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第二章 第十四話:サン・マルボ教会

夜。


俺は分かれ道で月明りを頼りに地図を確認していた。

この辺の土地勘は無い。

ロッシが地図に書いてくれた教会の位置だけが頼りだ。


(よし、こっちだな)


俺は再び走り出す。

迷うといけないので、ペースは少しだけ加減する。


(教会か・・・)


トニーはいるだろうか?

グラトンでは速攻で逃げ出したが、トニーがいるならそうもいかないだろう。

この体で神の家に長居する可能性も覚悟しておく必要がある。


(・・・)


教会ということは、トニーもそういう教育を受けていたりするのだろうか。

なにせ、まだ5歳かそこらの子供だ。

俺が骸骨だと知ったら、悪霊退散!とか言ってうっかり御祓いされてしまうかもしれない。


どうせ召されるなら息子の手で天に召されたいものだが、今はまだ御免だ。


------------------


(あれか)


月もだいぶ動いた頃、俺は森の入口に建っている場違いな建物を見つけた。

ロッシが書いた印はこの辺りを差している。

付近に他の建物はない、あれで決まりだろう。

もっと質素な建物を想像していたのだが、こんな場所にあるのが不自然としか言いようのないほど立派な建物だ。


(なんでこんな場所にあるんだよ。修道院か?)


教会と名前がついていたが、幾ら立派な教会でもこんな人里離れた場所では人は来ないだろう。

修道院だと言われた方がしっくりくる気がした。



外はまだ暗いが、窓からは明かりが漏れている。


(そういえば・・・)


修道士というのは早くに起きて早くに寝る、と聞いたことがある。

普通の生活とはかけ離れた生活リズムで生活することで、神の存在を感じやすくするとかしないとか。

聞いたときはバカじゃないのかと思ったものだ。


(行ってみるか?)


とはいえ、その話が本当かどうかはわからない。

仮に本当だったとして、この時間に訪ねていくのが非常識なのは変わらないだろう。

俺は夜明けを待つことにした。


待っている間、中の様子を伺ってみることも考えたが、やめておいた方がいいと判断した。

なにせ俺はこれからトニーの父親として出向くわけだ。

下手に印象を悪化させるような行動は慎んだ方がいい。


俺はその場に腰を下ろす。

これが息子との再会前夜になることを願って夜を過ごした。


--------------------


「・・・あった」


時間帯は既に深夜。

ロッシは金庫から恐る恐る箱を取り出して中身を確認した。


ノエルと別れた直後、ロッシは急いで金庫の中にあるはずの箱を取り出そうとした。

だが、すぐに金庫を開けることができなかった。

番号を間違えたのか、あるいは錆びついて開かなかったのか。

ようやく金庫を開けられた頃には、もうこんな時間になっていた。


箱の中に入っていたのは2つの指輪。

ロッシの記憶と同じままの姿だった。


(よかった)


ロッシは安堵する。

ノエルにプロポーズするために買った指輪だ。

結構な値段がした。

仮に代わりの指輪が必要になった場合、資金的な意味で難儀することになる。


「ふう・・・」


その夜、ロッシは頭の中でプロポーズの予行演習をして過ごした。


骨の体のこともある。

元々考えていたシチュエーションからは大幅な軌道修正が必要だった。


-------------------


日が昇って朝食時を過ぎた頃、トムは意を決して教会の扉を叩いた。


「すみませーん」


「はい、どちら様ですか?」


扉が開いてシスターが出てきた。


「トム=ディズリーと言います。レオナルド=テオラル神父という方を訪ねて来たんですが・・・、こちらにいますか?」


「ええ、神父様ならいらっしゃいますが・・・。失礼ですがどういった御用件ですか?」


シスターはトムに軽い警戒の視線を向ける。

トムは気が付かない振りをした。


「実は・・・、奴隷商に売られた息子を探していまして。グラトンで記録を調べたところテオラル神父の名前を見つけたので、縋るような思いでここまで・・・」


トムは普段とは明らかに異なる振る舞いでシスターに経緯を説明した。


「まあ!それはそれは。取りあえず中へどうぞ」


「失礼します」


シスターがトムを教会の中へと案内する。

途中でシスターが他のシスターを呼び止めた。


「シスター・アンジェレネ、お客様を客間にご案内して貰える?」


「はい、シスター・ヴァーシル」


「私は神父様をお呼びしてきますね」


そういうと、シスター・ヴァーシルと呼ばれた女性が足早に教会の奥に向けて動き出す。


「あっ、そうだ」


直後にシスター・ヴァーシルが立ち止まって振り返る。


「お子様のお名前はなんというんですか?」


「トニーです」


「わかりました。少しお待ちください」


そういってシスター・ヴァーシルは再び歩き出していった。


「こちらへどうぞ」


代わりにシスター・アンジェレネがトムを案内する。

トムはアンジェレネの後ろをついていく


「ん?」


トムは途中で見た光景に目を引かれた。

視線の先では子供たちがお祈りをしている。


トムはつい立ち止まった。


「どうかされましたか?」


立ち止まったトムに気が付いたアンジェレネが振りむいて訝しむ。


「あ、いや、なんでもない。あの子供たちは?」


「身寄りのない子供たちです。ささやかではありますが孤児院もしていますので」


「そう、か。子供たちはあれで全部ですか?」


「そうですが。それが何か?」


「いや・・・。行こう」


アンジェレネはますます訝しむ。

トムがトニーを探していることを話したのはまだヴァーシルのみ。

それを知らないアンジェレネがトムに疑いの視線を向けることに不自然は無かった。



-------------------


俺は確信していた。


(いる。トニーはここにいる。)


こんな立派な建物だ。この教会は間違いなく金を持ってる。

きっと売られた子供たちを買って育てているに違いない。


(さっきの子供たち、あの中にトニーはいる。)

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