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第一章 第六話: ねずみ?

翌日、日の出と共に俺は走り出した。


息切れしない、食わなくていい、眠らなくていい、俺はこの体を少し気に入り始めていた。


そんなときだ。


進行方向にある草がガサゴソと揺れる。


(・・・!)


俺は急停止、腰の剣に手をやる。


大型ではなさそうだ。

また狼だろうか?


ガサゴソ、ガサ


俺は出てきた獣を注視した。


(!これは!)


出てきたのは『多分』ねずみだ。


(ねずみ・・・だよな?)


原因は通常のねずみが持っているスマートな部分を全て捨て去ったかのようなフォルムだ。

短い足、低い鼻、たっぷりとついたお肉。

簡潔にいうと、すごくでぶでぶしている。

しかもこいつの表情。

媚びることなどまったく知らなさそうな天然フェイス。

悩みなんて無いと言わんばかりのふてぶてしさだ。


要約しよう。


(大変かわうい)


・・・そういうことだ。


とっとっとっ、とアホの子ほどかわいいオーラを纏った生物が俺の前を横切っていく。

俺には気が付いてなさそうだ。


通り過ぎるのをじっと待ってる俺。

なんだこの光景。

エリーゼがいたら「何してるの?」って突っ込まれそうだ。


ねずみ?が通り過ぎたので俺は再び疾走を開始する。


いざ行かん、女神の元へ。


-------------------------------


森の中を移動し始めてから5日目。

俺は田舎道を走っていた。


行商人や旅人達がよく使う道だ。

この道をまっすぐ行けば街までいける。


(エリーゼに会える。)


あのねずみ?以降は人にも獣にも遭遇していない。

俺は人里恋しさが極まっていた。


そう、そんなときだ。

正面から人が来るのを見つけたのは。


------------------------------


正面から来るのは1,2、3,4,5人だ。

服装からして恐らく冒険者か賞金稼ぎあたりだろう。


特に話すことはない、このままスルーしよう。

そう思って道の脇の方を走る。

これで相手は道の反対側に寄ってくれるはずだ。


両者の距離が詰まる。

突然、相手の集団が剣を抜いた。


(・・・!)


こちらも足を止めて腰の剣に手を添える。


「ちょっと待ってもらおう!」


集団の一人が声を上げる。

その間に俺は5人を観察した。

若いわりにはかなりいい装備を着けているようだ。金持ちの坊ちゃん達か?

動きが少しぎこちなく、実力で手に入れた装備とは思えなかった。


「何か用か?急いでいるんだ」


「我々はカンターレ商会のものだ。先日、兵士の格好をした動く骸骨が出たと聞いて討伐に来た。

お前がそうか?」


内心でギクリとする。

ええそうです、私のことです。


報告したのはこの間の荷馬車の連中で間違いないだろう。

助けなきゃよかったかもしれない。


(どうしよう・・・)


相手は5人とはいえ、その気になればこの場で全員口封じできそうだ。

とはいえ、今後のことを考えると、良い手とは言えないだろう。

ここは誤魔化すことにした。


「それが髑髏の格好をした兵士のことなら多分俺だ。兵士の格好をした骸骨は知らないな。」


そう言って髑髏の仮面を指さす。


それを聞いた5人の雰囲気が緩む。


「なんだよ勘違いかよ」


「おかしいと思ったんだ」


(うまく誤魔化せそうだ。)


「もういいか?急いでるんだ」


「あ、ああ、もう十分だ。呼び止めてすまなかったな。」


その言葉を聞いて、俺は再び走り出す。

全力疾走だと怪しまれそうなので、疲れたふりをしながらだ。

藪蛇になりそうなので振り返らない。

俺はそのまま走り去った。

男5人の相手なんてしてる場合じゃないさ。


-------------------------------


その日の晩、俺は森を抜けた。

もう月明かりを遮るものはない。

これで夜も走り続けることができる。


(エリーゼ・・・。)


俺は愛する女神のことだけを一心に考えて走っていた。


そのとき、


「きゃあ!」


「やめろっ!やめてくれ!」


明らかに誰かが襲われている声がした。

月明かりの下とはいえ、遠くからでは何が起こっているのかよくわからない。

音のする方向へ走る。


(これは・・・。)


恐らく旅の芸者だろう。

夜盗らしき連中に襲われていた。


迷うまでもない。

俺は剣を抜いてこちらに背を向けている夜盗に向かって突撃、背中を切りつける。


ビュッ!


「ぎゃあ!」


ドス!


切られた痛みで夜盗の体が反り返ったところへ、そのまま心臓を突き刺して止めをさす。

剣を抜くと勢いよく血が飛び出した。


「なんだっ!?」


態勢を整えられると分が悪い。

俺は急いで2人目に切りかかる。


「うおおおおお!」


「くっ!」


ガッ!グシュ!

力いっぱいの袈裟切り。防ごうとした相手の短刀ごとぶった切った。

これで2人。残るは・・・1,2,3人か。

俺は芸者たちと残りの夜盗たちの間に入る。


「何だお前は!」


「たっ、助けて!」


夜盗たちも芸者たちも俺の乱入に混乱しているようだ。

それでも俺が芸者たちの味方をしていることはわかったらしい。


夜盗達がこちらに武器を向ける。

既に2人がやられたのでかなり警戒しているようだ。


(当たり前か)


横目で芸者たちを見る。

女の人たちは結構きわどい衣装だ。

これはこれで襲われても仕方が無い気もする。


俺は剣を前に構えてゆっくりと夜盗達との距離を詰めようとする。

それに押されて相手はゆっくりと下がる。


一番手前の男が後ろ足を地面につけたタイミングで俺は一気に突撃する。

相手は虚を突かれて少しバランスを崩した。

苦し紛れに短刀を横一閃。

俺は体を屈めて短刀を躱す。


今度は俺の番だ。

曲げた体を思い切り伸ばした反動で相手の喉に剣を突き刺した。


すぐに剣を抜く。


ゴポッ!

喉から泡立った血が飛び出した。

男は喉を抑えて倒れていく。


残りの2人を視界にとらえる。

一番奥にいるやつは逃げようと体を翻すところだった。


グシュ!


手前のやつに肉薄、横一閃、喉を切る。


「ぐっ!」


そのまま横に一回転して剣を投擲。

狙い通り逃げだしたやつの背中に突き刺さった。


倒れ始めるのを確認しつつ腰の短剣を抜く。

横のこいつにとどめだ。

心臓に短剣を突き刺す。


少し硬い。


(皮の鎧か。)


それでも肉の感触と鼓動が手に伝わる。

ビクッと1回痙攣した後、男の体から力が完全に抜けた。




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