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第三章 第二十一話:平穏と日常の価値

ギィン!ガギンッ!ドンッ!ダンッ!


人気の無くなった東門に過激な金属音が響き続ける。

トムとアルバン、無数の屍を条件に存在する二人の戦士の衝突を観戦する者はいない。


「ふんっ! 動きが鈍いぞトム! ガキの子守で衰えたか?!」


スピードで分のあるアルバンが叫ぶ。

時に片手、時に両手で剣を握り変幻自在と表現しても遜色ない動きでトムの隙を突く。

既にトムの鎧には彼の剣が掠めた後がいくつも出来ていた。


「――! 抜かせ!」


トムが叫び返す。

だが大剣の重みに慣れた体が軽すぎる武器に違和感を感じ続けているのも事実だ。

攻撃を繰り出すだけなら対抗できる程度のスピードはあるものの、出した剣を戻すタイミングがアルバンに一歩遅れを取っている。


(これでもまだ遅いか!)


重量物を叩き込む大剣と切れ味で勝負する長剣ではダメージを最も稼ぎ出せるタイミングが僅かに異なる。

トムは長剣を振った後、主要なダメージスポットを過ぎても尚、大剣の時の癖で剣を押し込んでしまっていた。

既に相当修正はしているがアルバンクラス相手ではまだ足りない。

並の王国騎士レベルならこれでも瞬殺できるのだが・・・。


ギィン!ダンッ!キンッ!


「お前はいいよなぁ! 息子が無事で!」


アルバンが挑発する。

攻め手を全て読み切っているのか、アルバンの方は未だにトムの剣が掠ってもいない。

剣圧と踏み込みで地面の土を激しく巻き上げながら戦いは続いていく。


「それでみんな期待しちまったんだ! もしかしたら自分の子供も、ってな!」


踊るように剣を振るアルバンの言葉にトムの剣速が鈍る。


「だが結果はどうだ?! ベンの息子は腐った死体! ロドリゴは至っては托卵だ! 自分の息子ですらねぇ!」


「黙れ!」


ヒットアンドアウェイの用にアルバンが距離を詰めては離れる。

トムの剣は空を斬った。

アルバンの言葉が内心の引け目を刺激する。


「いいじゃねえか復讐ぐらい! 八つ当たりで何が悪い?! みんな俺達に配慮なんざしちゃくれねぇ! だったら俺達だけが遠慮する必要がどこにある?!」


「・・・それにも限度はある」


トムは辛うじてそれだけを絞り出すのが精一杯だった。

二人の心情を反映するかのようにアルバンの動きは軽く、トムの剣技は力に頼った大振りになっていく。


(そろそろだな・・・)


安っぽい挑発。

だがアルバンはトムの剣の感触が少しずつ変わって来ているのを感じていた。

彼がこれまで幾度となく経験してきた感触、つまりは剣の破壊の兆候だ。

アルバンの剣が命を預けるに足るほどの上物であるのに対し、トムの使っている剣はあくまでも間に合わせの代物だ。

剣そのものの性能で劣る上に力勝負のトムの使い方でさらに余計に負荷がかかってしまっている。

この戦いのレベルも考慮すれば、早々に剣が折れる事態となるのはそう不思議なことでは無かった。


剣のコンディションを把握できるほどに長剣を使い慣れていないトムはそのことに気が付かずに剣を振り続ける。

素人目には若干トムが押されているがそれほど差があるようには見えないだろう。


だが当事者同士の視点では全く違う。


アルバンの優勢。

だがトムがなぜ本来の武器である大剣を捨てて戦おうとしたのか、一抹の不安はある。

そのことが彼に勝負を決めるタイミングの見極めを躊躇わせていた。


動的な膠着状態。


だがしばらくして事態は動く。


(折れる!)


バギィィィッン!


(――!)


強引に薙ぎ払おうとしたトムの剣の先端付近をアルバンは自分の剣で受け止めた。

金属疲労と衝撃に耐えかねてついにトムの剣が根本から折れる。

その瞬間、アルバンは自分の勝機が近づいたことを、トムは自分の敗北が近づいたことを確信した。


「終わりだ! トム!」


アルバンは体重を乗せて横に回転斬りを放った。

トムは咄嗟に左腕の篭手でそれを受ける。


バギッ!


金属同士がぶつかったにしてはやけに鈍い音を立ててトムの体が吹き飛んだ。


(くそっ! 折れたか?!)


受け身を取って一回転、膝を曲げた状態で止まる。

トムは左腕のぎこちない感覚でヒヤリとした。

だが、お陰で冷静さを失いつつあった自分に気がつく。


――このままでは負ける。


そう判断したのと同時に視界の先に自分の大剣があることを確認した。


ドンッ!!!


両足を踏ん張ってその方向へと弾丸のように飛び出す。


・・・弾丸のように?


いや、弾丸よりも早い。

追撃に斬りかかったアルバンもそれには追いつけなかった。

一瞬前までトムがいた場所をアルバンの剣が斬る。


「やっぱり・・・」


アルバンの耳にトムの声がやけに響く。

その方向に視線を向けると、ちょうどトムが地面に突き刺さった大剣を右手で引き抜くところだった。


「やっぱり、いつも通りの方がいいな」


トムは人の身長ほどもある大剣を右手だけで振り回して肩に担ぐ。


「・・・フン!」


アルバンは失った鼻を鳴らした。

トムが言ったのは使う武器のことだ。

使い慣れた武器がいい、そう言ったのだということはアルバンにも頭では理解できた。


だが心がざわめく。


『平穏な日常が一番いい』


彼の心にはトムの言葉がそういう意味に聞こえた。


――嫌というほどわかってるさ! そんなことは!

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