第一章 第七話:3年
誤字脱字を直しました。(気づいたとこだけ)
「大丈夫か?」
俺は投げた剣を回収してから芸者たちに声をかける。
男4人に女3人。
男の方は無難な感じだが、女の方は3人とも目のやり場に困る衣装だ。
仮面をつけているのをいいことに横目でガン見する。
(眼福♪眼福♪)
おっといかん。これは違うんだエリーゼ。違うんだって。
俺は自分の脳内エリーゼに言い訳した。
「あ、ありがとうございます」
「「「「ありがとうございます」」」」
一番年上らしいお姉さんを皮切りにみんな一斉に声を上げる。
「取り合えずヤバそうだったんで助けに入ったけど、夜盗かな?」
「ええ、ここ2~3年はぐらいからですね。3年前に警備隊がいなくなってからは物騒になりましたよ。」
芸者の長らしきおっさんが答える。
(警備隊がいなくなった?)
「あの、お名前を聞かせて頂けませんか?」
お姉さんが近寄ってきたので内心ギクリとする。
暗いとはいえ、あまり近寄られると仮面の隙間から正体がバレそうだ。
(それに・・・。)
顔はそのままで気づかれないように目線だけを下に下げる。
(なんて危険な谷間だ・・・。)
「アルフレッド、です。」
「アルフレッド様、助けて頂いて本当にありがとうございました。私はヒルダと言います。よろしければお顔を見せて頂けませんか?」
「え?かっ、顔ですか?」
(マズイマズイマズイ)
「いっ、今は別の任務中ですので申し訳ありませんが・・・。」
「そう、ですか、すみません」
「いえ・・・。」
(あれ?なんか変なふいんきになったぞ?)
ヒルダさんが一気にしょんぼりしてしまった。
「あー、皆さんはこれからどちらへ?」
「そこのポトールイまでです。道中でも何度か襲われて、雇った護衛を全員やられてしまいまして・・・。」
今度はおっさんが困り顔で答えてくれた。
おっさんの指さした先には街の明かりが見える。
「それは大変ですね。ポトールイまでなら送りましょうか。俺もその方向に行きますし。」
「いや、しかs「よろしくお願いします!」
おっさんを遮って、ヒルダさんが復活。
その後ポトールイまで芸者さん達と世間話をしながら移動した。
芸者さん達というか、俺の横にいたヒルダさんと色々話したと言ったほうがいいかもしれない。
気になる話を幾つか聞くことができた。
-----------------------------
芸者さん達と別れ、途中で鎧を洗ってから、俺は再び夜道を走っていた。
思い出すのはヒルダさんの凶悪な谷間・・・じゃなくて、警備隊がいなくなったという話だ。
ちょうど3年前の今頃にドラゴンゾンビ討伐に行った警備隊が消息不明になったらしい。
間違いなく俺たちのことだ。
(3年前・・・か)
あの光を浴びてから目覚めるまでに3年も経っていたとわかって内心動揺を隠せない。
このことは当然エリーゼにも伝わっていたはずだ。
(なんてこったい)
彼女は今どうしているだろうか。
直ぐに帰ると言って出発した俺が帰って来ない、それを知ってどんな絶望に落とされたのだろう。
どんな3年間を過ごしたのだろう。
(急がないと)
急いで知らせないといけない。
俺が生きていることを。
俺はすれ違う人達に目もくれずに走り続けた。
-------------------------------
あれから4日、昼夜を問わず全力疾走したおかげで、もうすぐ故郷の街ネアンドラに到着だ。
(エリーゼ!)
早く会いたい。
その一心だけだった。
もはや自分の体が骨だけになったことなど、どうでも良くなっていた。
すれ違う人の数も増えた。
何事かとみんなが振り向く。
そりゃそうだ。
戦支度をしている奴が全力疾走してるんだから。
何かあったと思うだろうな。
(・・・見えた!)
自分の感覚では約2か月ぶりの故郷。
みんなにとっては3年ぶりの俺。
一雨きそうな雰囲気なのが残念だが、まあ大したことじゃない。
女神との再開の時は近い。
------------------------------
故郷まであと数百メートルまで来たところで、俺は足を止めた。
流石にこの装備で駆け込めば衛兵の連中に止められる可能性が高い。
そうなればこの体のこともバレてしまうだろう。
なるべく自然な感じで街に入らなければならない。
(エリーゼ!)
いる。そぐそこに。
あと数百メートルの距離に彼女がいる。
俺は焦る気持ちを必死に抑えてゆっくりと歩き始めた。
街の門まであと少し。
横を行商人の馬車が通っていく。
先に街に入っていった。
俺は両側の門番と目を合わせないように門に近づいていく。
門番達がこちらを見ているのがわかる。
俺は気が付かない振りを続けた。
ここで変な素振りを見せれば止められる。
あくまでも普通に、自分が止められるとは夢に思っていないように、だ。
そして、ちょうど2人の門番の間に差し掛かったとき、
「おい、あんた」
俺の右側の門番に声を掛けられた。
(!)
内心の動揺を押し殺す。
「ん?ああ、俺か?何か用か?」
声を掛けられて意外そうな調子を取り繕う。
「随分とボロボロだな、仕事中か?」
「まあな、いいように使われてるよ」
「はっは、そりゃ難儀だな」
男は苦笑いする。
この仮面のおかげでまだ仕事の最中だと思われたそうだ。
一応聞かれたらそう言うつもりだったが、相手の方から勘違いしてくれた方が騙しやすい。
俺は右手を挙げてその場を後にした。
(うまくいったか・・・。)
既に失ったはずの心臓がバクバクいっているような気がした。
残るは愛しの女神と感動の再開だけだ。