思ったら降らなかった。
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翌日、朝から街中を歩き回った。
あまり目立つと衛兵がきそうなので控えめに聞き込みをする。
手掛かりになりそうな情報は得られない。
他人のプライベートな事情まで把握している人間は多くないということだろう。
その日は収穫ゼロだった。
再び路上で夜を過ごした。
さらに翌日。
自分の実家や近所に住んでいた誰かを見つければ芋釣り式に見つかる、
そう思って肉屋、八百屋、魚屋、人が来そうな場所に張り込んで知っている顔を探した。
だが目当ての顔は一つも見つからなかった。
がっくりだ。
焦りが増してくる。
時刻はすでに夕暮れ時。再び日が落ちようとしていた。
(屋根の上から探そう。見つからなきゃそのまま横になれるし。)
そう思って防具屋の後ろにある家の屋根にこっそり登る。
横には例のカジノの門が見える。
と、ちょうどそのときだ。
カジノの門が開いて馬車が出てきた。
(高そうな馬車だな。)
そう思って何気なく乗っている人を見る。
(エリー、ゼ?)
間違いない。エリーゼだ。
なんであんなものに乗っているのかわからないが、間違いなく彼女だ。
馬車はそのまま走っていく。
「エリーゼ!」
俺は馬車を追いかけて屋根から屋根へと飛んでいった。
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馬車は街の中央に建つ、ある建物へと入っていった。
(領主の、館・・・?)
ネアンドラの領主ハプトラバス伯爵の館だ。
領主が変わったらしいから今は違うのかもしれないが。
一体どうして彼女がこんなところにいるのか。
俺は見つからないように館に近づいた。
館の入口には門番が2人、馬車はその奥に止まっている。
(エリーゼはあの中にいるのか)
俺は館の裏側に回った。
焦りは禁物だ。日が落ちたら忍びこもう。
俺は辺りが暗くなったのを確認してから塀を超えてひっそりと館の裏庭に入り込んだ。
近くの茂みに身を隠す。
(エリーゼ、どこだ。)
館から漏れる明かりの中に彼女らしきシルエットを探し始めた。
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もう何時間経っただろうか。
途中で何回か巡回に来た兵士をやり過ごしつつ、俺はあきらめずにエリーゼの姿を探していた。
そして、
(あれか!?)
俺は仮面を外して注視した。
見つけた。間違いない。
3階建ての一番上の部屋だ。彼女の姿が見える。
これから寝るのだろうか?ローブっぽい服を着ている。
(エリーゼ・・・。)
女神の場所がわかったので早速向かおうと立ち上がったとき、
(・・・え?)
一人の男が彼女の横に歩いてきた。
彼女が男にゆっくり抱きつく。
2人はそのまま熱い口づけを交わした。
俺は立ち上がったまま固まる。
一体、俺は何を見ているのだろうか?
エリーゼ。俺の女神。婚約者である彼女は俺の視線の先にいる。
間違いない。
男の影が倒れこんで見えなくなった。
あそこにベッドがあることは想像に難くない。
今の俺に見えるのはエリーゼの影だけだ。
男が横になっているであろうベッドの上で、彼女のシルエットが踊っている。
二人が何をしているかのなど、もはや言及の必要もないだろう。
これは、なんだ?
あいつは、何をしているんだ?
3年振りの再会。
死んだはずの俺が帰ってきて、あいつが驚いて、泣いて喜んで。
そうなるはずじゃ無かったのか?
元の体に戻って、結婚式を挙げて、2人で新しい家を借りて一緒に住むんだ。
なあ、そのはずだろう?
子供は2人。男の子と女の子で、男の子は俺に似てバカやって、女の子はお前に似てしっかりさんなんだ。
なあ、そうだろう?
家族のために頑張って働いて、疲れて帰ったら家族みんなで向かえてくれるんだ。
なあ。エリーゼ。
違うのか?俺だけだったのか?
俺だけが一人で勝手に・・・。
ポッ、ポッと雨粒が空から落ち始めた。
落ちた一粒が頬に当たる。
普通の人間であれば涙が伝うであろう場所を、雨粒が代わりに流れていく。
雨粒の数はどんどん増え、すぐに土砂降りになった。
雨音が全てをかき消していく。
ベッドの上の嬌声も、立ち尽くす骸骨兵の泣き声も。
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次の日の朝。
空は快晴、骸骨兵の姿は雨と共に消え去っていた。