表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/64

第二章 第九話:家族の行方

「で?誰もいないってのどういうことなんだ?」


俺はルーミアばあさんと再会した後、ばあさんの家に来ていた。

俺の家に誰もいない、その話を詳しく聞くためだ。


出されたお茶はもちろん飲めない。

一口だけ飲むふりをした。


「そのまんまの意味さ。とっくに出て行っちまったよ」


そう言ってばあさんが茶をすする。


「そのまんまって・・・、じゃあ今どこにいるんだよ?」


「さあね。新しい男のところじゃないかい?」


「新しい男って・・・、冗談はいいから教えてくれよ」


「本当にわからないんだよ」


ふーっ、とばあさんが息を吐いて視線を落とした。

俺の記憶にあるルーミアばあさんよりも少しくたびれて見える。


「あんたが出ていってから半年後ぐらいに、あんた達が全滅したって知らせが届いたんだ。それからすぐにマーガレットが知らない男を連れ込み始めてね。2か月もしたら村を出て行ってそれっきりさ」


「そんな・・・、何かの間違いじゃないのか?ほら、夢と現実の区別がついてないとかさ」


「わたしゃまだボケちゃいないよ」


「だよなぁ・・・」


そんなことは最初からわかってる。言ってみただけだ。

このばあさんは性格こそきつめだが、そこら辺はしっかりした人だ。こんな嘘はつかないだろう。


「はあ・・・」


愛妻のまさかの薄情ぶりにがっくりと肩を落とす。

精神的ダメージがそれほど大きくないのは、直接その様子を見ていないからだろう。多分。


「トニーも一緒か?」


「多分そうだろうさ」


「そうか・・・」


(息子との再会も無期限お預けか・・・)


その後は俺のいなかった5年間の村の様子を教えてもらった。

ニックが結婚したこと、シドに子供が生まれたこと、ニヴルじいさんが死んだこと。

なぜか自然と受け入れることができた。


-------------


「これ、よかったら食ってくれ」


ばあさんの家を後にするとき、家族の土産にと買った甘味を一袋渡す。


「おや、悪いね。マーガレット達のために買ったのかい?」


(全部お見通しか・・・)

「ああ、もういらなくなったからな」


昔聞いたことがある。

ばあさんの旦那の話だ。


昔、俺と同じように竜の討伐に駆り出されて帰ってこなかったらしい。

ばあさんは結婚して早々に未亡人。

それから縁談の話もあったらしいが、死んだ旦那に操を立てて全部断ったそうだ。


そいつが少し羨ましくなる。


(こんなにいい女置いて何死んでんだよ)


「これからどうするんだい?」


「取りあえず家の様子だけ確認して・・・、それから2人を探すよ」


「そうかい、また寂しくなるね」


「なに、またすぐに戻るさ」


それだけ言って俺は自分の家に戻ることにした。

2人を探すのを止めなかったのは、きっとばあさんなりの優しさなんだろう。


「あ、そうだ」


ひとつ言い忘れた、と思って振り返る。


「なんだい?」


「俺が村に戻ったことは・・・」


「秘密にしておいてくれって言うんだろ?長い付き合いだ、わかってるさ」


「ああ、頼む」


そう言って俺は今度こそ家に戻った。


-----------------------


「こりゃあ・・・、ひでぇな」


思わず独り言が漏れた。

生活感がまるで無い。

というか生活用品がまるで無い。

どうやら大半を持っていかれたようだ。


金目の物も無くなっている。

・・・こっちは元々少ないが。


(ん?)


棚の横に何かが落ちているのを見つけた。


・・・写真立てだ。


拾って埃を手で払う。

家族3人が写っていた。


俺とマーガレット、そしてトニー。

グラトンに行ったときに撮った家族写真だ。


この時は俺が無理言って撮ってもらったんだ。


俺は自分が子供の時に死んだ親父の顔を覚えていない。

お袋の顔もだ。

だから、家族の証として形に残るものが欲しかった。

トニーにも俺の顔を覚えていて欲しかったから。


写真の落ちていた辺りを見る。

他には何もない。

この家族写真だけが置いていかれたらしい。


(・・・)


せめて、トニーの成長だけでも確認したいと思った。


-----------------------


その日の深夜。

俺はみんなが寝静まったのを確認してから村の外へ出た。


ばあさんの言葉を思い出す。


『出ていく直前にポトールイがどうとか話してたね』


(ポトールイ、か)


次の目的地は決まりだ。

他に手がかりもない。


俺はマルティに貰った地図を確認する。

ポトールイに行くのは初めてだ。

まさかこんな形で行くことになるとは思わなかった。


俺は夜の道を走り始める。


相手の男はどんなやつだろう?

幸せに暮らしているのだろうか?

もしそうだとしたら、今更会って俺は何を言えばいい?


考えが頭の中をグルグル回る。

一晩中考えても答えは出なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