第一章02 「出会いというのは突然である」
皆さまご無沙汰してます。
今回からメインヒロインが登場いたします。
Side快
彼が異世界で生活を始めてから三日。いまだに森の中から出られないでいる。その間魔物との交戦は絶え間ない。
今回の獲物は熊の魔物”ホワイトベアー”。その字の如く全身真っ白な大きな熊だ。つい昨日戦ったのは白いイモリ。
白魔の森っていうのは白い魔物しかいないからのネーミングからなのか。
『グゥァ!!』
「おっと」
敵の前で考え事をするのはよくはないことだが、そのような状況でも適切な行動をとれるというのは、相当の訓練を続けていた証拠だろう。
ホワイトベアーはその腕の届く範囲ではないのにも関わらず腕を振り下ろす。一見するとただの無駄だと思うのだが、獲物をとる際に無駄な行動をする動物はそうはいないだろう。注意深く観察していた快は、ベアーの腕から風の塊のようなものが放たれているのが見えた。そしてその風の塊を刀で切った。どうやらこの魔法のようなものは刀で切ることで消し去ることができるらしいと彼は発見し、それを実践している。
ホワイトベアーは地球の熊よりも少し全長が大きく、牙や爪に至ってはそれだけで大きなナイフのようだ。
それらをかわしながら色々試している。
どこが一番切りつけても効果がないのか、どのような武器なら戦いやすいのか、またはその逆。様々な物事を考えながら、最終的には首を刈り取る。
……相手からしたらたまったものではないのだが。
「これで通算18匹目か……。ちょっと多すぎやしないかい?」
そうである。この三日間睡眠と食事以外ではずっと戦っていたのだ。どうも数が多い。ベアーだけで18匹だ。狼やイモリを合わせると軽く50匹ほどになる。幸いインベントリをショタ神が持たせてくれたので、食料運搬に関してはたいした苦ではないのだが、精神面的にきついものであろうとは想像がつく。
常人ならばすぐにでも体力が切れて動けなくなってしまうのだが、どうやらショタ神が何かをしたようでスタミナというものが随分と増えたみたいだ。ひっきり無しに戦闘をしていてもさほど疲れなくなっている。……かといって、さっきも言ったように精神的に疲かれているということから、メンタルは強くなってはいないようだ。そのせいか、集中力とかが途切れて熊の風の塊とかが被弾したりすることが何度かある。
怪我などで済むはずがないとは思うのだが、どうやらショタ神がくれた羽織と胴着は、衝撃を和らげるなどの防御面に優れているようだ。
「キャァァッァ!!」
そのような検証などをしているときに、女性の悲鳴が遠くから聞えた。
「おっと、異世界人との初対面は、いわゆる”テンプレ”と呼ばれるパターンだな」
よくファンタジーの世界を舞台とした物語にある、商人や貴族などの馬車が魔物に襲われているところに颯爽と現れ、それを助けて街へ一緒に行くというシチュエーションだ。
しかし、それが善人か悪人かという疑問が残るが……この展開で早くもテンションが上がっている彼にとっては助けるという選択肢しかない。最悪、悪人だとしても倒せばいいだけと考えているようだ。
「行くか」
そう言って彼は駆け出した。
☆
Side??
