第一章08 「領主の依頼」
毎回これくらいの長さで投稿していこうかと思います。
Side快
ギルドマスターとの激戦の後、あのアイテムを再度使いギルドマスターの部屋へと無事戻ってきた。そこにはもちろん盗み見ていた領主の姿もある。
「まずは君を試すような真似をしたことを謝罪しよう。すまなかった」
「……まぁ、ただ見ていただけだからな。実害がない限りどうこう言うつもりはない」
「そういってくれると助かるよ」
実害がこれから出てこないように釘をさしておく。こう言っておけばそこまで首を突っ込んだりはしてこないはずだ。……たぶん。
ギルドマスターほどではないのだが、領主もそれなりにがっちりとした体つきで、領主と呼ばれているのを見なければ誰もそうは思わないだろう。年は40くらいだろうか。顔には少し皺があり、髪にも白髪がちらほらと見受けられる。しかしそれらを感じさせないかのように顔は笑顔だ。もう一度言う気持ち悪いほどの笑顔だ。
「ギルマスのおっさん」
「……お、おう」
「この状況を説明してくれるんだろう?」
「――それについては先ほども言ったけれども、私から話させていただこう」
「……どうぞ」
「うむ、では――」
そう言って領主が話し始めた内容は、どうも裏があるような感じがした。
事の発端はここ一か月、白魔の森の魔物たちがあふれだしてきているとの報告から始まった。
とあるギルドのパーティーが白魔の森の周辺で討伐依頼をしていた時に、普段は絶対森の中から出てはこないホワイトクラスの魔物たちが襲ってきたというのから始まり、ついには近くの街道まで出没するようになったとのこと。これを危険視した領主が冒険者を募り討伐隊を編成。討伐に向かったが返り討ちにあった。もともとホワイトクラスの魔物と戦えるのは高位の冒険者位のもので、しかも何百人と用意しなければ太刀打ちが出来ない程の数があふれている状態だった。この辺境で集められるのはせいぜい数十人程度。多くのホワイトクラスの魔物を相手には勝つことができなかった。ということらしい。
「それで? 俺に原因でも探ってきてくれとでも言いたいのか」
「……うむ。……そういうことになる」
言いたいことを先に言われて少し戸惑ったようだ。まぁ、ちょっと考えれば分かることではあるのだが、ホワイトクラスの素材を大量に持って来た強い新人が来たと報告を受けてターゲットを絞る。素材の買取を受付嬢に渋らせて、そこを助けて恩義を感じさせて好感度を上げる。さらに模擬戦をして実力を把握するという感じかな。
「……領主。こいつには全部お見通しみたいですよ」
「そう……みたいだね。先ほど君が言った通り、我々は君に白魔の森の調査を依頼したい。なお、今回は特殊な依頼として報酬の半分を前払い、依頼を破棄しても前金を返却せずとも問題ない。しかし前金を受け取った場合、一度は白魔の森の奥へ行き簡単でもいいので調査報告をしてもらいたい。そのあとに依頼破棄可能という形になる。なおこの依頼を完遂してもらった場合。ギルドランクを”緑”へと昇格することとする……これでどうだね」
「領主たちはお金を消費するだけで、痛手は大して無しか……」
そう俺が呟くと領主とギルドマスターの二人とも渋い顔をした。ぽっと出の何処の馬の骨とも知らぬ奴の命はどうなってもいいという考えでいくと、今回の依頼は領主たちに利があるだろう。脅威となるか助けとなるかわからない強者をあえて拾う必要はなく、上手く使う手としてはいいほうだろう。
「それじゃあ一つ条件を追加してくれ」
「……話を聞こう」
「――貸し一つだ」
「……なんじゃそりゃぁ?」
ギルマスのおっさんがそういう
「……どの程度だね」
「さすがに領主にはわかったか」
「おいおい、二人で話を進めないでくれよ」
「……”貸し一つ”とても重たい言葉だよ。私たちが一気に不利になることもある条件だ」
「そういうことだ。そっちだけリスクを負わないのは不公平だからな。こういうのはどっちもリスクを負うのが交渉というものだよ」
「……貸し一つねぇ、俺にはさっぱりだよ」
「見た目もそうだが、頭も固いんだなおっさん」
「それはどういうことだよ!」
おっと、ちょっとおっさんが怒ったぞ。……悪ふざけはここまでにして、話してあげましょうかね。
「つまり、俺があの時の貸しを返せと言えば、おっさんたちはなんでもしないといけないということさ。もしこの依頼を完遂できれば、俺はおっさんたちにかなわない力を持っていると証明できる。その力を持っているやつとの約束、それと脅しも効かせることができるな。その二つを握られている状態になっているわけだ、おっさんたちは。ということで俺の言う”貸し”を絶対返さないといけないんだよ。どんなことでもね」
「……ほんとに怖えぇ男だなお前さんは」
ギルマスのおっさんはどうにでもなれという感じでスキンヘッドの頭を乱暴にさする。領主に至っては考え込んでしまった。
「それで? どうする?」
なるべく軽く声をかける。俺も鬼じゃないが、どうも俺を見下している感じがしたのでね。これくらいは反撃しても罰は当たらないだろう。
「………………いいだろう」
「交渉成立だな」
ここに、後の”黒鬼”と呼ばれる冒険者の産声が上がったのである。
要約
ギルドマスターとの戦いを盗み見ていた領主。その理由は力試しのようだった。話を聞けば依頼をしたいとのこと。ここで主人公の交渉力が発揮される?