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第三章 第十六話:紳士協定

誤記修正しました。

時計塔が爆発する数分前、ハンスは紙一重のタイミングで南門から街の中へと入っていた。

ちなみにリリーの家に最も近いのは東門である。

最短でネアンドラに辿り着くのだと意気込んでアジトを飛び出したものの、気持ちだけで全てがうまくいくほど現実は甘くはない。

前回ほどでは無い程度に道に迷った結果、彼は再び南門から街に入ることになった。


南門の制圧を担当するのはポール。

彼はハンス同様に弓を得意としていた。


南門を通過するハンス。

南門を見張るポール。


名声が無いとはいえ、仮にも一流の狩人同士、互いの存在に気が付かないわけもない。

だが彼らは互いを見逃した。


ハンスはリリーを優先するために。

ポールにハンスの詳しい事情などわかるはずもないが、焦った様子の彼を見て見逃すことにした。


まだ開始の合図は出ていない、それを口実に。



・・・だが問題はその後だ。


時計塔が爆発したとき、ハンスはちょうど時計塔の方向へと向かっていた。

無論、北東エリアにあるリリーの家に行くためだ。


爆発を見た彼は、南門にいた不審な男の存在と総合してそれが始まりの合図なのだと判断した。


(急がないと!リリー!)


正面、時計塔の方向から逃げてくる人々の間を駆け抜けていく。

街の中央を抜けてしまえば逆に逃げる人々の流れに乗れる、彼はそう判断した。


・・・結論から言えば考えが甘かったということになる。


ハンスが何の問題もなく通り抜けられると思いこんでいた街の中心部。

崩れた時計塔の足元は、凄惨な人狩り場となっていた。


男も、女も。

腕に自信のある者も、無い者も。

武装した兵士も、丸腰の住民も。


皆平等に屍と成り果てていた。


この狩場に立つ狩人は一人だけ。

だが、新たに狩場に入り込んだ獲物を『彼女』が見逃すはずは無かった。


突き刺すような冷たい視線。


殺気。


(・・・敵!!)


ハンスは反射的に弓を構えると同時に、自分の判断ミスを悟る。

慌てて視線の方向、屋根の上を確認した。


両手に血濡れのダガー、月明りに照らされたロザリーが見下ろす。


ハンスとロザリー、2人の戦士の視線が真っ向からぶつかった。


------------------------


「うわぁぁぁぁあ!助けてぇぇぇぇ!」


「逃げろぉぉぉぉぉぉ!」


「助けっ、ぎゃ!」


ドシュ!ドシュドシュ!


時計塔が崩落した直後、ロザリーは混乱に乗じて人々を片っ端から斬り捨てていた。

斬ったのは全て非武装の人々だ。

まだ崩落から数分ほどしか経っていない。


「貴様!何をしている!」


「大人しくしろ!」


ロザリーに気が付いた兵たちが武器を構えた。

一人は剣、一人は槍。

まだ周辺の衛兵達は集まってきていない。

運悪く周辺の巡回中だった彼らはいち早くこの現場に到着し、二人だけでロザリーを相手取ろうとしていた。


もちろんそれは完全な失策なのだが、彼らにわかるわけもない。


「・・・」


ロザリーが投降するかどうかを見極めようと様子を伺う。


ダンッ!


「消えっ・・・」


時計塔の崩落によってまだ土煙が残る中、二人の視界からロザリーの姿が一瞬で消えた。

土煙が彼女の移動した方向を僅かに示す。


ドス!


ロザリーの姿が『消えた』と言い終えるよりも早く、次の瞬間には槍を構えていた兵の顎に下からダガーが突き上げられた。

一瞬で脳を破壊され、男は自分が死んだという結果すら理解できずに人生を終える。


「・・・え?」


もう一人が唖然と横の同僚の最後を見た。


ブシュ!ドス!


ロザリーは突き上げた右手のダガーを捩じるように引き抜き、その勢いのままで今度は左手のダガーをもう一人の男の首に差し込む。

即座に捩じって脳髄を破壊した。

すぐにダガーを引き抜く。


・・・ドサ、ドサッ!


支えを失った二つの体はゆっくりと地面に倒れ込んだ。


(いくら下っ端と言ったって、これじゃ弱すぎるね)


ネアンドラはこの国でも有数の大都市だ。

その警備を任されているにしては少し期待外れだった感は否めない。

今の彼女にとってそれはむしろ好都合なはずだが、歓迎する気にはなれなかった。


(まあもっとも・・・)


ロザリーは周囲の様子を確認する。

短い時間ではあったが、周囲の人々が逃げる上では多少の時間稼ぎにはなったようだ。


(殿としてはまずまずじゃないか。・・・逃がす気は無いけどさっ!)


ダンッ!


ロザリーは人間の多そうな場所を探そうと近くの建物の屋根に乗った。

普通の人間ならばありえない跳躍力だが、今はそれを気にするような人間は周囲に誰もいなかった。


月明りの下に堂々と立つ。

索敵範囲内に警戒すべき敵はいない。

今の彼女の意識は完全に狩る側だった。


(どれどれ・・・)


彼女の位置から見える範囲では南の方に人が多い。


(・・・ん?新手か?)


逃げていく人々の中、彼女の方向に向かって走ってくる人影がある。

数は一つ。

動きを見る限りは普通の人間のようだが、間違いなく素人ではない。


『そこそこできる奴』だ。


(あれは早いうちに叩いておいた方が良さそうだね)


彼女の次の獲物が決定した。

殺気を隠す素振りも見せない。


・・・直後に向こうが弓を構える。


(・・・!)


ロザリーは気を緩めていた自分を内心で戒めた。

相手の索敵範囲は思った以上に広い。

それは相手が舐めてかかっていい相手ではないことを示していた。


相手も彼女に視線を向ける。


(速い!)


ロザリーは相手が自分を見つけるまでの時間の短さに舌を巻いた。

仮に逆の立場であったなら同じことができるかと言われれば、できる自信は正直に言って・・・、彼女には無かった。


(狩人・・・、だろうね間違いなく本職の)


弓を使うこと、索敵範囲の広さ、そして反応速度。

ロザリーは敵が手練れの狩人だと判断した。

そしてその判断に間違いはない。


(距離を詰めるまでが勝負だね)


ロザリーは久々の強者を睨みつけた。

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