第一章 第五話:髑髏の仮面
次の日の朝。
俺が待ちに待った日の出がやってきた。
これで移動できる。
昨日はとにかく暇だった。
暇だったのでエリーゼとの幸せ新婚生活を妄想して過ごした。
そのせいでもうエリーゼに会いたくてたまらない。
マジで今すぐ会いたい。
俺は獣道を全速力で走り出した。
この体なら疲れない、いくらだって走れる。
山を下りて森を抜ければ、月明かりの下で夜だってずっと走っていられるはずだ。
急ごう。今なら一か月の道も一週間で走れる。
俺が一晩考えた答えだった。
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「このっ、このっ!」
辺りの空気を見る限り、多分お昼頃だと思う。
俺は少し開けた場所で荷馬車に遭遇した。
(・・・襲われてる?)
どうやら狼に取り囲まれているようだ。
確認できる人間の数は1、2、3人。
必死に抵抗している。
俺は走りながら剣を抜く。
こちらに背を向ける狼に向けて一閃。
一気に3匹を屠った。
残りの狼達がこちらに気が付いた。
手前の1匹に向けて剣を突き刺す。
「キャウン!」
まだ死んでいない。
剣を引き抜き、そのまま上からギロチンカット。
グシュッ!
固い感触が手に伝わってきた。
脊髄を破壊できたはずだ。
「グルルルル」
残りの狼は1,2,3,4,5、匹。
「あ、あんたは・・・」
人間の相手は後回しだ。
無視だ無視。
間合いを図る。
ダッ!
「ガウッ」
1匹が飛び掛かってきたところを横一閃、頭部の上側を切り飛ばす。
そのまま体を横に一回転。
今度は足元に迫ってきていた2匹の頭部を切りつける。
「キャウッ!」
こちらの振り終わりに合わせて1匹が飛び掛かってくる。
振り終わった剣をそのまま前に突き出す。
狼の口に自分の剣をごちそうしてやった。
(あと1匹)
勝ち目がないことを悟ったのか、最後の1匹は後ろを向いて逃げ出した。
「逃がすか!」
剣を思い切り投げる。
「ギャウ!」
剣が当たった狼は動かなくなった。
最後の1匹も仕留められたみたいだ。
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投げた剣を回収してから襲われていた人間の方へ向かう。
「大丈夫か?」
「あ、はい、おかげさまでだいじょう・・・。ひぃっ!」
「ばっ、化け物!来るなっ!来るなぁー!」
「出せ!早く出すんだ!」
俺の顔を見た途端に一目散に逃げだしてしまった。
「おいおい、助けてやったのに化け物扱いは・・・」
(いや・・・)
そうだ。確かに今の俺は普通の体じゃない。
体の大半は鎧と服で隠れているが、顔はそのまま露出している。
何も知らない人間が見れば確かに化け物だろう。
(参ったな・・・)
これではエリーザにも話を聞いてもらえないかもしれない。
どうしよう、と思ったところで、さっきの荷馬車が落としていった荷物が目に留まる。
(なんだろう?)
中を開けてみる。
入っていたのは髑髏の仮面だった。
兵士たちが敵に恐怖を与えるために身に着けるやつだ。
(これ、少し使えるかも。)
これを着けていれば自分の顔は見られない。
今は鎧を着ているし、この仮面を着けていても違和感はないはずだ。
少し物騒な姿になってしまうが仕方ない。
後は経緯を説明し終わるまで素顔を隠しておけばいいだけだ。
我ながら名案だぜ!
俺は再び全力疾走を開始した。
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その日の夕方、俺は山を下り終えて森の中に突入した。
(そろそろ寝床探すか。)
山を下りたと言っても、下り坂が平地変わっただけだ。
木々で空からの光の大部分が遮られているのは変わらない。
森を抜けるまでは夜間の移動は無理だろう。
(エリーゼ・・・)
早く帰りたい気持ちを押しとどめて寝床の準備をする。
木の根元に寝られるスペースが空いていないか探す。
流石に毎回見つかるほど甘くは無かった。
仕方が無いので背の低い木の下で寝ることにした。
周りから枝と葉を集めてくる。
「よっこいせ」
木の下に体を入れて横になる。
自分に枝と葉を被せたら完成だ。
骨人間を襲ってくる猛獣がどれだけいるか疑問だが、
無いよりあった方がいい。
とりあえずこれで時間を過ごそう。
再びエリーゼのことを考える。
昨日は新婚生活だったから、今度は子供時代に思いを馳せる。
エリーゼとは幼馴染でずっと一緒だった。
子供の頃から、俺がよく馬鹿やって怒られてたっけ。
エリーゼのことが好きだと自覚したのは、他の男子にいじめられて泣いてたのを助けたときだ。
3人相手に殴り合いしたんだ。
一応勝ったけどこっちもボロボロになった。
(エリーゼが泣きながら手当してくれたんだよなぁ。)
自分の中にあるエリーゼへの愛を確かめる、そんな夜になった。