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ぱあと44 恐怖の晩餐ってあるんだね

《今までのあらすじ》

 中学生につきまとわれている奴は和谷でした。

 なりゆきで喫茶店行ったらぶっ倒れやがりました。

 母上を呼んで家に送り届けたら、家にはなぜかゴスロリッ子のルイアントーゼがおりました。

「俺は今なあ、ほんっと情けない気持ちで一杯だよ」

 只今の時刻、午後9時過ぎ。

 今日の夕食は、炊飯器がタイマーで炊き上げた白米。なんかレトルトっぽいわかめの味噌汁。惣菜コーナーのコロッケ。新鮮野菜と市販ドレッシングが美味しいサラダ。おふくろが作り置きしておいた煮物の余り。なんか輝いているブルーベリータルト。

 そして……でろりと色濃い液体がかかっているおぞましい黒い物体が一皿…… 

 俺はそんな一品(?)を前にしながら、ゴスロリ少女相手に説教していた。

「仮にもだ。お前を入れて三人、女の子が集まってたんだろ? なーんでこんなデロデロ料理が出てくんだ! 壊滅的料理下手(ヒロイン特有)は三人も要らねぇんだよっ!」

 ばんっ! とテーブルを叩いてやる。

「ええ~~っカサネわかってないよっ! 力作はタルトなんだからねっ。みんなで生地から作ったんだから!」

夕飯メシよりスイーツに力入れてどーすんだ!」

 向かい側に座るゴスロリっ子の意見を一蹴いっしゅう

 確かにタルトは食卓で輝いている。これでもかとタルト生地の上にブルーベリーを盛り込み、ゼラチンでコーティング加工され、おまけにチョコレートの細い棒まで飾られている様は、そのままケーキ屋に並べそうだ。

 だが、それよりも異彩を放っているのは、この肉団子らしき黒焦げ物体だった。

 ルイアントーゼの説明によると、タルトと肉団子を作ったら時間がなくなったそうで、他は買ったものとレトルトに相成った、らしい。

 俺の記憶では、妹はそれなりにおふくろの手伝いをしていたと思ったが……不思議でならない。どうしてこんな艶やかなタルトとレトルト料理と怪しげ肉団子が出てくるんだ?

「う~ん……シズもクユリも考え事してたっぽかったからなあ」

「だからってこの有様は問題だと思うぞ……」

 食う気力そのものが減退した。見るからに怪しいこの物体は、見た目はアレでも食べたら意外とイケた~♪なんて感想とも無縁そうだ。

「まあまあ、重ちゃん。この『タルト・オ・ミルティーユ・ア・ラ・ショコラ』、すっごく美味しそうじゃない」

 飲み物を持ってきたおふくろが、ルイアントーゼをかばった。

 高級ぬれせんの件は、急な来客で困り果て、偶然おふくろの秘蔵を見つけて出してしまったと妹から説明があったらしい。俺の濡れ衣は晴れた。というより最初から俺に濡れ衣は掛かっておらず、おふくろの演出に見事に引っかかってしまったというわけだ。

 しかし俺がタルトオなんたらの呪文がどうだと分かるはずもなく。

「ほらほら味見! 『好きなものこそ上手なれ』って言うじゃない。お菓子がうまく作れたのなら料理だって大丈夫よ」

 昔の人は『下手の横好き』ということわざも残してくれているのだが、その危険性がおふくろには伝わらないのだろうか。

「そうだよカサネ~」

 意味分かってるんだかないんだか、横のゴスロリ娘がちゃっかりタテにしてるのが気に食わない。

「おふくろは甘いんだよ! 大体ルイアントーゼ!話はまだ終わってねぇんだからな」

「カサネママー! カサネがしゅうとになってチネチネネチネチ言ってくるよ~!」

「いーや何度でも声を大にして言ってやる! こんな失敗作皿に並べるほうがどうかしてるって……」

「……失敗作?」

 カチャン。その場を凍りつかせたのは、俺の目の前にコップを静かに置いたおふくろの声。

「重ちゃん。わざわざ訪ねてきてくれて、ご飯を作って待ってくれていたお友達に失礼よね??」

 いやいや、おふくろ、この殺人的料理は失礼とかそんな問題じゃない。

「私が帰ってくるまで、ルイちゃんは志珠と一緒に夕飯を作ってくれていたのよ。重ちゃんに食べてもらいたいって言って、待ってたの」

 俺の三大苦手人は、マキシ先輩と喫茶店経営者(ワトコさん)、それに疑問形で話す時のおふくろだ。回避不可な威圧を感じて、おふくろの顔をまともに見られない。寒々しいトーンの声だけが上から響く……

