第三章 第十九話:希望に群がる者達
最初の一人が彼に到達しようとした瞬間、アルバンは嘲りの声と共に飛び上がった。
唖然として見上げる隊員達。
人間には到底不可能な跳躍で隊員達の背後を取ると、そのまま抜刀して一人の首を刎ねた。
一番後ろのほうにいた隊員達はその様子を見て顔色を変えた。
前にいた隊員達は仲間がやられたところを見ていないのでまだ状況を理解できていない。
「このっ!」
アルバンの横にいた一人が剣を振りかぶって上段から突きを入れようとする。
「おせぇよ」
冷めた声と共に顎の下から剣を突き上げると、そのまま背負い投げのようにして放り投げた。
この期に及んで首当てすら身に着けていない間抜けさ加減にアルバンは心底馬鹿にされているような気がした。
最初に殺した男の剣を拾うと、近くにいた男に襲い掛かる。
「盾があれば助かるとでも思ってんのかぁっ?!おい!」
ドスッ!
「・・・!!」
体をコマのように横に回転させながら奪った剣を力一杯胴体に突き立てた。
鎧と肋骨を破壊した剣が心臓を容赦なく貫く。
自由を失った体が崩れ落ちた。
後は意識がなくなるまで残り僅かな人生を楽しんでもらうだけだ。
アルバンは突き刺した剣から手を離すと、代わりにその男の持っていた剣を奪った。
あとは同じことの繰り返しだ。
自分の持っている剣を相手の心臓に叩き込む代わりに相手の持っている剣を奪う。
一気に恐慌状態に追い込まれた警備隊員達は抵抗することもままならず、既に総崩れだ。
それでもアルバンは手を緩めない。
腰を抜かしている奴の口に剣を突き立てた。
破れた心臓から出た血が食道を通って口から溢れる。
「うわぁあああああああ!」
「助けてぇええええ!」
まだ自分の順番が来ていない隊員達がアルバンに背を向けて逃げようとする。
正面をアルバン、背後を東門に阻まれているので逃げるとすれば両サイドしかない。
・・・もちろん逃げられるはずが無いが。
アルバンはグラスから溢れる酒を飲み干すような感覚で逃げようとする男達の背中に剣を突き立てていった。
心臓を貫かれた男達がその痛みに文字通り必死の形相を浮かべて倒れていく。
「あとはお前だけか」
「ぁ・・・、あ・・・」
四十人。
戦いを生業としない者達からしてみればどうにもできないような屈強な男達も数分と経たずに屍に成り果てた。
例外として一人だけ残った男は東門に背を預けて腰を抜かしていた。
大量の涙と汗、そして尿で全身を濡らしており、その表情には恐怖しか映っていない。
アルバンは距離を詰める一瞬でその男の様子を観察した。
他の男達と比べればまだ若く、体もできていない。
おそらくは新人かそれに近い立場なのだろう。
だからどうということもない。
アルバンは他の隊員達と同じように口から心臓を貫こうを剣を構えた。
「・・・上!」
剣を突き出そうとした瞬間、アルバンは尋常ではない殺気を感じて慌てて横に飛んだ。
ドッ、ドンッ!!!!
(新手か?!速いっ!!)
城壁の上の方が崩れ落ちると同時に、先ほどまでアルバンがいた場所に超高速で『何か』が突っ込んだ。
その正体を確認しようにも土煙が舞って見えない。
ドンッ!!ガキィン!!!
土煙の中から鎧を着た男がアルバンに向けて再び突っ込んできた。
アルバンは男の上段斬りをギリギリで受け止めつつ、相手の正体を確認した。
頭部はフルフェイスで包まれているが、その中身を把握するのは容易い。
アルバンの顔に僅かではあるが焦りの色が浮かぶ。
攻撃してきた相手はアルバンも知っている人物だ。
「どういうつもりだ・・・、トム!」
自分同様に骨だけの体になった男。
アルバンに攻撃を仕掛けてきたのは互いに不干渉を約束しているはずの男だった。
「俺も明るい話に一枚噛めると聞いたもんでな」




