第一章 第二話:かわいいはジャスティス
誤記見つけたので直しました。
みなさん初めまして。
アルフレッド18歳です。
幼馴染だった彼女との結婚が控えているのですが、
全身が骨だけになってしまいました。
彼女になんて言ったらいいですか?
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(・・・)
「マジでどうすんだよこれぇええええええ!」
春の山脈に俺の声が響き渡る。
なんなのこれ?どうなってんの?
俺はなんで骨だけで動いてんの、わけわかめ。
頭を抱えて振りまわす。
傍目に見たら間違いなくやばい人だが大丈夫、どうせ周りには誰もいない。
それに人じゃねーし。骨だし今。
深呼吸だ、深呼吸しよう。
「スー、ハー、スー、ハー」
これ息できてんのか?
自分の手に息を吹きかけてみる。
・・・何も感じない。
近くの草に息を吹きかけてみる。
・・・草はピクリとも動かない。
試しに呼吸を止めてみる。
(全然苦しくならないな。)
便利な体だ。
(・・・よし、落ち着いた。)
まずよりなにより、この原因不明の骸骨化現象をどうにかしなければならない。
・・・いや、原因だけはわかってる。
あのドラゴンゾンビだ。間違いない。
きっとあいつのアンデットパゥアー()を浴びてしまったからこうなったんだ。
ホントにどうしよう。エリーゼになんて言ったらいい?
名誉の負傷って言ったらいい?バカじゃないのって言われんじゃね?
ダイエットしたって言ったら誤魔化せる?無理だよね?
どうすんのコレ、絶対怒るよアイツ。
さっさ治してこいって言われるに決まってるよ。
骸骨人間のままで結婚式とか絶対許してくんないよ。
彼女の怒る様子が目に浮かぶ。
とりあえずさっさと帰って治せる人探さないと。
治療費高いかなぁー?任務のケガだから国から治療費出るかなぁー?
出なかったらそれもエリーゼに怒られるだろうなぁ。
かわいい顔してそういうところはしっかりさんだもんなぁ。えへへ。
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出発前に、戦友たちの遺品になるようなものはないか探してみた。
だが、それらしいものは何も見つからなかった。
(仕方ない、あきらめるか。)
ちなみに往路で使った遠征セットも無かった。
実際問題、これはかなりの痛手だ。
なにせ、ドラゴンゾンビと戦った場所から街までは一か月以上の日数がかかるのだ。
来た時はみんなと一緒に獣を狩ったり、交代で見張りをしたりしてここまで来たが、
仲間がいないということは一人で水や食料を調達しないといけないし、夜も安心して眠れないということだ。
狩った肉を調理したり、寝床を作るための道具もない。
地図もなければコンパスもない。
帰りは時間がかかりそうだった。
喜べることと言えば、エリーゼへの言い訳を考える時間が増えたことぐらいだろう。
だが悩んでも仕方が無い。
形はどうあれ俺は生き残ったのだ。
俺の女神が今こうしている間も俺の帰りを待っている。
だとしたら俺がやるべきことは決まっている。
「よし、いくか」
いざ行かん、愛しの女神の元へ!
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山の中を歩き始めてから小一時間。
時計なんて持っていないが多分それぐらいだろう。
ある生物に遭遇していた。
(かーばんこぉ。)
俺の視界の先にいるのは世間一般でカーバンクルと呼ばれているやつだ。
俺はカーくんとか、かーばんこぉとか呼んでいる。
後輩にはキモイって言われた。
エリーゼには言われなかった。
額に赤い石がくっついていて大きいおめめ。
大きさは両手に乗るぐらいのウサギみたいなやつだ。
(かわういなあ、うへへ。)
まだこちらには気が付いて無い様だ。
木の上にぶら下っている木の実を見つめている。
きっと食べたいに違いない。
俺なら手を伸ばせば取れそうだ。
そう思って俺は木の実に手を伸ばした。
カーくんが俺に気づく。
ビクッ!
すんごいビクついて固まった。かわうい。
ぶちっ!
「ほれほれ」
取った木の実をかーばんこぉの目の前に転がしてやる。
ビビりながら木の実とこちらを交互に見ている。
「いいぜ、木の実あげるぜ?あげちゃうぜ?」
木の実の誘惑には勝てなかったみたいだ。
木の実を食わえたと思ったら、猛ダッシュで逃げていった。
逃げる後ろ姿も大変かわうい。へっへっへ。
よし、結婚したら一匹飼おう。
エリーゼもきっと喜ぶぜ。かわいいの好きだしな、あいつも。
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カーくんを見て癒されたことで気がついたことがある。
違う。
カーくんに木の実をあげたことで気がついたことがある、だ。
それは・・・。、
(この体ってメシ食えるのか?)
鎧の隙間を開けて腹部を見てみる。
あばら骨の中は見事に空洞だ。何もない。
試しに木の実を一つかじってみた。
食べた感じが何もしない。
木の実は首の下の辺りから地面に落ちた。
「メシ、食わなくていいんじゃね?」
おっと、うっかり独り言を言ってしまった。
寂しい老人じゃあるまいに。
もしかすると本当に飲まず食わずでもいいのかもしれない。
違うかもしてないが、今はよくわからない。
腹が減ったらまた考えよう。
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再び歩きだしてから小一時間。
もちろん正確な時間はわからないので体感でそれぐらいだ。
俺はさっきと似たような光景に遭遇していた。
(カーくんがいっぱいいるぜ、うへへ。)
今度は青い宝石をつけたやつらだ。
数は1、2、3、4、5、6、7匹。
かわいすぎてこいつら全部お持ち帰りしたい気分だ。
そのうちの4匹はさっきのやつと同様に高いところにある木の実を見ている。
別の3匹が木の根元をがりがりしている。
(登れないんだ。)
カーバンクルは木登りが苦手だ。
登れなくてジタバタしているところもかわうい。
熱烈なカーバンクル愛好家であるカーネル・ロット氏によれば、、
ダメな子ほどかわいく見える理論によってかわいさが3割増しになっているのだそうだ。
なるほど、納得のかわゆさだ。
なので、俺は再び木の実を貢ぐことにした。
俺の存在に気が付いた7匹が息を合わせてビクつく。
「かわういやつらめー、一人一個ずつだぜー?うっへっへ。」
どう見ても不審者だが大丈夫、誰も見ていない。
7匹が木の実を加えて逃げていく。
1匹でも相当なかわいさだったが、7匹が纏まってぴょんぴょんするのはさらにかわうい。
骸骨になって落ち込んでいた俺の幸せゲージは、この時点で既に満タンになっていた。
意気揚々と山を進んでいく俺。
そう、この先にとんでもないやつがいることも知らずに。