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第三章 第十七話:西門

*誤記修正しました。

西門前。

国の中央とネアンドラを行き来する人々が利用することから、東西南北にある4つの門の中で最も利用者の数が多い。

となれば当然、今回標的となる人間の数も四つの門の中で最も多いということになる。


時計塔の爆発した時点から経過した時間は数十分。

閉められた門の周囲には既に大量の死体が転がっていた。


この場所の制圧担当はロン。

長剣にバックラーという他のメンバーに比べれば地味な装備でありながら、精密な剣撃で効率良く死体を生産していた。


「盾を構えろ!一人とはいえ油断するな!囲んで追い込むんだ!」


警備隊長の張り上げた声が響く。

西門の近くに警備部隊の支部があったため、この場所だけは早々に警備部隊が到着していた。

その数は二十二。

体の大半を隠す程の大盾を構え、半円を描くようにしてロンを取り囲み、徐々に彼との距離を詰めようとしていた。

彼の装備が防御寄りであったことから、警備部隊の面々はその脅威度を甘く見ていたといっていい。

目の前には大量の死体が転がっているにもかかわらず、彼らは大盾と鎧がある限りは彼らにロンの剣が届くことはないと考えていた。

今までがそうだったからだ。

その考え方が戦場では死につながるということは彼らは理解していない。

実際には遥かに格上の相手であるロンの戦力を過小評価し、自分達が狩る側であると思い込んでいたが故の陣形だった。


「仰々しい人たちですね。」


ロンは呑気な声を漏らした。

西門を背後にして立つ彼を、二十人以上の警備部隊が取り囲む。

少し離れたところからは住人たちが見物を決め込んでいた。

警備隊の勝利を信じて疑わない彼らは、先程まで襲われていたことなど忘れて野次馬と化していた。


ロンが警備隊を何人倒せるか、それを賭けにし始めた者たちまでいる。

一人、四人、などと威勢のいい声が飛び交っている。


いずれにせよ、この場でロンの敗北を疑わない者はいなかった。


・・・もちろん、そこに彼自身は含まれていない。


(アルバンさんなら大喜びの場面なんでしょうけどね・・・)


月明かりはロンに降り注いではいない。

彼はゆっくりと膝を曲げて力を溜める。


ドンッ!


大きな足音と共に、一瞬で真ん中の兵士の目の前に迫った。

運悪く狙われた男はまだ事態を飲み込めていない。

彼だけではなく、その場にいたロン以外の全員が状況を飲み込めていなかった。

夜の暗さも相まって、いきなり大きな音と共に彼が消えたようにしか見えなかった。


考え方を変えてみれば、最初に狙われた兵士は一番運が良かったと言えるかもしれない。

感じる恐怖の程度を基準に考えるならば。


月明かりはロンではなく彼らを照らしていた。


ガァン!


ロンは左腕のバックラーで相手の大盾を横に思いっきり弾く。

兵士は大盾を手放すことはなかったが、弾かれた大盾の影響で体勢を大きく崩した。

首当てもしていない無防備な首が晒される。

ロンはそのままの勢いで右手の剣を兵士の首に突き刺した。


ドシュ!ブシュァ!


動脈を切られて勢い良く血が吹き出す。

そこでその兵士の死は確定した。

いきなり自分の大盾が横に弾かれた直後に首の痛み。

彼の認識はその程度で、何が起こったのかもわからないままに彼は人生を終えた。


(首当てもしないなんて、死にたがりなんですかね?)


ロンはやれやれと内心でため息をつく。

そこには同情と呆れが入り混じっていた。


「・・・え?」


両脇の兵士達がようやく同僚の異常に気がつく。

だが、まだ何が起こったのかまでは飲み込めていない。

周囲で観戦を楽しもうと決め込んでいた人々も唖然として見ていた。


ロンは首に刺さった剣を抜くと、今度は手首を返して右隣の兵士の兜の隙間に差し込んだ。

ここは使用者が視界を確保するための隙間だ。

力でゴリ押しするタイプではないロンにとって、鎧の隙間は絶好の攻撃対象だ。

腐竜討伐参加者達の中でも特に精密な彼の剣捌きが最大限に活かされる。


ザシュ!


眼球、そしてその奥の脳髄を貫かれて兵士は声を上げる間もなく絶命した。

返り血が兜の隙間から少しだけ飛び出した後、少し遅れて首の下から大量の血が垂れてきた。


最初に殺した男の体はようやく制御を失って倒れ始めたところだ。

ロンは剣を勢い良く抜いた。

後を追うように二人目も崩れて落ちていく。


刹那の駆け引きを生業とする戦士達はともかくとして、それ以外の者達にとっては文字通り一瞬の出来事だった。

だがそこで終わりではない。

静寂すら許さず、ロンは残りの兵たちも容赦なく狩っていく。

彼にとって警備隊の面々は戦士と認識するに値しない。

ロン自身も元々は別の街で警備隊に所属していたのだが、彼が働いていた時代と比較するとあまりにも実力が低すぎた。

それだけ世の中が平和になったということの証でもあるとはいえ、この場面で歓迎できることではないだろう。


仮にロンが普通の人間の体だったとしても結果はあまり変わらなかったかもしれない。


「まっ、待て!助けっ・・・!」


ドシュ!


「怯むな!」

「痛ぇ!斬られたぁぁ!」

「うわあああああ!」


恐慌の中で命を刈り取られていく兵士達。


「お、おい。やべぇんじゃねぇのか?」

「に、逃げろ、逃げるんだ!俺たちも殺されるぞ!」

「にげろぉぉぉおおおお!」


民衆は自分達の立場を再認識した。

今夜の自分たちはあくまでも狩りの獲物、決して安全なところにいたわけではないのだと。


散り散りになって我先にと逃げ出していく。


(さてどうしますか・・・)


早々に警備隊を始末したロンは逃げ出す人々をどうしようかと一瞬考えた。


(街の中にはロザリーさん達もいますし、ここは門の確保に専念しておきましょうかね。)


こんなときアルバンなら喜んで追いかけるんだろうとロンは思ったが、彼はアルバンではない。

積極的に追いかける気にはなれなかった。


その理由を聞かれれば彼は返答に詰まっただろう。


今回の襲撃に実は乗り気ではない、などとは答えられないからだ。

彼自身の復讐を既に手伝わせてしまっている以上、そんなことを言える立場で無いことぐらいは理解していた。


既に自分の手は十分過ぎるほどに汚れている。

いまさら許されるわけなど無い、と。

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