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第三章 第四話:最初の夜

「アルフレッドなら、嫁さんの敵を取るって暴れてる奴らのところに行っちまったよ」


自分同様にやっちまった男は今どうしているのか、という俺の質問へのドクの回答がこれだ。


「ロザリー達のところか?それにヒルダさんの敵って・・・、確か婚約者だろう?」


「ああ。・・・1人で相当悩んだみたいだ」


(・・・?)


話が見えない。

トムさんの言う『ヒルダさん』っていうのが嫁さんか?

あれ?でも敵は婚約者?

婚約者って嫁さんのことだよな?


(・・・?)


俺だけ頭の上に疑問符が出現しそうになった。


「ぅー?」


俺だけじゃなかった、トニーもいた。

2人揃って首を傾げる。


「ああ悪い。わからない話だったな」


トムさんがトニーを引き寄せて頭をなでながら説明を始めた。


「お前と同じで討伐前に婚約してダメになったアルフレッドってやつがいるんだ。そいつの嫁さんが少し前に死んじまったんだが、生きてるときにかなり酷い目にあったらしい。それでやり返しに行ったってわけさ」


「婚約が駄目になったのになんで嫁がいるんだよ。・・・脳内嫁か?」


「はっはっは、ヒルダさんが聞いたら怒りそうだな」


ドクが笑い出す。


「結婚したのは別の女とさ。骸骨でもいいなんていう物好きな女でな」


「はっはっは、それもヒルダさんが怒るぞトム」


「ん?そうか?」


「アルフレッドに心底惚れてたからなぁ。もう死後の世界があっても不思議じゃないんだ、ヒルダさんに言い訳考えておけよ?」


「う・・・、そりゃ参ったな。トニーが世話になったおかげで正直頭が上がらん」


(・・・怖い人だったのか?)

「それでロザリーって人がその敵?」


俺の質問でドクの纏う雰囲気から笑いの色が消えた。


「いや、ロザリー達は俺たちと同じさ。俺たちの中で・・・、多分一番追い込まれてるグループだ」


「追い込まれてる?何かあったのか?」


「いや、ない」


「何も無いならいいだろ?俺なんて婚約が台無しだぞ?」


「その割には平気そうだな」


「現実から目を背けてるのさ!」


「ぅー」


俺はトムさんにビシッと即答した。

トニーはどうやら俺がポーズを決めたと思ったらしい、両手を上げて声援をくれた。

ありがとよ、ちっこいの。


その間、ドクは少し考えるように顎に手をやる。


「むしろ、何もないからこそ追い込まれてるんだろうな」


「ん?」


ドクの言葉の意味がよくわからなかったので聞き返した。


「こんな体だ、人目のあるところで暮らすことなんてできない。俺みたいにそういう生活が性にあっているわけでもなければ、トムみたいに生きる目的があるわけでもない。元々の人生は全部駄目になったのに、・・・新しい人生を未だに始められていないんだ」


「それで暴れてるのか?」


「ああ。少し前から、恨みのある相手がいる町や村を襲って回っている。・・・住民は容赦なく皆殺しだそうだ」


「は?おいおい、なんだよそれ。それは流石にまずいだろ、八つ当たりにもほどがあるぞ」


「・・・」


「・・・」


「・・・?」


重い沈黙が流れた。

トニーだけは空気が読めずに再び疑問符を浮かべている。


「本当に・・・」


トムさんがゆっくりと沈黙を破った。


「本当にそう思うか?」


「え?ああ、もちろん」


「そうか・・・」


(なんだ?俺、何かおかしいこと言ったか?)


「いや、いいんだ。お前が正しい」


本音ではそう思って無い気がした。

ちらりとドクを見る。

どうやらドクもトムさんと同じらしい。


「ところで話は変わるんだが、お前はこれからどうする?・・・今からでも故郷に帰ってみるか?」


「え?」

(ホントに話が変わったな)


俺は露骨な話題逸らしに苦笑いしそうになる。


「そう言われてもな」


今さら帰ってどうする?

リリィはきっと他の男と結婚してるだろうし、子供だって生まれてるはずだ。

仮に今でもリリィがネアンドラに住んでいるとして、わざわざそれを見に行くのか?


既に諦めがついているとはいえ、直接その光景を見るのは正直キツイぞ?

それでも見に行くか?


「どうしよう」


他の男と家庭を作って幸せそうなリリィを少し想像してみる。


「悪夢だ・・・」


「どうする?必要なら山のふもと辺りまで案内するぞ?トニーがいるんで休みながらの移動にはなるが」


「うーん」


・・・俺は正気を保てるだろうか?

正直怪しいかもしれない。

でも・・・。


「よろしく頼むよ」


俺は行くことにした。

なんとなく見たかった

多分、怖いもの見たさってやつだ。


・・・多分な。


--------------------


ネアンドラ領内のとある町。

人口200人強の小さな町はいつもの通りの静かな夜を迎えていた。

既に深夜と呼べる時間になっていることもあって灯りのついている家はほとんどない。


そんな町に対し、数百メートル離れた地点から視線を送るひとつの集団。

武器と鎧を身に着けた戦士達が全部で7人。


「そろそろ寝静まった頃か。始めるよ?」


リーダーらしき女の声を合図に6人の男たちが町に向かって静かに散っていく。

女自身もまた別の方向から町に向けて歩き出した。


---------------------


パチパチと鳴る火を眺める。


(ヒマだ)


トムさんに山のふもとまで案内してもらうことにはなったものの、トニーは俺たちと違って寝ないとならないということでこのまま一晩過ごすことになった。


トニーは少し離れたところで既にぐっすり寝ている。

口を開けて仰向けにバンザイポーズだ。


(ほっぺぷにぷにしたい・・・)


が、無防備なほっぺの横には超A級のボディガードが24時間体制で控えている。

俺は早々に諦めた。


ちなみにドクはというと、洞窟内の別の部屋に戻って怪しい研究を再開した。

そう、怪しい研究だ。


本人は元に戻るための研究とか色々薬を作ったりしているとか言っているが、見た目が怪しすぎる。

あいつこそ世界征服とか言い出しそうな雰囲気だ。


俺は火を眺めながら朝が来るのを待つ。


(リリィ・・・)


あいつは今何をしているんだろうか?


「なんて言おう」


俺にとっては数か月振り、リリィにとっては20年振りの再会。

改めて自分の手を見る。

おまけにこんな体で、一体何を言えばいいのか。


「はあ」


俺も地面に横になった。

眠くはならない。

久しぶりに憂鬱な夜だった。

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