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第三章 第三十話:永遠の愛と運命の赤い糸

 キンッ、キィンッ!


 甲高い金属音が夜の街に響く。

それは東門でトムとアルバンが奏でたような、あるいは北門でエリアスとマルティが打ち鳴らしたようなものではなく、もっと繊細だ。

武器は双方とも普通の剣。

トム達のように常人では持ち上げることも敵わないような代物ではない。

身体能力や剣の技術も含め、本人達の戦闘能力もほぼ互角。

大きな差がつくとすれば――。


(メイスですか……)


 右手に剣を持った二人。

だが左手に持った装備はまったく異なる。

バックラー、つまり小型の盾を装備したロンに対し、トーマスはその手にメイスを握っていた。

  

(この体には斬撃よりも打撃の方が効果的……。なるほど、最初からそのつもりですか)


 剣と違い、メイスはあまり世の中に出回っていない。

もしかすると近所の武器屋から直前に調達した可能性もあるが、それを含めてもこういう事態を想定していなければ使うような武器ではない。


 ガァン!


 ロンは頭部を襲ってきたメイスをバックラーで受けた。

金属製なので割られる心配はない。


「しぶといっすね。さっさと降参してくれていいんすよ?」


「そっちこそ!」


 キィン!

 

 お返しとばかりに首の骨を折りにいったロンの剣を、トーマスは自分の剣で受け止めた。

 

「もう一人残っていたんでしたっけ? こんなことをしている間に結果がわかるんじゃありませんか? それならトーマスさんが邪魔する理由もすぐ無くなると思いますけど?」


「そうっすね。きっと今頃は記念すべき最初のハッピーエンドになってるっすよ。だからさっさと剣を収めて帰るっす」


「わからない人ですねっ!」


 キキキキキキィン!


 ロンの素早い突きを剣とメイスで捌きながらトーマスは一歩後ろに下がった。


「そこっ!」


 しかしロンはそれを見越していたように前進してさらに大きく突く。

 

 ガキッ!


「くっ!」 


 トーマスの鎧を貫通してちょうど心臓の付近の骨を一本へし折った。

普通の人間なら間違いなく致命傷だろう。


(やっぱり速いっすね)


 今のトーマスの体ならば時間の経過で完治してくれるので問題はない。

しかし普段から攻撃の主軸としているだけあって、ロンの突きの速さと正確さは十分脅威と言えた。

威力も侮れない水準だ。

肉や内臓がない分だけ致命傷にはなりにくいとはいえ、盾無しでは防ぎにくいのも事実。

メイスを頭部に叩き込めば勝ちだが、簡単にそれを許してくれるような相手でないことはわかりきっている。


(やはりそう簡単にやらせてはくれませんか)


 ロンもまた唇を噛みたい気分になった。

とりあえず肋骨を一本折りはしたものの、頭部や関節といった重要な箇所への攻撃はしっかりと迎撃態勢が取られている。

先程の突きが命中したのは、そこへのダメージが致命傷にはならないため警戒が薄かったというのも理由として大きい。

相手の内臓や血管といった重要箇所をピンポイントで突く彼の対人戦闘を重視したスタイルがここにきて裏目に出ていた。

これがせめてアルバンのようにもっと攻撃的な戦闘スタイルだったならまだマシだったのかもしれない。


 キキィン! キィン、キィン! バキンッ!


 剣と剣、時折メイスと盾が交わる。

どちらも致命打を繰り出せないままに手数だけが増えていった。


「ええい!」


 ロンが盾で受け止めたメイスを振り払う。

 

「そもそも、相手が待っていてくれたからなんだっていうんですか!」


 膠着状態に対する苛立ちを込めて叫ぶ。


「元の体になんて戻ることはできない! どうせすぐに他の男に乗り換えていくに決まっているでしょう!」


「それはその時にならないとわからないっす!」

 

 ギィン!


 二人の感情を乗せた剣が一層激しくぶつかり火花を散らせた。

 

「よくもそんなことが言えますね! あなただってそうだったでしょう?! トーマスさん!」


「……」


 バキッ!


 トーマスはロンに対して即座に言い返せなかった。

剣が鈍り、再び胴体に彼の突きを貰う。

  

「どんなに信じていたって、所詮僕達は捨て駒扱いだ! 不要になれば捨てられる!」 


 ドドドドッ!


 さらに無数の突きがトーマスの胴体に殺到した。

彼の手から剣が零れ落ちる。


「永遠の愛? 運命の赤い糸? そんなものはただの妄言にすぎない!」


 ガシッ!


「――!」


 トーマスの胴体に深く突き刺さったロンの剣。

それは二人の距離がそれだけ近づいたことを意味する。

トーマスは剣を手放した方の手で、剣を持つロンの腕を掴んだ。


「くっ……!」


 ロンは即座にトーマスの手を振りほどこうとするも、しっかりと掴んだ手には一層力がこもるだけだ。


「……永遠の愛はきっとあるっす。……運命の赤い糸もきっと存在するっす。ただ……、俺達の知っているのが偽物だっただけっすよ。……きっとそうだって信じてるっす。だから……」


「何を……?!」


 メイスを握る左手に力がこもる。

  

「だから! 人の幸せまで邪魔するんじゃねぇよ!!」


 トーマスのメイスがロンの頭部を狙って加速する。

バックラーを左手に装備していたこともあり、防御は間に合わない。

ロンは直撃を回避しようと首から上を動かした。


(――速い!)


 予想を超えた速度でメイスが迫る。


「うおおおおおおおおおお!」


 トーマスが雄叫びを上げるように叫んだ。

全力でメイスを振りぬく。


 ガァンッッッ!!!!!


(こん……、な……)


 メイスは兜ごとロンの頭部を砕いた。

吹き飛ぶ骨片。

死の間際には過去の記憶が走馬灯のように流れるというが、急速に薄れていく意識の中でロンの脳裏に最後に映ったのは、知らない男と楽しそうに暮らしていた恋人の姿だった。


(リンダ……。どうして……)

 

 ……ガシャン!

力を失い地面に投げ出されたロンの体は、そしてもう二度と動かなくなった。


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