第一章03 「それぞれの思惑」
今回は主人公以外の話が少し多いです。
Side快
「助けていただいたこと、感謝の言葉しかございません」
急いで馬車を飛び出したかと思うと、ひとしきりに狐耳の女の子を心配した後、初老と思われるこれまた狐耳を生やしたご老人に感謝された。こちらは明るい茶色……まさしく狐色だ。
実際のところ可愛い女の子とお知り合いになりたかったというのもあり、日本人として彼は少し罪悪感があるため素直に喜べないでいた。
「いえいえ、たまたまこの近くを通りすがっただけですから」
しかし、これまた日本人のお得意技”愛想笑い”で適当に流す。
悲しいかな、少しは罪悪感があるとは言ったものの老人に興味が行くはずもなく、一刻も早く狐耳の女の子と話がしたいと思ってしまっている彼なのであった。
「この森を通っているということは”ナギルの街”を目指している最中でございましょうか?」
「え、えぇ。そうです」
適当に合わせておく。この誘いはとてもありがたく、ちょうど彼が目指している街もナギルの街なのである。
会話や態度から悪人ではないと判断した彼は一緒に行けるかと思い、返答をした。
言わずもがな女の子と一緒に行きたいがためである。
「じい。質問する前にまずは自己紹介をしなければ失礼ではありませんか?」
「おっと、そうでしたそうでした。命の恩人に対して何たる無礼でしょうか。我々はフォックス族が一人、セバスと申します」
「私はハクです。よろしければお名前をお聞かせ願いますか?」
「あぁ、かまわないよ。俺の名前はカイだ」
この世界には苗字のようなものが上流階級、つまりは貴族のみの名乗ることを許されている。それ以外でも名乗ってもいい場所などもあるが、人が統治する場所では貴族のみなので快は名乗らないほうが無難だろう。
「カイ……素敵なお名前です。カイ様とお呼びしてもよろしいですか」
「あぁ。俺もハクと呼ばせてもらってもいいかい?」
目をキラキラ光らせて女の子お願いされては、男のとしては断る理由はない。……とても心地いい気分に浸っている彼なのだった。
「それでもしよければなのですが……護衛という形で私たちと一緒にナギルの街へ行きませんかな?」
「えぇ、是非そうさせてください。私もそろそろ一人旅にもの悲しさを覚えてきたところですから」
こうして、思惑通りにハクと一緒に馬車に行けることを喜ぶ快なのであった。
☆
Side??
青々とした森の中で、茶色のボロボロマントを羽織り、淡々と歩く一人の男がいた。がっちりとした体形の男で、背中には身の丈ほどの大斧が背負われている。
「せっかく集めた魔物たちが根こそぎ倒されちまったぁ。残った奴で襲ったが……それも簡単に死んじまった。どうなってやがったる」
男は気怠さ纏わせながら悪態をつき、しっかりと歩き続ける。どうやら目的の場所があるようだ。
「しっかし、あの若い男はなんだ? 人族であることはわかるが……。黒い髪、黒い瞳の人族なんぞいたかぁ? それにあの強さはなんなんだぁ」
ノルダムにおける人族は大半が明るい茶髪か金髪をしている。もっとも例外もあるが……黒い髪色で黒い瞳というのは珍しいというより、この世界にはカイ以外はいないだろう。
「まぁ、いい。アイツがずっとあの嬢ちゃんたちについていくわけでもねぇだろう。アイツがいなくなってから本格的に襲いに行くかぁ……あぁ、面倒だ」
「……あら、随分とのんきなことを言っているのねぇ」
艶がある女性の声がどこからともなく聞こえてくる。
「アルストか」
「あら、ご挨拶ねベルロース」
ベルロースと呼ばれた男はさも楽しくないといった様子で言葉を返す。それに対するアルストと呼ばれた女は楽しそうに返す。
対局な態度の両者はそれ以上言葉を交わすことなく、目的地へと一緒に歩き出す。
それから1~2時間くらい歩いたところに、少し古びた洋館が立っていた。このような魔物の徘徊する森の中で、である。
「いつ見てもこの結界魔法は美しいわねぇ」
「……そうかぁ? 俺には魔力とかは見えねぇからな。よくわからん」
「あら? 芸術品を見る目がないのね」
「いってろぉ」
そう言いながらも2人とも歩みを止めない。その姿は洋館へと消えていった。
……二人が洋館へ入ったと同時に。その建物は姿を消した。
まるで最初から存在しないかのように。
☆
Sideハク
今、私の隣にはカイ様がお座りになっています。颯爽と私を助けに来てくださり、それを鼻にかけたご様子もなく、大人の男性という印象を受けました。白馬の王子様というのはこういう人のことを言うのでしょうか?
カイ様の目指すところは私たちと同じ目的地であり、ナギルの街という場所です。じいが話していましたがこれからは一緒にいられます。
この際です。いろいろとお話を聞かなければ!
「カイ様はどのようにしてそのようにお強くなったのですか?」
「そうだね……日々の努力と、祖父から教わった武術のおかげかな」
「そうですよね、日々の努力は大切ですよね! それを教えてくださるおじいさまは、よい師匠だったのですね」
「まぁ、そうかな。どちらかというとあまり熱心には教えてはくれなかったんだよね。あれこれ口で言うより動きを見て覚えろみたいな感じだったかな。それに俺とじいちゃんでは土俵が違ったから余計にね。俺は刀を主に修行していたけど、祖父は体術を中心に色々と手広くやっていたみたいだし」
どうやらおじいさまは己の拳のみで敵を屠るのを好んでいられたのですね。
「どうしてカイ様はその……刀ですか? を修行なさったのですか?」
「まぁ、日本男児としては刀を扱うことは憧れ! みたいな感じがあるんだよね。それに力でねじ伏せるっていうのはあんまり好みじゃないんだ。磨いてきた技とかを使って敵を倒すのが好きなんだ」
「日本男児?」
「あぁ、俺の故郷で生まれた男のことをよくそう言い表すんだ」
「そうなのですか……」
日本……聞いたことのない地名ですね。どうやらとても遠いところからいたみたいです。手元におかれている不思議な形をした剣も見たことありませんし……それに服装も人族の方が来ていた服とはかけ離れています。聞けば聞くほど謎の多い方なのですね。これは頑張らねば。カイ様みたいにお強い方でしたら引く手あまたでしょうし。
あぁ……さわやかな笑顔です。
この世界では良くも悪くも力の強いものに権力が集中することが多い。例えば獣人族の王を決める際に決闘を行うなどがある。
このときハクの中には淡い恋心が芽生えていた。今後その心が原因で、ある出来事に巻き込まれるのだが……。これはまた別のお話。
要約
主人公:女の子と一緒に旅ができるのか……いいな。
ヒロイン:一刻も早く白馬の王子様と仲良くならねば
???:襲わせた魔物が無駄になっちまった。