第一章 第一話:スケルトン誕生
「おれ、この戦いが終わったら結婚するんだ。」
「先輩それ死亡フラグっすよ」
「え、そうなの?」
俺の突然の決意表明に後輩が速攻で突っ込みを入れる。
「わはは、早くもダメそうじゃねーか」
「そんなぁ・・・」
前を歩いていた分隊長まで笑い出した。
俺たち討伐隊は今、東に向かって進軍している。
目的は、現在俺たちの国に向かっているドラゴンゾンビの討伐。
討伐隊の総数は100人以上、俺が兵士になって以来の大作戦だ。
ここで手柄を立てて華々しく帰還、そしてそのまま愛しのエリーゼとゴールインするぜ!
俺の頭の中は早くも幸せいっぱいのお花畑モードになっていた。
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次の日。
ドラゴンゾンビを確認した。山の中をゆっくりと俺たちの国の方に向かって移動している。
「でかいっすね」
後輩が思わずため息をつく。
無理もない、俺も同じ気持ちだ。
何せ、足のサイズが人間の身長より大きいのだから。
「よし、配置につくぞ。わかってるな?合図があるまでは見つからないようにしろよ?」
分隊長から指示が飛ぶ。
俺たち5人は岩陰に隠れた。
他の分隊もうまく隠れる場所を見つけたみたいだ。
作戦はこうだ。
まず、弓の連中が高所から攻撃して気を引き付ける。
その間に俺たちが近づいて足を壊して身動きを封じる。
そして最後にゾンビの心臓とも言える核を潰してフィニッシュだ。
俺たちの担当はドラゴンゾンビの左足。
(俺に力を貸してくれ、エリーゼ)
「始まった見たいっすね」
俺が女神に祈りを捧げている間に弓矢の連中が仕掛けたようだ。
ドラゴンゾンビの頭上から、雨あられと矢が降り注ぐ。
「ギュゥアァァァァ!」
ドラゴンゾンビが吼える。
「これ、俺たち近寄れなくね?」
「そっすね」
「そうだな」
後輩と分隊長が同意する。
他の2人も頷く。
大量の矢がドラゴンゾンビの腐った皮膚に突き刺さる。
「ギュラァアアアアア!」
ドラゴンゾンビが頭上に陣取る弓屋達を睨んで咆哮を上げた。
体の内部にダメージは無い様だが、気にはなるらしい。
注意を引けたと判断したのだろう、矢の雨が収まった。
「よし、いくぞ。でかい声出すなよ?」
その言葉を合図に左足に向けて走りだす。
他の足を担当するの連中も既に飛び出している。
咆哮を上げるドラゴンゾンビに60人余りが静かに殺到した。
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ドスドスッ!ドス!
剣が、槍が、斧が、それぞれの自慢の獲物がドラゴンゾンビの足に突き刺さる。
もちろん俺の剣も、だ。
生きたドラゴンと違ってドラゴンゾンビの組織は容易に破壊できる。
「ギュァアアアアアア!!!」
足元への攻撃に気が付いたドラゴンゾンビが吼える。
次の瞬間、力強く尻尾を振り回した。
後ろ足担当の連中がゴミのように吹き飛ばされる。
だが足を破壊するのには成功したようだ。ドラゴンゾンビの動きが明らかにおかしい。
「うおおおお!」
分隊長が自慢の大斧でドラゴンゾンビの前足の健を切断する。
これでこの足も使えないだろう。
筋肉もズタズタだ。
「ギュアァァァアアアア!!」
最後の一つを担当していた連中もうまくやったようだ。
ドラゴンゾンビは地面の上で体をくねらせている。
「離れるぞ!後退!」
元の岩陰のところまで全速力で走る。後ろは見ない。
「はぁっ、はぁっ、・・・ふう。」
息を整えながらドラゴンゾンビの様子を伺う。
「うまくいったっすね」
俺たちの分隊は犠牲者ゼロで済んだ。
だが、後ろ足をやった連中はかなりの被害が出たようだ。
あいつの尻尾に吹き飛ばされてからずっと起き上がらないやつが何人もいる。
(気を失ってるだけならいいんだけどな)
「ギュゥゥゥゥゥ!」
ドラゴンゾンビはと言うと、再び矢の雨にさらされている。
だが、腐食した皮膚には刺さっても身体機能を奪うまではいかないようだ。
「お、来たな」
分隊長の声につられて同じ方向を見る。
どでかいグレートソードを持った連中が見えた。
数は・・・、1、2、3人だ。
再び矢の雨が止む。
それを合図に、人間よりでかい剣を構えたガチムチな男達が突撃する。
狙うはドラゴンゾンビの胸、青白く光る核だ。
ドッ!ドドッ!
弓屋に気を取られたドラゴンゾンビの胸に3本のグレートソードが突き刺さる。
「ギィィィュァアアアアアア!」
ドラゴンゾンビの胸から勢いよく光が漏れ出した。
一瞬の収束と静寂。
そして、俺たちは光に包まれた。
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ハッ、と目が覚めた。
気が付けば仰向けで気を失ってしまったらしい。
(関節が動かねぇ・・・)
ゆっくりと上半身を起こす。
倒れたからなのか、固い地面に寝ていたからなのか、体中がギシギシする。
体を動かすのがぎこちない。
あの後どうなったのだろうか。
上体を起こしてドラゴンゾンビのいた場所を見る。
そこには何もいなかった。
ドラゴンゾンビだけではない。
グレートソードで突っ込んだガチムチ共も、高所に陣取った弓屋達も、そして同じ分隊の連中も。
誰もいなかった。
(みんなやられたのか?)
普段なら自分を置いてみんな先に帰った、なんてギャグみたいな展開もあるのだろうが、流石に今回は違うだろう。
あの光でやられたとしか思えなかった。
とりあえず付近を捜してみよう、そう思って体を起こそうとした時、それが視界に入った。
手。自分の手だ。
そう、『骨だけの』自分の手がそこにあった。
「ひゃ!」
思わず変な声が出た。
恐る恐る手を観察する。
見事に骨だけだ。右手も、左手も。
(まさか・・・)
恐る恐る自分の体をまさぐる。
背筋が凍りついた。
手だけじゃない。腕だけでもない。
全身が骨だけになっていた。