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第二章 第十三話:ロッシの帰還

ナシュラの外門前。

俺達は交換した地図を互いに相手に返す。

俺がトムさんの地図に書いたのはサン・マルボ教会の場所、トムさんが俺の地図に書いたのはアジトの場所だ。


「じゃあな。プロポーズ、うまくいくといいな」


「ああ、ありがとう」


それだけ言うと、トムさんは早速とばかりに教会に向けて全速力で走っていった。

重装備を纏った体がありえない速さでどんどん小さくなっていく。


トムさんと話したのは森の中から街に着くまでの間だけ。

あまり詳しいことは聞けなかったが、息子さんを探しているらしい。

俺以上に先を急ぎたい気持ちなのは容易に想像がついた。


(さてと・・・)


俺は外門の方を振り返る。


「俺も行くか」


時間は昼過ぎ。

俺は開いた外門をくぐって街の中に入った。

俺にとっては数か月ぶりのナシュラ、ナシュラにとっては5年振りの俺だ。


-------------------------


俺は街中を歩いて自分の家に向かう。

この体がばれるんじゃないかと内心は冷や汗だらけだ。


周囲の視線が気になる。

なんとなく見られているのは自意識過剰だろうか?


(やっぱり目立ってるか?)


骨の体を隠すためとはいえ、上から下まで文字通り完全装備だ。

これはこれで目を引くだろう。

俺は少し早足で家を目指す。


道具屋を右。


鍛冶屋を左。


街並みは俺の知っているものと変わらない。

5年経っているというのは、やっぱりトムさんにからかわれたんじゃないかと思えた。


そう思った直後、俺は目の前の光景に足を止めた。

目の前にあるのは俺の家。

手入れがされずに、随分とくたびれて見える。


(本当に、5年経ったんだな・・・)


心のどこかで、実はトムさんの冗談だった説を信じたい気持ちがあった。

が、これでは受け入れるしかないだろう。


俺は懐から鍵を取り出す。


ガチャン


グッ、グッ


「・・・あれ?」


鍵を開けても扉が動かない。


(・・・)


ゆっくりと両手で力を入れて扉を引いてみる。


ギギッ


少しだけ扉が動いた。


「マジかよ・・・」


元々古い家だったが、5年放置されたせいで扉がかなり歪んでしまっているようだ。


「家の補修もしないとなぁ・・・。ふんっ!」


ギギギッギギッ


俺は力一杯扉を引いて、何とか通れる程度にまで開く。


「ん?」


通行人の女性と正面から目が合った。

一瞬の静寂。


(どうしよう・・・)


怪しいものじゃない。ここは一応俺の家だし。

ただ・・・。


(骨だけの体ってのは、やっぱまずいよなあ・・・。よし、とりあえず無難にいこう)


「こ、こんにち「ロッシ?」


「・・・え?」


(知り合いか?でも、こんな美人の知り合いいたっけ?)


「ロッシ・・・なの?」


「そう、ですけど。えーと、どちら様で?」


「ほっ本当にロッシ?!わ、私だよ!ノエル!」


「は?」

(え?ノエル?何言ってんだこの人)


「いやいや。ノエルがあなたみたいな美人なわけないから」


「えっ?やだ、美人とか・・・。面と向かって言われると恥ずかしいよ・・・」


目の前の美女が顔を赤らめた。

俺はあれ?と首を傾げる。

これは如何にもノエルっぽい反応だ。


いやしかし。


だがしかし。


俺の知っているノエルは断じてこんな美人じゃない。

俺はじっと目の前の美女を見る。


(・・・)


「そ、そんなに見ないでよ・・・」


「あれ?ノエル?」


よくよく見ればノエルっぽい面影がある。


「だからそうだってば」


「いや、悪い。まさかこんな美人になってるとは思わなかったんだ」


「しょ、しょうがないな。じゃあ、許してあげる。久しぶりだし・・・」


「ああ、ありがとう」


取りあえず許してもらえたらしい。

猿もおだてりゃなんとやら。

美人とおだてりゃ許してくれる、ってとこか。


「ねえ」


「ん?」


「・・・どこ行ってたの?いままで。その、死んじゃったって聞いたから・・・」


骨になってました、なんて言えるわけがない。

ここはトムさんに伝授してもらった言い訳を使うとしよう。


「竜のブレスを浴びちまったんだ。全身大火傷でさ。ようやく動けるようになったんで帰ってきた」


「そ、そうなの?!大変だったんだね」


美人になったノエルが心配そうに俺の様子を伺う。

俺は上目遣いの瞳に内心ドキリとする。

体が骨にさえなっていなければ、このまま家に連れ込んでしまってるだろう。


うわーん!


「ん?」


ノエルの向こう側で子供の泣く声がした。

ノエルも後ろを振り返って声のした方を見る。


「あ・・・」


一瞬、ノエルの体が硬直したように見えた。

表情は見えない。


「ごめん!私行くね?近所の子供達の面倒見てたんだ」


「そうか。邪魔して悪かったな」


「うん、また今度話そうね?」


そう言ってノエルは泣き声の方向に走っていった。

俺はノエルの後ろ姿を見ながら内心で一息つく。


見た目は随分と変わってしまったが中身は変わってない、俺の知っているノエルそのものだ。

自分が帰るべき場所に帰ってきた、俺はそう感じた。

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