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第二章 第十一話:グラトンの闇

*誤字脱字を少し修正しました。

南東の街グラトン、俺は再びこの街を訪れた。

目的の場所はもちろん、奴隷市場のある南東エリアだ。


-----------------


奴隷市場に入ってすぐ、並べられている奴隷達が目に止まった。

老若男女を問わず、首から値札をぶら下げて並んでいる。

お世辞にもいい扱いとは言えないだろう。

価値の低い奴隷は、ああやって纏まった数をどんどん売りさばいていく。

価値の高い奴隷は個別の檻に入れられたり着飾ったりして、もう少し扱いがいい。


俺は市場の中を歩きながらトニーの事を考えた。

トニーの扱いはどちらだったのだろう。

後者であればまだいいが・・・。


そんなことを考えつつ、俺は目的の場所である奴隷市場の管理をしている建物に入った。


奴隷の売買は領主であるグラトン家のみが独占的に許されていて、全ての奴隷売買は形式的にグラトン家を通すということになっている。

一応は公的な取引ということで、過去の売買は記録に残されている。

金を払って閲覧を申請すれば過去に売られた奴隷の記録を調べられるというわけだ。


とはいえ、訳アリで名前や身分を偽っている場合も多いらしい。

俺は申請用紙に記入しながら、マーガレットが正直に申請してくれていることを願った。


「過去に売られた奴隷を探したい」


俺は入口の受付に申請用紙を差し出す。


「過去の記録の閲覧ですね?小銅貨1枚になります」


俺は腰の袋から小銅貨を1枚取り出して受付に渡した。


「これが閲覧許可証です。初めてであれば説明しますが?」


「いや、大丈夫だ。何度か来たことがある」


「では日没までには返却下さい。ごゆっくりどうぞ」


俺は許可証を受け取って奥の方へ進む。


(まさか、自分の子供を探しに来ることになるとはな)


過去にも人探しでここへ来たことがある。

あの時は借金のカタに売られた家族を取り戻すのが仕事だった。

自分に家族が出来たら、こんな目には会わせたくないと思ったものだ。


(この辺りか・・・)


俺が腐竜討伐に駆り出されたのが5年前、全滅の知らせが村に届いたのがその半年後。

そしてその数か月後にトニー達が村を出た。

調べるならその時期からだろう。


俺は本棚から帳簿を抜き出してトニーとマーガレットの名前を探し始める。


(トニートニートニー、マーガレットマーガレット)


ふと思った。マーガレットの新しい男の名前で登録しているかもしれない。


(あのおっさんに聞いておくんだったな)


まあ今更だ。ここで手がかりが途絶えたらもう一度ポトールイへ行こう。

ちょうどそう思ったとき、うまい具合にトニーの名前を見つけた。

特徴欄に小さい子供と書いてある。


(売ったのは・・・)


売り手の欄にマーガレットの名前があった。

ビンゴ、これだ。


売られたのは今から4年以上前、村を出てすぐにここへ来たようだ。

ということはトニーはまだ2歳ぐらいの頃ということになる。


(・・・)


その時の様子を想像した。

きっとトニーはわけもわからずに売られただろう。

母親に泣きすがったかもしれない。


(あいつら・・・)


マーガレット達に対する怒りが少しずつ沸き始めているのを自覚する。

俺は続けて買い手の欄を確認した。

売った1カ月後に買い手がついたようだ。


(買ったのは・・・、神父?)


労働力目当てのやつらが2歳児のトニーを買うわけはないが、まさか神父が買っているとは思わなかった。

子供のいない夫婦あたりが子供の奴隷を買って育てるというのはあるらしいが・・・。


連絡先の欄に書いてある教会の名前を控える。

教会なんて今までの人生で数えるぐらいしか行ったことがない。

この教会がどこにあるのかまったくわからなかった。


俺は地図を取り出して教会の名前を探した。


(・・・見当たらないな)


携帯用の地図に載っていないということは、少なくとも大きな教会ではないようだ。


(・・・教会で聞いてみるか。確か北の方にあったな)


俺は奴隷市場を後にして街の北にある教会に行くことにした。


------------------------


サン・グラトン教会。

街の北方にある教会の前で、俺は少し悩んでいた。


(俺の体、浄化されてなくなったりしないよな?)


この体、間違っても神の祝福を受けられる体ではないだろう。

場合によってはこの場所で天に召されてしまうかもしれない。

俺はドラゴンゾンビに突っ込んだ時以上の恐怖を感じていた。


(・・・聖水とか浴びたら死ぬんじゃないか?)


なるべく早く済ませよう。

トニーを買った教会の場所を聞いたら速攻で撤退だ。


ギィッ


俺は意を決して教会の扉を開いた。


「お」


ちょうど扉の近くにシスターがいた。

眼鏡を掛けておっとりとした感じだ。


「すみません、少し教えて欲しいんですがいいですか?」


「あら、なんでしょう?」


「この教会がどこにあるか教えて欲しいんですが、もし知っていればこの神父様のことも」


俺はそう言ってトニーを買った神父と教会の名前の書かれた紙を差し出した。

いきなり切り出すのもどうかと思ったが仕方ない。

長居すると、本当に体に何か起こりそうだ。


「えーと、サン・マルボ教会ですね。確かナシュラから南に行ったところにあったはずです」


シスターは少し戸惑った様子を見せながらも教えてくれた。


(ナシュラ・・・、西か)

「神父様の方は?」


「うーん、こちらの方はわかりませんねぇ。この方にどんな御用が?」


「探し人の依頼を受けてまして。この神父様が何か知っているかもしれないんです」


「まあ、そうでしたか。それでは、神の御導きが・・・、あら?」


シスターが祈りを捧げようとしたので、俺は全速力でその場から逃げ出した。

こんなところで天に召されるのは御免だ。

もしかしたら杞憂かもしれないが、それを試す勇気は無かった。


-------------------


(ナシュラの南・・・か)


俺はグラトンを出て地図を確認していた。

南と言っても、教会の具体的な位置はまだわからない。

まずはナシュラに行ってから聞くのがいいだろう。


全力で走って2~3日といったところか。

地図を仕舞ってナシュラの方向へ走り出す。


(トニーに会ったら何て言おうか。久しぶり?待たせたな?・・・違うよなぁ)


走っている間は他にすることもない。

俺はトニーと再会した時のことを考え始めた。


マーガレットがいないということは俺が父親であることを証明してくれる人間がいないということだ。

この体のことも隠して続けることは出来ないだろう。


いきなり現れて父親を自称する骸骨人間。

信じるか?


(無理だろ・・・)


少なくとも自分がトニーだったら絶対に信じない。

ビビって逃げ出すか、そうでなければ、


「悪魔め、やっつけてやる!」


とか言って向かって戦おうとするだろう。


(ちょうどそんな年頃のはずだしな。それに・・・)


母親に捨てられて人間不信になっているかもしれない。


一体、自分は父親としてどんな言葉を掛けるべきなのか。

そもそも掛けられる言葉はあるのか?


結局、一晩中考えても答えは出せなかった。

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