第一章01 「異世界最初の地は?」
説明回です。
もっと掘り下げて説明するかも?
(いつになるのやら)
Side快
あれから俺は異世界にやって来た……のだと思う。あの黒い穴の最終地点は、日差しが程よく差し込む青々とした森の中だった。
辺りを注意深く観察してみたが、地球にあったものと変わらない、いたって普通の森だった。
さっきいた場所みたいに、どんな面白いファンタジーな場所だろうと期待したけど……ちょっとがっかりかな。
「さて、それはそうと、これからどうしたものか……。まずは人里を探しに行くのがセオリーだな」
いつまでもここにいるという選択肢はありえないだろう。とりあえず現在地を確認しようか。ショタ神が最後言っていた異世界の知識によると……。
「うーんと……ショタ神の知識によるとこの森は”ヒュマノス王国”と呼ばれる国の領土で、現地人も近寄らない国一番に危険とされている通称”白魔の森”と。おいおい……随分なところに転移させてくれたもんだな。最初の報告は文句に決定だ」
知識をくれたことには感謝するが、いくらなんでもこのような場所が異世界の入り口ってのはひどいだろう。まぁ、この世界の人間にとっては危険だが、俺にとっては安全……なんて楽観的に行けるほど甘くはないだろう。せいぜい死なないように逃げ回るとするか。
……ちょっともったいないけど。
「しかし、ここから一番近い町でも、歩いて一週間くらいかかるとかもしかして殺す気満々?」
愚痴が出るのは仕方がない。一番危険(魔物がうじゃうじゃいるという意味で)な場所にほとんど丸腰の状態で放り投げられたら誰でも愚痴の一つくらいは出るだろう。
とりあえずは現状確認の続きとして魔物についても整理しておこう。
魔物というのは『魔力を体内に内蔵した野生動物』。というのが一般常識みたいだ。そもそも魔力ってなにさって話だが、魔力というのは皆さんもご存じの超常現象である”魔法”を使えるようにする材料。”元素”に近いものがある。魔法を構成する元素が魔力っていうことみたいだ。
魔物について話を戻そう。そもそも魔物はこの世界の絶対悪みたいな存在で、人間やそれに準ずるほかの種族たちを襲うように神様たちに作られた存在らしい。ちなみにこれはショタ神情報だ。この世界の人には伝えられていない事実だ。
ノルダムの人々は魔物と野生動物を分けるのに、心臓辺りに”魔石”と呼ばれる石が有るか無いかで判断するそうだ。いかにもファンタジーらしいと言わざるを得ない物体なのだが、どうやら空気中の魔力を吸収してできるものという風にとらえられているらしい。本当は違うらしいけど。
他種族……エルフやドワーフ、魔族なんていうのもこの世界にはいるらしい。と言っても魔族は魔物とは違って共存できる余地があり、社会にも溶け込んでいる。世界征服を企む悪の種族ではないらしい。
「さてと、色々とこの世界に対して期待が膨らんでいる最中に――初戦闘とおっぱじめますか」
さっき俺は逃げるといったな。……あれは嘘だ。と言ってもこの世界の魔物はどういったものかというのを調べる程度だ。少し調べたら逃げるさ。……たぶん大丈夫。
今回のお相手は、白い毛並みの狼のような魔物が5匹である。名前はショタ神のくれた知識によれば”ホワイトウルフ”。この狼はこの森の中では中の下くらいの強さらしい。それでも強いことには変わりないが……。
「強いと言われれば、戦ってみたくなるのは男の性、かな」
そう言いながら、俺は愛刀の黒椿を抜く。ショタ神が餞別に……かどうかはわからないが、日本で使っていたこの刀を一緒に送ってくれた。祖父からもらった大切なものだし、武術をやっていた時には肌に放さず持ち歩いていたから、俺の半身と言っても過言じゃない。
こいつと一緒に強者と戦えるとなると……燃えてくる。
さて、それはそうと今は目の前のホワイトウルフだ。
右足を前に腰を低くし、リラックスした状態で腰の刀に右手を添える。武術の基本は刀を抜いた状態で相手の動きを予測して最小限で避ける。そうすると相手は少なからず動揺するから、同じく最小限で致命傷を負わせる。まあこれが通じるのは実力がそれ相応の奴くらいだが。
