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第二章 第六話:故郷へ

2人のいたアジトを出発してから3度目の夜。

途中で地図を確認した時を除けば、俺は休むことなく全力で走り続けていた。


普通の体であれば一か月以上必要な距離を既に8割以上進んでいる。

今ばかりはこの体に感謝だ。


マルティの言葉を言葉を思い出す。

もう5年経っているんだ。少し遅くなったところで確かに今更感はある。


(それでも・・・)


感情が付いていかないこともある。


「キャァアアア!」


(・・・!)


夜の平野の静寂に女の悲鳴が混じった。

進行方向向かって右側。

すぐそこ、というほど近くもないが、かといって遠くもない。

助けようと思えば助けに入れる距離だ。


(さて、どうするか)


そんなのは決まっている。

人を見捨ててどんな顔で家族に会うというのか。

助ける一択だ。


俺は向きを声のした方へと向けた。


---------------


数分ほど走ったところで声の出所を見つけた。

どうやら馬車が襲われているようだ。

夜目を凝らして状況を確認する。


(乗っているのは貴族か?)


明らかに平民向けではない馬車が人に囲まれていた。

馬車を守るようにして騎士が2人。

既に何人かはやられたようだ、似たような格好の奴が数人地面に倒れている。


襲っているのは3人・・・いや5人だ、馬車の向こう側にも2人いる。

夜盗のような格好をしているが・・・。


(・・・多分違うな)


動きが洗練されすぎている。

おそらく夜盗の振りをした本職の暗殺者だろう。

護衛の騎士達も必死に応戦しているようだが、一目見ただけでわかるほど技量に差がある。


俺は走るのが遅くならない範囲で気配を殺して背中の大剣に手を伸ばした。

マルティ達に短剣も1本貰ったが、小回りの利く武器は温存しておくのが俺の流儀だ。


呼吸をしなくていい体の優位性を実感する。

普通の体よりも遥かに気配を殺しやすい。

俺は剣を振り下ろす用意をしたまま暗殺者の背後に迫った。


俺が切ろうとしていた暗殺者がこちらに気づいた。


(遅いっ!!)


フッ!!ガシュッ!!


俺の大剣で相手の胴体が斜めに分割される。

血が噴き出す音で他の連中も俺に気が付いたようだ。


「誰だっ!」


「援護か!?」


反応には構わず、俺は振り下ろした剣を振り回して横のもう一人を狙う。

慌ててバックステップで逃げようとするがもう遅い。

普通の剣とはリーチが違うのだ。

2人目は胴体が上下に分割された。


(これで2人っ!)


俺は3人目に狙いをつける。

おそらく鍔迫り合いをしていたのだろう、すぐ横に護衛の騎士もいる。

これでは横方向に切るのは無理だ。


俺は大剣を正面に向けて右脇に刃を縦にして構える。

剣は少し引き気味、突き出せるようにしてから体ごと突っ込んだ。


「ぐっ!」


相手は護衛から距離を取るように横へ飛ぶ。


(・・・!)


相手の反応で察した。

こいつらはおそらく大剣相手にやりあった経験が乏しい。

この場面では護衛を盾に動くのが定石だ。

護衛の実力が大したものでないのは既にわかっているのだ。少なくとも護衛から距離を置く手は無い。

きっと対人戦専門でやってきたのだろう。

対大物用の武器相手の対処法はわかっていないようだ。


(それならっ!)


俺はあっけに取られている護衛の目の前で強引に方向転換しつつ、刃を横にして相手の視界から腰の短剣を隠す。


ドンッ!


腰に左手を伸ばしながら全力で地面を蹴る。

相手は体を落として大剣の下に入ろうと動いた。


そう、狙い通りの動きだ。


ドシュッ!


俺は大剣の下に入り込んだ相手の首に躊躇いなく短剣を突き刺した。


グシャァッァアアア!


血が勢いよく吹き出す。

短剣越しに相手の力が抜けるのを感じ取った後、俺は残りの二人を始末するために馬車の向こうに意識を向けた。


「おいっ、やられたのかっ!?」


返事などあるわけがない。

俺は一瞬だけ体を屈めて、馬車の下から足の位置を確認する。


(そこかっ!)


足を伸ばした勢いのまま、反対側へと回り込んだ。


---------------


残る2人の内、1人はちょうど同じタイミングで反対側から回り込んだらしい。

俺が反対側についたとき、護衛と暗殺者の2人しかいなかった。

2人とも俺のいる方とは反対側に視線を向けている。


(もらったっ!)


グシュッ!

「が、ぐひゅっ」


真横から大剣を突き刺した。

手応えあり、肺は両方潰れたはずだ。もう助からないだろう。


「えっ?・・・ひっ!!」


相対した暗殺者の異変に気が付いた護衛が声を上げる。


(お前の相手は後でなっ!)


俺は再び膝を曲げて馬車の足元から最後の一人の位置を確認した。


(そこかっ!)


大剣を離して馬車の上に飛び乗る。

軽い。

鎧を着ているとはいえ、体は骨だけ、大剣も無い。


タンッ!


馬車の上で一歩。

そのまま短剣を下に構えて最後の一人に襲い掛かる。


「・・・!」


馬車の屋根を蹴った音に気づいて相手の視線がこちらに向いた。

俺の位置を確認するために再び反対側へ戻ろうとしていたようだ。

体は横を向いている。


「遅いっ!」


ガシュッ!


無防備になった首をえぐり取るように剣を突き刺す。


「っがっ!」


一瞬だけ首を抑えようとして両手が動いたが、すぐに力尽きた。


---------------------


周囲の様子を探る。

どうやら襲っていたのはこの5人だけのようだ。


「ふう、・・・取りあえずこんなもんか」


大剣を回収しに再び馬車の反対側へ向かう。

唖然としている護衛と視線が交わった。


「な、何者だ!」


護衛がこちらに剣を向ける。


「おいおい、助けてやったのに剣を向けることはないだろう?それとも、助けない方が良かったか?」


「い、いや、そういうわけでは・・・」


俺は話しながら大剣を回収する。

取りあえず助けるだけは助けたが、もう十分だろう。


自分の鎧を見る、血だらけだ。


(固まる前に拭いておかないとな)


これから家族のところに帰るのだ、少しぐらいは気を使っておきたい。

が、鎧の血を可能な限り拭くためには鎧を脱がなければならない。

ここには生き残った護衛が2人、それに・・・。


(馬車の中に1人か)


人前でこの姿をさらすのは勿論論外だが、それでなくともこれ以上は関わらない方が良さそうだ。

こんな時間にこんな場所で、護衛が5人もついた貴族の馬車がこれまた5人の暗殺者に襲われている。

これが厄介事でなければ何がそうだと言うのだろう。


(さっさと行った方がいいな)


そう思ったとき、馬車の反対側からこちらに来た護衛と視線が交わった。


「助けて頂いたようだな。良ければ名を聞かせて貰えないか」


(なるほど、こいつらも貴族か。なおさら関わりたくないな)


「何、名乗るほどの者じゃありません。先を急いでいますので、これで」


「あ、おい!」


俺は全速力でその場を後にした。

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