第一章07 「邂逅」
邂逅:突然の出会い、または予期せぬ遭遇
Side快
最初に動いたのはおっさんの方だった。その巨体からは予測できないでろう速度で飛び込んでくる。木剣を上から振り下ろすという単純な手ではあるが、身体能力が高いほど威力が増す攻撃だ。俺はそれを紙一重で躱しながら右へと流れるように移動し、がら空きの同へと一撃を入れようとしたのだが、ひょいとかわされてしまう。
「すばしっこいおっさんだ」
「おいおい、これでも今年で32だぞ」
「年が若いからおっさんじゃないとかじゃないんだよ」
「……よし、その喧嘩買った」
少し間をとり、再び対峙した際にそう会話をする。どうも様子見をしているようで面白くない。勝負を吹っかけてきたのは相手方のはずなんだがな。そしておっさんは挑発にうまく乗ってくれて、先ほどよりスピードアップした突進を繰り出してくる。ついついこちらも挑発してしまったが、まぁお互い様ということで勘弁してほしい。
さて、それよりもどうしましょうかね。さっきと同じことをするとおっさんが切り返してきそうだから……。
「……フッ!」
俺はおっさんの手首をつかみそのまま投げ捨てる。いわゆる合気道の動きだ。しかしちゃんと受け身をとって反応する所に、おっさんの実力を見せられるが、そこで俺の攻撃が終わるわけものなく、続けて袈裟切り、横に一閃と木剣をたたきつける。いくら体格が大きい相手だからって体制の整っていないところで攻撃されると反応が遅れる。おっさんも例にもれず反応しきれずに手をしびれさせたみたいだ。
「オラァ!」
力任せの大きな振りだが、身体能力が高いおかげなのか避けきれないような速度で剣を振ってきた。少し慌てて距離を取り、三度おっさんと対峙する。
「おいおい、ちょっとは戦いを楽しもうや」
「全力で戦うのが楽しいんだろう、戦闘というのは」
「……見かけによらずに本当に戦いが好きなんだなお前は」
「当然だ」
何を言っているんだおっさんは、真剣を使わなかったのは”死なないようにする”というだけであって、お遊びで闘いをするという意味ではないぞ。
「……不満そうな目でこっちを見るなよ。俺だって頑張ってやってるんだよ」
「見た目より早く動けるってだけで戦ってるおっさんの言葉は信用ならないな」
「……魔力のことをさっきまで知らなかったお前さん相手に魔法なんぞ使えるか」
どうやらそういうことらしい。先ほどまで少し違和感を感じていたが、何かどうも慣れていないというか、反応するまで少し時間がかかっているような気がしていたのだが、どうやらおっさんの戦闘スタイルというのは魔法ありきの戦闘スタイルのようだ。
「そんなもん関係ないだろう。使える手段は堂々と使う。そこに卑怯も何もないだろう。それが戦いというものだ」
実はこの言葉、じいちゃんの言葉である。俺が子供の時に近所の悪ガキと喧嘩した際、相手が砂で目つぶしをしてきたことを祖父に愚痴った時に言われたのだ。『闘いというのは美しいものではない。時には裸一貫で武装した集団と戦うこともあるかもしれしれないだろう。そのような時にもお前は同じようなことを言えるのか?』と。当時の俺には理解ができなかったのだが、今は俺もそう思う。決闘というなら話は別だろうが、俺は全力で闘いたいのだ。相手が使える手段をすべて使い、同じく自分が使える手段をすべて使いぶつかり合う。それが戦いなのだ。
「ハハッ……ハハハハハッ!!」
「どうした? そんなに俺の話が面白かったのか」
「あぁ、面白い。すげぇ面白れぇよ。最近の若いやつらは立ち回りとかぬかしやがるから、俺も少し毒されちまったみたいだな。……そうだそうだ。闘いってのはいくら無様でも関係ねぇんだよな」
「そういうことだ」
「なるほどな。通りでお前さんは強いわけだ」
まぁ、自分でもこんな考え方の奴は特殊だろうと思ってはいるが……。だからと言って俺が世界最強というわけでもないし……実際はなってみたいが。
「すまないな。俺が間違っていたようだ。ここからは俺の全力を使わせてもらおうか」
「望むところだよ」
俺たちは再び剣を構える。今度は魔法ありの全力勝負。正直勝てるかどうかはわからないけど、ただぶつかるのみだ。
「行くぞ」
「……あぁ」
そういうとおっさんの体が淡く光り始めた。薄く赤色のオーラが見えているというか……雰囲気が一変する。
【炎よ 灼熱の火球となりて 我が敵を焼き尽くせ”アポロボール”】
詠唱のようなものがかすかに聞こえ、目の前には大の大人が優に二人はいるだろうというほどの大きな炎の玉が現れた。……これ生きていられるかな。
「これが俺の全力の魔法だ。これを防ぎきれたらお前の勝ちだ」
「おいおい、勝手に勝利条件を決めるなよ……でもそうだな、そういうのも悪くない」
俺の中の何かが熱くなってくる。互いの全力を出した最後の攻撃。いいねぇ。そうこなくっちゃ。俺はにやけを止められぬまま居合の形をとる。
「いつでもいいぜ」
「あぁ、そらっくらえ!!」
おっさんがそういうと、炎の玉は勢いよく俺のほうへと飛んでくる。対処方法? そんなものは考えていない。ただ目の前のものを”斬る”それだけだ。白魔の森で体得した火の玉を斬るということを同じようにすればいいんだ。大きさは違うが、構造は一緒みたいだしな。
「…………フッ!!」
じりじりと肌を焼くような熱量が近づく中、間合いに入るのをただただ待つ。刀身が届く距離、切りやすい剣筋を最速で、尚且つ力が一番入るようにタイミングをしっかりとつかむ。そして切る。
「………………俺の……負けだな」
パタリとおっさんが地面に後ろから倒れる。俺の後ろには切られた炎の玉が通った傷跡が残っている。おっさんとの全力勝負は俺の勝ちのようだ。
「お疲れ」
近づき、手を差し伸べる。
「ありがとよ」
手を取り起き上がって来るおっさん。よほど力を使ったのか、全身汗まみれで……正直近づきたくないって感じだ。
「おい。今失礼なこと考えなかったか?」
「いやいやそんなことはない」
「本当か?」
「嘘を言うわけがないだろう……それより――さっきからこちらを見ている人は誰なんだ」
そう俺が言うと、バレたかと言いたいのだろうか、おっさんが頬をかく。実は最初からこの戦いは誰かに見られていたのである。
「あぁ……それは……」
「――ここからは私が話をしよう」
空間が歪むかのような現象が起き、その中から一人の壮年の男性が出てきた。
「領主……」
おっさんが漏らした言葉によると、どうやらこの町の領主みたいだ。……またもや面倒ごとが増えていきそうだ。
要約
ギルドマスターの持つアイテムによって主人公はコロッセオのような場所へと転移させられてた。そこでギルドマスターとの模擬戦をすることとなった。