第一章12 「森の主」
Side快
あれから魔物たちの襲撃に対応しながら進み、2時間ぐらいが経っただろうか。ようやく森の中心部と思われる広場にたどり着いた。そこは特に火の手が上がっており、この山火事……と言っていいのかどうかはわからなが、原因はここだろう。
「さて、どうしたものか」
正直来ては見たものの、何も考えていないのである。ここに来れば何かしら手がかりがあると思ったのだが……。
「たぶん祭壇とかそういう類のものだったのだろうけど…………跡形もないな」
証拠になりそうなものはすべて壊されており、祭壇の中心部分にあったであろう石碑は見事に真っ二つである。
……これでは調べようがない。
「とりあえず、かけらでも持っていきましょうかね?」
そう思い、俺は祭壇へ近づいていく。
……すると。
『我をここへ呼んだのは貴様か?』
地面が揺れるほどの衝撃と共に、人の声とは到底思えない不思議な声があたり一面に響いた。
……どうやらこの惨状や白魔の森のことについて知っていそうな存在がここにいるらしい。
「いや、俺ではないな。少なくとも俺は君のことは知らない」
『フンッ! 嘘をつくでない人の子よ。我を呼び出しておいて抜け抜けとぬかしよるわ!』
……うん? どうやらご立腹のご様子。これは少し……いや、かなり悪い予感。
「本当に俺は何も知らないんだ。良ければ君のことを教えてくれないか?」
姿は見えないが、声だけが聞こえる。先ほどの地震と言いこの声と言い、不思議体験が過ぎるんじゃないか?
『……よかろう。我がおぬしが知らぬという罪を教えてやろう。我は”グィネラ=ドラグニル=レッド”。誇り高きドラゴンよ!!』
そう叫ぶと、もう一度自身が起き、俺の頭上から影が差した。恐る恐る俺が頭上を見ると、そこには真っ赤なシルエットの――ドラゴンがいたのだった。
「…………おいおい! 始めっからクライマックスだな!!」
ドラゴンと聞くと、世の男の子は黙っていないだろう。ファンタジーには欠かせない要素の一つで、中世ヨーロッパでは強さの象徴とされていた。強靭な肉体。どんな刃物も貫くことができない鱗。どんなものでも溶かしてしまうほどの高温のブレス。ゲームでもよく”最強”とされることが多い。そんな存在が今、俺の目の前にいるのだ。
『人の子よ。我を呼び出した罪。その身で知るがいい』
どうやら問答無用のようだ。
――相手がその気ならこっちも……。
「勘違されているようだが。まぁ良い。ドラゴンと戦えるまたと無いチャンスだ。――存分に戦おうぜ」
俺はそう言って刀を構える。
これこそ俺がこの世界に来た理由。絶対的強者と呼ばれるものたちとの闘い。異世界でしか味わえない戦闘の緊張感。これこそ俺が心の底から求めていたものだ。
『ほざくな人の子よ。おぬしらが我にかなうことなど露程もないわ』
「そんなことはないぜ。要はやってみなけりゃわからないってやつさ。それに勝敗になんて興味はない。お互い全力を出し切って殺しあう。そこにある緊張感や高揚感が楽しみたいんだよ俺は」
自分でもくるっているとは思うが、この気持ちだけは押さえきることができない。だから俺は地球という故郷を捨ててまで異世界に来てしまったのだから。
『……そうか。ならば我からは何も言うまい。そこまでの覚悟ならば愚かな人の事て全力を出して闘おう』
そう言ってドラゴンは俺の目の前に着地する。翼を広げ、俺なんかより一回り二回り……そんな表現じゃ表しきれない体格差だけれども。対等に向き合う。
これからどのような戦いに発展するのか非常に楽しみだ。ドラゴンなのだから爪を使うのだろうか? それとも牙を使うのだろうか? はたまた魔法なんかも使うのだろうか? そんな考えが俺の中で出てきては消えていく。早く闘いたい。そんな気持ちを抑えて、ドラゴンとの間合いを図っていく。
それから数秒立っただろうか。開始の合図は唐突に訪れた。
『行くぞ! 人の子よ!』
「応!!」
ここに異世界人対ドラゴンの火ぶたが切って落とされたのだった
要約
森の中心部へと無事たどり着いた主人公。その目の前には破壊された祭壇のようなものがあった。調べてみようと近づく主人公の樹上に影が……。
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