縁の源
――ゾルザ=ジークムントは無敗の将軍である。勿論仲間内の小さな賭けには負けることはあるのだが、戦争……ひいては喧嘩にいたるまで、武力の面では他とは隔絶した技巧と純粋な膂力をもって自らに勝利を引き寄せる。快活なその性格も相まって彼の評判は高い。種族は竜人である。
――マオ=ホーキンスはゾルザの副官である。僧としての修行を終えた彼は祈祷魔法に精通しており、治療士としては高位である。国の孤児院の管理者でもあり、子供たちを護るために心を鬼にして戦争に加わっている。種族は人間である。
――ミスイは、しがない占い師である。しかし占いに関しては彼の右に出るものはいない。一日の天気に始まり、魔獣の大発生から大魔術の行使の気配まで、彼にかかれば見通せないことはない、と自称している。神出鬼没な占い師のため、街の七不思議として噂の的となっている。種族は獣人である。
――シー・ラ=ニ・ルラは放浪の吟遊詩人である。気の向くまま、風の吹くまま各地を旅している彼女は詩で日銭を稼いでいる。大森林で氏族一の歌い手と呼ばれた彼女の詩はまるで戦場を追体験しているかのような没入感を人々に与える。種族は森人。
縁の繋がる先は余人の知るところではない。偶然の土砂崩れが新たな川の流れを作るように、何気ない日々の中で多様な縁への標があるものである。それは命を救う大きなものであったり、日常の小さな幸せに繋がるものであったり……。
この物語は奇妙な縁に導かれた4人の物語。
どうか、この物語が、誰かとの縁になりますよう――。
【マオ=ホーキンス】
「ゾルザ! お前が一番前に出てどうす……あぁくそ! 闘神よ、我等に加護を与えたまえ!!」
荒れ果てた荒野に、数千の軍勢が広がっている。
大地を覆う絨毯の如く規則正しく整列した様は戦さ場に出たことのない若手であれば威圧感に膝を震わせ、弱いものなら失禁してしまうことだろう。
そしてその軍勢に立ちはだかるはラムレザル王国が誇る無敗の竜人将軍ゾルザ=ジークムント率いる闘神軍。団の過半数が竜人――ドラゴノイド、ヒューマノイドと人化できる高位ドラゴンとのハーフ。その子孫である――で構成されており、鉱石の塊を軽々と持ち上げる膂力と溢れ出る魔力に満ちたその身体でもって王国に確実な勝利をもたらしている。しかし――
「はははッ! 一番槍は俺が貰っていくぞ! さあ死にたい奴も死にたくない奴も一切合切かかってこい!
――我らこそはラムレザルを護りし誇り高き竜なり! 戦とあらば剣となって、是非なく全てを薙ぎ払おう! 我が名はゾルザ! 冥土の土産に持っていけ!!」
――と、このように困った輩もいるようで、皺寄せはとある男の元に総て行ってしまうのである。
その男の名はマオ=ホーキンス。無敗の将軍ゾルザの副官である。
「……おい見ろよ、マオさんまた団長についていってるぜ」
「すげぇな、なんだかんだ団長の背中守ってるもんなぁ……」
「ていうかあの人も大概おかしいよな……ほら、片手であんな鉄の塊振り回してんだぜ……あの人ほんとに人間かよ」
「それ絶対マオさんに言うなよ……最近気にしてるらしいから、聞かれたら訓練三倍にされるぞ」