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第三章 第三話:ハムスターほっぺと名づけよう

「ついたぞ、ここだ」


ネズミ達のエクササイズが終わった後、俺はトムさん達にアジトまで案内された。

洞窟を流用して作られた隠れ家と言ったところだろうか。

トムさんの話だと他にもいくつかあるらしい。

討伐隊のメンバーがたびたび利用しているそうだ。

俺はトムさんとトニーの後から洞窟の中に入った。


「ドク、いるか?」


「どー」


「ああ、いるよ」


親子の呼びかけに答えて、俺にも聞き覚えのある声が返ってきた。


(この声は・・・)

「ドク?もしかしてドクか?」


俺は奥から顔を出した骸骨に呼びかけた。


「失礼、どこかであったかな?俺には初めて見る顔に見えるんだが・・・」


「俺だ、ハンスだ」


「・・・ハンス?おいおい久しぶりじゃないか。今までどこで何してたんだ?」


ドクが嬉しそうに両手で俺の肩をバンバン叩いた。


「なんだ元々知り合いだったのか。目覚めたのはさっきだそうだ」


「さっき?今日ってことか?」


トムさんがここまでの経緯をドクに説明してくれた。


「まさか今頃になって目覚めるやつがいるとはな。まあハンスらしいと言えばらしい」


「どういう意味だよそれ」


「どういう意味ってそりゃあ・・・」


言いながら何かを思い出したようにドクの視線が横に泳ぐ。

そのままトニーと目があった。


「よおトニー、元気にしてたかー?」


「ぅぁー」


ドクの問いかけに、トニーがもちろんといった様子で手を振る。


「おい、どういう意味だよ」


「よしよし、元気みたいだな」


「おーい」


「取りあえず奥に行こうか。トニーを診てから話そう」


急に真面目な声色でそれだけ言うと、ドクはトムさんからトニーを受け取って洞窟の奥へ移動を始めた。


---------------------


「よーし、口開けてごらーん。あー」


「ぁー」


ドクがトニーの診察をしている間、俺はトムさんと一緒に横のテーブルからその様子を見ていた。


「どこか悪いのか?」


「いや、定期的にドクに見てもらってるんだ。街の医者には連れていけないし、悪くなってからだと色々と厄介だからな」


(街の医者に行けない?)


俺は意味を理解するのが一瞬遅れた。


(そうか、この体じゃ安易に人里まで出られないのか・・・)


トムさんがトニーを少し過保護気味に扱っている気がしていたが、その理由が理解できた気がする。

街にいけないということは、医者だけでなく薬だって手に入れにくいはずだ。

そうなると小さなケガや病気でも深刻な事態に発展するリスクは結構高い。

まだ小さいトニーの場合は特に、だ。


「よし、こんなところか。異常なしだ」


「ぅー」


やったぜ、と言いたそうな顔でトニーが右腕を上げた。

所謂、ガッツポーズってやつだ。

・・・かわいいな。


「待たせたなハンス」


「いやいいさ。子供の方が優先だ」


ドクとトニーも俺たちのいるテーブルにつく。

トニーにだけ缶詰のビスケットが出された。

俺達には何もない。


(子供だからか?)


・・・いや多分違う。

俺たちはそれを食えないからだ。


「さて、どこから話を始めようか」


嬉しそうにビスケットを頬張るトニーの横で、今度は俺の番が始まった。


「トムさんにはあれからもう15年経ったって言われたんだが・・・、ホントなのか?」


「それは俺が目覚めてからの時間だ。俺が目覚めたのは討伐から5年後、つまり今は討伐戦から20年後ってことだ」


20年。

その言葉を聞いて、俺は鈍器で頭を殴られたような気分になった。

真偽を疑う視線をドクに向ける。


「ハンス、残念ながら」


そう言ってドクは俺に銀貨を1枚差し出した。

俺は意味がわからなかったが取りあえずそれを受け取った。

そして銀貨に書いてある製造年を見てドクの意図を理解した。


「本当、なんだな・・・」


俺は骨だけになった自分の腕を見た。


「夢じゃないのか・・・」


「ああ、夢じゃない」


ドクが俺の言葉を肯定する。

正直、ここは否定して欲しかった。


「俺達が腐竜を討伐した時、最後に光を浴びたのを覚えてるか?」


「ああ、そういえばそうだった気がする」


「未だに確証は得られてないが、状況から見て恐らくあれが原因で間違いないだろう。あの光の影響で俺たちは一度この世界から消えた。そして何年か経ってからこの体で目覚めたんだ」


俺は黙ってドクの説明を聞く。


「討伐隊に参加したほとんど全員がこうなった。一番早く目覚めたのは討伐戦から3年後、一番遅いのは20年後、つまりお前だ。大半は5年後から15年後ぐらいの間に目覚めてる」


「ほとんどってことは助かったやつもいたのか?」


「いや、お前みたいに確認できていないだけだ」


「そうか・・・」


トムさんも暗い雰囲気を纏いながら黙っている。


「元の体には・・・、戻れないのか?」


俺はドクに訪ねた。


(多分、戻れないんだろうな・・・)


ドクもトムさんもこの体のままなんだ。

きっと戻る方法は無いのだと思った。


「残念ながら戻る方法は見つかっていない」


ドクの口からは予想通りの回答。


「食事も睡眠も不要、筋肉の制約無しで動けるし、骨が傷ついても時間経過で元に戻る。・・・正直わけのわからない体だ。この体がどうして動いているのかすら未だにわからない。わかったのは死に方ぐらいのもんさ」


ドクが両方の手の平を上に向けて天を仰ぐ。


俺は横で嬉しそうにビスケットを食べているトニーを見た。

両方のほっぺがハムスターのように膨れている。

俺はほっぺをつねってやりたい気分になった。


「他のみんなは?今どうしてるんだ?」


「・・・」


「・・・」


2人とも答えない。

時間が一瞬だけ止まった気がした。


「俺の知ってる限り・・・」


トムさんの言葉で時が再び動き出す。


「元の生活に戻れたやつはいない。俺達みたいにひっそりと暮らすか、あるいは行き場が無くて自殺するか。復讐に生きるやつも少しだがいる」


「そう、か」


俺はリリィのことを思い浮かべた。

彼女は今どうしているだろうか。

どの道、もう20年経っている以上は戻るもクソもないのかもしれないが、それでも気になった。


「俺やトムはこれでもまだマシな方なのさ」


ドクが自嘲気味に呟く。


「なんてこった。リリィ・・・」


俺は頭を抱えて愛する女の名前を口にした。


「・・・女か?」


「ああ、出発前にプロポーズしたんだ。まさかこんなことになるなんて・・・」


今更彼女とのことを隠す必要もない。

俺はトムさんの質問に素直に答えた。


「アルフレッドと同じか・・・」


トムさんの言うアルフレッドというのが誰かわからなかったが、きっと自分同様に不運なやつがいたのだろう。


(そういえば、『帰ったら結婚するんだ』的な死亡フラグを立てていた奴がいたな・・・)


もしかしてあいつのことだろうか?

同じを傷を舐めあえるかもしれない相手がいる、ただそれだけで少しだけ気が紛れる気がした。


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