「そんな女のコの真心を……無駄にする男の子には、なってほしくないって思うわけ」

「すいませんでもコレ俺には荷が重いです」



 でびるにお願いっ! ぱあとふぉおてぃーふぉお



 死の後の言わずに食えとかいう誤変換が頭に浮かぶ、恐怖のフルコース。 

 俺は今猛烈に飯が食いたい。茶碗によそられた白米やレトルト味噌汁や、そこに並べられた出来合い・作り置きの惣菜が食いたい。

 が、流れで俺に求められているもの――それは女子三人が作った料理を味見することだ。軽はずみな一言で、おふくろがさとしだす雰囲気を出したからさあ大変。

 安全に食せる可能性が高いのは砂糖たっぷりスイーツ。飯を食らいたい今の俺にとってはゆるふわ甘々は苦痛でしかない。しかもそれも見た目が良さそうなだけで、味に保証はない。

 一方、劇的に劇薬なのは見た目からして毒々しい物体X。これだけは御免だ。

 あれだ、よくあるスパイ映画で時限爆弾解除の場面。赤線を切るか青線を切るか。ヤのつく映画で落とし前を掛ける丁か半か。

 ……覚悟を決めるしかないのか、俺は。

 右手の傍に置かれた箸とフォーク……今使わなければならないのは、どちらだ。

 ――弾き出せ、答え!

「俺は……」

「そうだ、カサネ! ボクひとつ訊きたいことがあったんだっ」

 グッジョブだ、ルイ!!

 この重々しい食卓の空気をなんとも思っていないのか、やぶからぼうにルイアントーゼが切り出した。

 多分本人は無理やり話題を出したんじゃないんだろうが、場の空気を読まないからこそ今はナイスタイミングというものだ。

「シズとクユリとも話してたんだけど――これってボク観に行っていいんだよね?」

 ゴスロリッ子がどこぞからぺらりと出した紙切れ一枚。

 それは、『第1地区 春季演劇発表会』のプリントだった。

 昨日 マキシ先輩に呼び出された時に、磯辺からもらった演劇部の大会要項案内だ。B4のコピー紙に 両面白黒印刷で、表面は各学校の公演時間が載っている。裏面はうちの高校の演劇部のPRで、磯辺が脚本を担当したとかどうとか言っていた。

 演目は確か『オズの魔法使い』のパロディだかシュールコメディだか……主人公をかなりあくどい乙女に仕立て上げた劇だったような。

「あら、演劇発表会? 公民館でやるのね。いいんじゃないかしら、招待制でも非公開でもないと思うし」

 プリントを受け取ったおふくろが、ルイアントーゼの呑気な問いかけに普通に返した。

 よし、ようやく威圧戒厳令いあつかいげんれいが解除された。これで俺もおふくろの顔をまともに見れるようになる。

「つーか、これどうしたんだお前? どっかで配られたりしてんのか」

「えへへー。カサネの部屋からゲットだぜ☆」

 ……こいつ、不法侵入悪びれてねぇ。

「出しっぱなしだったから拾ったんだよー。見つけたのはシズ」

 机の上か床に出したままになっていたんだろうか。

 ……ん、待てなんで志珠が俺の部屋で見つけてんだ?

 妹とルイアントーゼと友達がどこでその話題で盛り上がっているのか状況がつかめないが、深く考えないようにした。

「この絵、いいなあと思って。空と水の中のシャシンゴウセイしてるんだねって、クユリが言ってた」

 そう、演目PRのビジュアルは妙にセンスがあるのだ。ぼやけたビル街の風景に、わざと遠近法を歪めた空の写真。水中と水の模様を合成させて、字体の違う文字を縮小したり引き延ばしたりして、うまく配置している。白黒のコピー用紙であることを計算したのか、かすれ具合も雰囲気に合っていた。

「……それにこの文字列が仕掛けになってる」

「仕掛け?」

 テーブルの真ん中に敷かれた紙の上を、ルイアントーゼの指がなぞっていく。右端、ビルの上でぎりぎり潰れない程度に引き延ばされた ゴシック体の文字。そこだけ薄い印刷なので、背景に同化している。じっと目を凝らさないと見えないくらいだ。

 なぞる指を追いかけ、おふくろが声に出して読んだ。

「エイチ、エー・エヌ…… エー、イー、エフ…… ユー、エス、イー…… ハナ…エフセ…? ハナエ・フセ。あら名前ね、これ!」

 HANAEFUSE。布瀬花恵とでも書くのか、アルファベットの羅列は名前になっていた。さらにルイアントーゼの指をたどると、KOTOHARUSAGAKIやらYOUMAKISHI やら、見慣れた文字羅列が次々と。ぼやけた文字をわざと離したり近づけたりしているせいで、ぱっと見 名前とは気づかなかった。

「部員の名前かしら? 面白いことするわね~。作った子、センスあるじゃない」

 宣伝文句アオリを考えたのは磯辺だと聞いたが、このビジュアルも奴が手掛けたのだろうか。

 YASAKUISOBEと書かれた文字列を見つけ、今度会ったらそのあたりも訊いてみようと思った。奴には他にも訊きたいことがある。磯辺は人のペースを崩す能力があるらしく、俺は例の虎の巻の件もまだ問い詰められていないのだ。

 ……部員の名前…?