――時はさかのぼり、青年がホワイトベアーと戦闘している最中の出来事である。
私は今馬車の荷台に乗せられている最中です。大急ぎで支度をして逃げるように国を出たのですが、行き先は人族領にあるヒュマノス王国だということです。
獣人族領から人族領へと行くためには、この大陸でも上位に危険と呼ばれる”白魔の森”を通るのが一番の近道なのですが、酔狂でない限りこの道を通る人はいないでしょう。
最近魔物の数が減ってきているということで、今はその危険地帯の森を馬車で走っている最中です。
……それほどまでに緊迫した状態であるということです。
「ハク様、お辛くはありませんか?」
「えぇ、大丈夫です。じいが一緒にいますから!」
実際はちょっぴり不安ですが、そんなことを言ってしまっては心配で声をかけてくれたじいに申し訳ないです。
「もったいないお言葉です。……ハク様、もう少しでございます。もう少しで目的地へたどり着きますので、もう少しのご信望を」
じいがこういうのですから、私はそれに従うまでです。これまでもじいが言ったことには嘘はありませんでしたから。
それから、すでに見飽きて来た窓の外の風景を眺め始めて数分が立った後、馬車の御者が突然ドアを激しくたたき、出窓を開けました。相当慌てているようです。
「魔物に囲まれました!」
「な、なんじゃと!? 最近ではめっきり魔物は見かけぬと報告が来ていたではないか!」
「ほ、報告に誤りがあったか、もしくは何者かによる工作かと」
御者とじいが口論を始めました。どうやら魔物に囲まれているようです。今この馬車には私とじい、それと御者の人しかいません。
じいは老いで体が思うように動かないような状況ですし、御者の人は馬を操るだけで、戦うなんてできはしません。
この中で魔物を退治できるのは私一人しかいません。
「……私が戦います!」
「な、なりませんぞハク様! このような場所でお力を使うわけには」
「いいんです。ここで逃げたら、お父様に顔向けできませんから!」
そうです。今は亡きお父様は文武両道で聡明な方でした。その娘ですもの、魔物の一匹や二匹は倒せなければ。
「……ハク様! ですが」
「えいっ!」
それでも渋るじいを押しのけて、私は馬車から飛び出しました。後ろからじいの声が聞こえますが気にしてられません。
勢いよく飛び出した私ですが、ここで少し予想外の出来事が起きます。
「ホワイトクラス……ですか」
よりによってホワイトクラスの魔物だったのです。
魔物には色を使ってクラス分けがされています。ホワイトクラスは上から二番目。私ではかろうじて一匹倒せるかどうか……。目の前には少なくとも3匹はいます。ホワイトクラスの魔物”ホワイトバジリスク”。この魔物は口から生物を黒炭にするほどの炎を吐き、さらには火系統の魔法を扱う魔物です。あいにく私は相性のいい水系魔法をつかえません。
「それでも!」
私は生前のお父様から訓練を受けてきました。このような時に使わなければ何の意味もありません!
【風よ 吹き荒れる嵐となりて 敵を切り刻め”ハリケーン”】
風系魔法の上級魔法です。これならば範囲も広いし、足止め程度にはなるでしょう。これで馬車で全速力で走れば……。
『グラァァ!!』
しかし、私の目測は誤っていたようです。ホワイトバジリスクは何事もなかったかのように私の方へと飛びかかってきました。前衛を主にしている戦士であれば少しは抵抗できるとは思いますが、私は魔法一筋で体を動かすのは得意な方ではありません。それでも訓練は受けては来ましたが、さすがに準最強クラスの魔物相手では歯が立ちませんでしょう……。
お父様、じい、ごめんなさい。どうやら私はここで死ぬ運命のようです。
「キャァァッァ!!」
「ハク様ぁぁぁぁぁ!!」
☆
Side快
現場に到着すると、そこには真っ白な髪をして可愛らしい狐耳を頭に生やした女の子が、イモリみたいなやつに襲われそうになっている最中だった。
それを見た、彼は全速力で駆け出す。
ひとえに目の前の女の子を救うために。
「セイヤッ!!」
有無を言わせずイモリたちに切りかかる。一番近くにいたイモリの首を切り落とし、返す刃でもう一匹を。最後のイモリは勢いを利用して回転切りでとどめを刺す。
……周りにはほかの魔物の気配はなし、血に群がる狼が来る可能性があるから早くここを立ち去ったほうがいいだろう。彼はそう結論付け、狐耳の美少女に話しかけることにした。
「大丈夫か?」
「え、えぇ。あなたに助けていただきましたから!」
鈴のような可愛らしい声で女の子は返事をしてくれた。
これが異世界の侍”快”と白髪の狐耳の少女”ハク”との出会いになるのだった。
要約
三日間あるき続けた主人公。
魔物たちの多さに疑問を持ちつつも、町へ向けて歩いていく。その森の中に突如女性の悲鳴が聞こえる。
主人公がその悲鳴のもとへとたどり着くと、そこには魔物に襲われそうになっている白髪で狐耳の少女が!
颯爽と魔物を倒し、女の子を助ける主人公。
この2人の出会いがどのような意味合いを持つのか