第二章 第十話:唐突な再会
誤字脱字直しました。(気づいたとこだけ)
村を出発して3日目、俺はポトールイの街を歩いていた。
目的はもちろんトニーとマーガレットを探すためだ。
昼は普通に街中を歩いて聞き込み、日が暮れてきたら屋根に昇ってそれらしい人影を探した。
まあ、あれだ。
見つかるわけがない。
職を失ったが如く、俺は途方に暮れて街を歩いていた。
時間は子供たちにおやつを食わせる頃合いだ。
そもそも、である。
この街に2人がいるかどうも確証がない。
それこそ家族が誘拐されたとかなら必死に探しそうな気もするが、肝心の嫁は他の男と出て行ったとなると心情的に難しいだろう。
見つけ出して復讐しよう、なんて気分にも今のところならない。
正直言って、積極的に探し続ける理由を見つけられなかった。
モチベーションになるとすればトニーの成長した姿を一目見たいということぐらいだろうか。
と、そんなことを考えていた時、
「どうしたんだいニーサン?そんなにしょぼくれちまって」
露天商のおっさんに声を掛けられた。
「別にしょぼくれちゃいねえよ。少し・・・、疲れてただけさ」
「そうかい?探してるやつが見つからねぇって背中してるぜ?」
心を読まれたようでギクリとする。
おっさんが笑う。
「俺でよければ話してみろよ。もしかしたら力になれるかもしれねえ」
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「ヒック、そうかぁ、ヒック、そいつは災難だったなぁ」
声を掛けられてから10分後。
俺は露天商のおっさんに同情されていた。
おっさんはマジ泣きしている。
(おっさん泣きすぎだろ・・・)
とりあえず、骨だけの体になったこと以外は全部話した。
今の俺は、苦労して帰った挙句に家族に逃げられた哀れな男だ。
「ちょっと待ってろ、今地図を書いてやるからな」
「ん?地図?」
なんの地図だろう。職安の場所だろうか?
別に今は仕事を探しているわけじゃないのだが。
「行くんだろ?マーガレットのところに。ヒック、まさかこんな薄情な女だとは思わなかったぜ。ヒック」
「え?・・・ちょっと待て、知ってるのかマーガレットのこと?!」
「ああ、ヒック。うちの近所なんだ、間違いねぇよ。美人で気立ての良い女でよう、グス。それがまさかなあ」
「マジかよ・・・」
俺は予想外の事態に面食らう。
まさかこんなにあっさり見つかるとは思わなかった。
というか、どうしてこのおっさんの方がここまで精神的なショックを受けているのか。
(当事者は俺なんだけどな・・・)
「ほら、ここだ、ガツンと言ってこい」
「あ、ああ、ありがとう」
(何を言えっていうんだよ)
俺はおっさんから手書きの地図を貰ってそこを後にした。
ちなみにおっさんは別れ際もずっと泣いていた。
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俺は露天商のおっさんに貰った地図を眺めながらバッテンのついた場所を目指して移動する。
(なんだこりゃ・・・)
まずは手書きの地図の解読作業が必要になりそう勢いだった。
まあタダで貰ったような情報だ、文句は言うまい。
「ここが宿屋だから・・・こっちか?」
思わず独り言が出た。
とにかく地図が読みにくい。
目的地のバッテンが付いているのはこの辺のはずなのだが・・・。
ガチャ
「おっと、すいません」
すぐ横の家のドアが開いた。
ぶつかりそうだったので咄嗟に謝ってしまった、のだが。
出てきた人を見て、俺は一瞬だけ固まった。
「マーガレット・・・」
「え?」
マーガレットが俺の頭からつま先まで視線を一周させる。
「・・・えーっと、どちら様?」
まだ心の準備ができていなかったが、とにかく俺は自分の妻と再会した。
いつのまにか『元』妻になっているらしいが。
「俺だ、トムだよ」
「・・・は?何言ってんの?ふざけないで」
マーガレットが急に不機嫌なオーラを出し始める。
「ふざけてなんてないさ、全身大火傷で顔は見せられたもんじゃないけどな」
「・・・そう。じゃあさっさと帰って。用は無いから」
「おいおい、話ぐらい聞いてくれよ」
「話すことなんてないわよ」
話すことはあるだろう、そう言おうとした時、家の中から子供の声がした。
「ママー、どうしたのー?」
(女の子?・・・今の男との子供か?)
「いいから、中に入ってな」
「そうだ、トニーは元気にしてるのか?土産、買ってきたんだ」
子供たちには非は無い、みんなで食べてもらおう。
そう思った矢先に予想外の答えが返ってきた。
「知らないよ」
マーガレットの不機嫌なオーラが一層強くなる。
こんな女だっただろうか?自分の知っているマーガレットとは別人のように思える。
気は強かったが、少なくとも人を無下にするような奴じゃなかったはずだ。
「知らないってことはないだろう?」
「知らないよ。もう4年以上前に売ったからね」
は?・・・売った?
どういうことなのか、意味が理解できなかった。
「売ったって・・・どういう意味だよ、それ」
「そのまんま。邪魔だったから売ったの。会いたきゃグラトンの奴隷商にでも聞いてみれば?」
奴隷商。その言葉でようやく意味が理解できた。
信じられなかった。俺の子供でもあるが、マーガレット自身の子供でもあるはずだ。
自分の子供を売って金にしたのか?
「ここまで来たんだ、もうわかってるんでしょ?アンタとの家族はもう終わりなの。もう関係ない他人なのよ私たち」
マーガレットが怒気を強めて言う。
バン!
そのまま勢いよくドアを閉じて中へ入ってしまった。
「おい、ちょっと待て、待てって」
俺は叩いて追いすがった。
マーガレットがドアの向こうで怒鳴る。
「なに?!これ以上人の幸せを邪魔しないで!」
「幸せって、俺たちの家族はどうなる?」
「好きにすれば?!言ったでしょ?!アンタとの家族ごっごはとっくに終わったのよ!私は今の生活が幸せなの!さっさと消えて!」
「好きにって・・・終わったって、じゃあなんで俺と結婚したんだよ?」
「ただの金蔓さ!稼ぎは良かったからね!金さえ貰ったら、もうアンタに用はないよ!」
「そんな・・・」
ドアに乗せた手から力が抜ける。
ショックだった。
もちろん100点満点とはいかないだろうが、それなりに認め合う仲だと思っていた。
そう思っていたのは自分だけだったとは・・・。
他の男と家を出て行った時点で予想がつくだろうと言われたらそれまでだが、やはり直接言われると全然違う。
俺はそれ以上追いすがる気力を削がれてしまった。
少しの間、呆然と立ち尽くす。
家族ごっこ、その言葉が胸に突き刺さった。
(浮かれてたのは・・・、俺だけだったのか?)
家族なんてものに縁が無かった自分の・・・独り善がりだったのだろうか?
子供の頃の自分の姿が思い浮かぶ。
それが徐々にトニーの姿に変わっていった。
(そうだ・・・!トニー!)
マーガレットのことは心の準備がそこそこ出来ていた。
だがトニーの事はまったくの予想外だ。
息子を自分同様どころか、それ以上に悲惨な境遇にしてしまった。
無いはずの心臓がバクバク言っている気がした。
(探さないと)
グラトン。
先日息子への土産を探した街へ、今度は息子自身を探しに走ることになった。
もう、戻らない女のことなど頭の中から飛んで行ってしまっていた。