 そこで気がつく。この文字の羅列は、他の部員の名前もどこかに織り交ぜられているのだろうか。例えばあの保健委員で生徒会長でマキシマム会長な織枝さんとか。あの皮肉敬語使いの和谷とか。

「ううん。たぶんこれは……指示通りに作ったんだよ。気持ち悪い(・・・・・)

「え?」

 よし探してやろうと思った矢先。

 抑揚のない返答と、きょとんとするおふくろの声が聴こえてきて、俺は顔を上げた。

 おふくろが瞬きを繰り返す。それを受けて、ルイアントーゼはにかっと笑った。

「ええっとね。センスある子がいるこの部の演劇を、いちど観てみたいんだ。ボクは『拒まれてる』から、無理かもしれないけど」

 気持ち悪い、と聴こえたのは聞き違いか?

 数秒の間の後、何かを察知したらしいおふくろが、すっかり機嫌の直った様子で手を叩いた。

「あっ! もしかしてルイちゃん、重ちゃんと観に行きたいの?」

 今の会話の流れでどうしてそうなる!?

 ぽかんとした俺とルイアントーゼに、またもやおふくろのあてずっぽうレーダーが働く。

「はっ……そうなの、そうなの、そういうことなの!? やだ~、我が息子にもようやく訪れたモテ期ってわけね!」

 お一人で盛り上がっていらっしゃる。

 なおもぽかんとする俺をよそに、おふくろは助言した。

「鈍いわねー、重ちゃん! 女の子の決死のお誘いは、敏感に察知しなきゃダメよー」

 ……お誘い? 

 誰が何のお誘いをしてきたって。おふくろに説明するよう顔で促してみたが、見事にスルーされ、苦笑気味に隣に座るルイに言っていた。

「ルイちゃん、ごめんなさいね、こんなニブチン息子で。でもいつもはきょうだい思いの良いお兄ちゃんなのよ? ただ行動が空回りするだけなの!」

 うっわ、フォローしてくれてるのか株を落としにきてくれたのかわかんねえ。

 真意が読めず、向かい側のルイアントーゼをうかがってみると。

「かっ、カサネはよくやってくれてるよ!」

 顔を紅潮させて、なんかよくわからん反論をし出した。

「ボク、カサネと会ってよかったなって思うんだ……っ、選んだカサネだったらきっとやってくれるって信じてるっ!」

 思い切って主張!ってな表情でおふくろに訴える。まあ、と目を輝かせるおふくろ。場についていけない俺がひとり。

「そりゃボクは感情と本能を司ってるけど見境ないわけじゃないし……、もうボクの約定は主と締結しちゃってるし、観に行きたいのは様子見なだけだし……」

 なんかうつむいてモゴモゴ言ってるし。

 おふくろが上気した顔で俺を見た。俺もなぜかルイアントーゼにあてられて顔が熱くなった。ぽわぽわした空気玉がそこかしこにあるような気がする。なんだこの雰囲気。

「とっ、とにかくカサネはよくやってくれてるもん! ボク、そーゆーところがヒトとしていいなって思うなっ」

「まあ、まあ、まあ! やっぱりそういうことなのね!」

 ……うん、人としていいと言ってくれるのは嬉しいが、すっげー勘違いされてるだろうな、これ。

「それならルイちゃん! 演劇には重ちゃんに連れてってもらいなさいね、どうせ暇だろうから使わないと損」

「うっわおふくろ、ルイアントーゼがそろそろ帰りたいらしい!」

 みなまで言わせずがたんと席を立った。ついでにプリントを持ったままのルイアントーゼも椅子から引きずりおろす。

「ええ~っ、ボクまだ……」

「まだ一人だと帰れないって? 安心しろ、俺がきっちり家まで送ってやるからな!」

 これにもみなまで言わせず、腹を腕で抱えてずるずる引きずる。おふくろに怪しまれないよう顔は紳士の笑顔をキープ。ちなみにこいつの家がどこか俺は知らない。

「と、そんなわけなので残念だがお前の作ったディナーはまた後で食べるぞ! それじゃおふくろ、俺はルイアントーゼを安全第一で輸送してくるぜっ」

「ボクは荷物じゃないよ!」

 しっかりツッコみつつもうだうだしているルイアントーゼを引っ張り、リビングのドアを開ける。俺の極上紳士笑顔が効いたのか、何かを引き続きこじらせて勘違いしているのか、おふくろはひらひら手を振ってくれた。

「あらあら、行ってらっしゃい~」


<ぱあとふぉおてぃーふぉお 終了>

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