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最終話:Skelton Hurts & Skelton Hearts

 騒動の夜が明けた朝。

人々は自分の命が助かったことに安堵しつつも、危機が去ったことに半信半疑となっていた。

犯人達の正体、そしてその目的は未だ不明。

犯行声明の類は出されていないが、犯人と思われるようなそれらしい死体が見つかっていないことから、彼らは未だ健在と思われており、飛び交う様々な憶測が人々を恐怖させていた。

 

 そんなネアンドラの街に、一人のスケルトンが立っていた。

左腕は肩から先が無くなっており、鎧はヒビだらけ。

兜を失った頭部にも亀裂がいくつも入っている。


 彼の名はハンス=アーバン。

この街で生まれ育ち、幸せを目前にしていた男だ。


 彼は今、誰もいない噴水の前にいる。

今から二十年前、彼はここで愛する女性にプロポーズした。

返答はもちろんイエス。

まさに幸せの絶頂期だったと言える。

腐竜討伐戦に参加したのはその直後。

そしてスケルトンの体となって目覚めたのはその二十年後だ。


(リリーを助けられた。……それで十分だ)


 ハンスは昔を思い出しながら自分に言い聞かせた。


 リリーを殺そうとしたアルフレッドを間一髪で止めた直後、彼はその勢いのまま大きな川に飛び込んで力尽きた。

水の底で目を覚ましたのはちょうど日が昇り始めた頃だ。

とりあえず陸に上がったハンスは、近くにこの噴水があったことを思い出すと吸い込まれるようにここまで来た。

本当はリリーの家に行って無事な姿を確認しておきたかったが、この格好ではそれも難しいだろう。


(出直してくるか)


 そう思って踵を返したハンス。

その視界先には、いつの間にか一人の女性が立っていた。


「……リリー」


 ハンスは思わず彼女の名を呟いた。

リリー=マルレーン。

ハンスが二十年前にプロポーズした相手。

腐竜討伐の一件がなければ、結婚していたであろう相手。

 

 そして――。


 この二十年間、ずっとハンスを待ち続けていた女性だ。


「ハンス……」


 リリーが恐る恐る踏み出した。

初めは一歩ずつゆっくりと。

やがて待ちきれないような走り出した。


「ハンス!」


 リリーはどうしていいかわからずに戸惑っていたハンスの胸に飛び込んだ。


「リリー……、どうしてここに?」


「わからないわ。でも、なんとなくあなたがいる気がして……。ハンス、本当にハンスなのよね? そうでしょ? あんな風に私を守ってくれるのなんてハンスしかいないもの! ねえ、そうだと言って!」 


 まるで嘆願でもするかのように矢継ぎ早に出てくる言葉。

その瞳からは涙が溢れている。

ハンスはそんな彼女を残った右手で恐る恐る抱きしめた。


「ああ、俺だ。俺だよ。ハンスだ」


 その言葉を聞いたリリーは再び飛び込むようにハンスの胸に抱き着いた。


「ごめんなさいハンス! 私、最初に言われた時は信じられなくて……」


「仕方ないさ。こんな体になっちまったんだ。信じられなくたって……」


「ねえ、ハンス?」


「ん?」


 リリーはハンスから体を離すと、涙を拭って正面から彼の目を見た。

 

「その……、私、やっぱりあなたのことが好き……、愛してる。だから……、私のこと、貰ってもらえないかしら? もう、こんなおばさんになっちゃったけど」


 一瞬だけ、ハンスの時が止まった。


「な、なに言ってんだ……」


 自分をまっすぐに見つめるリリーの瞳。

それを意識するだけでハンスの胸が高鳴る。

年をどれだけとったところで、彼にとって彼女が最高の女であるという事実は微塵も揺らがない。


 ――揺らぐわけがない。 


「それを言ったら俺の方こそ……、こんな骨だけになっちまった。……いいのか? 俺で……?」 


「……うん」


 それを聞いたハンスはゆっくりと跪き、右腕をリリーに差し出した。


「リリー。二十年も待たせて悪かった。改めて言うよ。……俺と、結婚して欲しい」


「……うん。……うん」


 ハンスの手をとったリリーの瞳から再び涙が溢れ出した。

何度も、何度も頷く。

ハンスは立ち上がりながら彼女を引き寄せ、そしてやさしく抱きしめた。


 二十年。


 その年月は偽物の愛を暴くには十分長く、本物の愛を引き裂くには少々短すぎた。 

 

 ……結局、それが現実だったということなのだろう。

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