さて相手は5匹。唸りながらじりじりと間合いを図っている。徐々にではあるが距離を縮めているところから察するに、ヒット&アウェイみたいな戦法をとってくるのではないかと思われる。
……だがそれくらいなら見切れるさ。
音もなく襲ってくる狼たちを静かに観察する。そして数秒で狼たちの命を奪った。
……あれ? 思ったよりもうまくいったぞ。もう少しというか、確実に逃げるような状況になると思ったのだが、案外この世界でも俺は戦っていけるようだ。
「……まぁ強いことには変わりないけどな」
先程のやり取りでは強さなんかはわからないとは思うが、実際の刀を使った戦国時代や江戸時代などの一騎打ちなどは数秒で決着がつく。刀を交える前に勝負は決まっているのだ。集団戦なんかでは違ってくるが、刀は西洋の剣なんかに比べれば脆くすぐ刃こぼれなどをする。そのため相手の攻撃は紙一重で躱し、刃を傷めないように一撃で致命傷を与えるように戦う。一撃必殺という言葉がまさに刀を使った戦いを表しているだろう。
それはさておき、さっき戦った狼たちは地球の野生動物などより格段に強い。食物連鎖が地球よりも顕著現れているのかどうかは分からないけど、少なくとも舐めてかかったら、大抵の人は殺されるだろう。
まだまだ強い魔物はいるだろうけど、これならこの世界で危険と言われているのも納得かもしれない。たぶんこの後も連戦のようにこういう野生動物たちが襲ってくると仮定すると、常人には耐えがたいものがある。武芸者なんかもきついと思うな。
それとさっき戦って気づいたんだが、いつもよりも刀を振る速度が上がっているように感じた。何やらショタ神が少しパワーアップ的なものをしたのかもしれないが……。
「急に強くなるってのも、案外考え物だな」
刀を手持ち無沙汰にいじりながらそう思う。先程の狼たちを斬るときに感じたのだが、もともとは首と胴体を切り離すほどの力を込めていない。普通は骨ごと断ち切るのを5回なんて難しいというか、俺の筋肉量では無理に近い。
その手の物語などでは”チート”というのだろうか。もらったらもらったで扱いづらいものなんだな。急に強くなれば力加減などできなくなるし、感覚も変わってくる。慣れるまでは気を付けなければ。
さて、考え事はここまでにして、危険も去ったことですし持ち物とか現状確認しよう。
持ち物としては……
・日本刀”黒椿”
・ショタ神が用意してくれたと思われる黒い居合胴着と、色と若草色の羽織
・これもショタ神が用意してくれたのであろう、金や銀などの色をした硬貨(たぶんお金だと思う)
・”インベントリ”
……こう見てみると、ショタ神いたせりつくせりだな。
インベントリについては、RPGのアイテム画面がリアルで使えるって感じかな。いよいよゲームのようになってきてはいるが、ステータスとかが見れるわけでもないし、レベルが上がるってわけでもないだろうから、便利なカバンが手軽に使えるっていう以外は現実と何ら変わりないんだよ。
「さて、この森を出るには……」
町は南西にあるようなので、そちらに向かってみることにする。
おっと、その前に食料を回収するか。
……美味しいかどうかは食べてからのお楽しみだけど。
「合掌…………さて、まずは狼を持ち上げて……それからホログラフみたいに出てきたインベントリにつっこむ、と」
命を弔うことは大切なことだとおじいちゃんから教えてもらってからは、自分で奪った命や不幸なことがあった場合は合掌をするように心がけている。
これで狼は自動的にインベントリに回収されることになる。ちなみに解体とかもインベントリが勝手にやってくれるらしい。
便利だな~。
「色々あったけど……。それじゃあ、目的地に向かって出発だ」
極楽街道とはいかないが、十分満足できそうな世界だと思う。
異世界での一歩は確かな手ごたえを感じることができ、これからの旅路に期待が広がるものになった。
日本刀”黒椿”
刀身が黒みを帯びている刀。
主人公の愛刀である。