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ぱあと20 捕獲!粛清!作戦決行!?

 …脱出ゲー……クリア!

 ミギの猛攻に 機転を利かせスッとすり抜けた俺。

 爽やか気分で一杯だったが、ケータイ時刻を見て穏やかではなくなった。

 磯辺の尋問に和谷の捕獲。普通のSHRが15分で終わるところを、俺は ショートといえないSHR+ミギの襲来で、かなりの時間をロスしている。計画では 磯辺を捕まえた後に、和谷のクラスに行くつもりだったのだが……この時間では、どちらのクラスもSHRを終えて解散している可能性が高い。この後演劇部の自主練があるというのなら、磯辺は部室、和谷は帰路についていると思われる――

 迷う。どうする? 廊下を駆け出しながら考える。部室に居る磯辺を捕まえて『虎の巻』に関して問い詰めるか。どこにいるか分からない和谷を探し当てて部活に強制送還させるか。

 ……どうする?

 躊躇したのは一瞬。階段にぶち当たったのを機に、即座に一年の教室階である上へ昇る。まずは和谷が帰ったかどうか、奴のクラスに寄って確認すべきだと考えた。

 昨日俺と磯辺が自宅まで押しかけて、和谷はどう思っただろうか。階段を二段飛ばしでリズムカルに昇りながら、思考を巡らす。俺たちに啓発されて部活に顔を出す気になったとか、おばさんに言われて一声だけでも掛けに行ったとか、そんな行動には出ないだろうか。沈黙でもなく拒絶でもなく、殻に籠もるんじゃなくて、せめて何か部と誤解を解くような方法を――



「え、和谷さんですか? 早退しました」

「……あー帰るよな、先手切って帰る奴だよな、そりゃ帰るわな」

 嘆息交じりの投げやり口調で悪態をつくのは当然のことだ。

 淡い期待は儚く消えた。奴の方が一枚上手うわてだった。

 和谷のクラス(1年3組、ルイアントーゼ情報に拠る)はSHRを終えたばかりのようで、よっしゃ居るかもと期待した矢先だった。ドア近くに居る女子生徒に聞くと、そんな身もフタもない返答が来たのだ。

 デコを出したセミロングのこの女子生徒いわく、和谷は四時間目のテスト終了十分前に、具合が悪くなったとかで早退したとのこと。

 沈黙も拒否も殻篭からごもりもここに極まれりか。納得しかけて、否定した。演劇部の関係者に捕獲される前に、先手を打って四時間目でわざわざ早退。用意周到過ぎやしないか。それとも、それほどまでに部活に出たくないのか。

 いいやこれは俺が和谷を捕まえろという誰かからの啓示だ。指示だ。筋書だ。教室に居なかったとしても、部活を拒否ったとしても、俺が追跡すればいいだけのことだ。見つけ次第 和谷を――叩く!

「もしかして知り合いなんですか」

 そんなカオスになりかけてた俺の思考にようやくストップが掛かった。

 面妖な顔をする俺に、デコ女子生徒が聞いてきたのだ。じっと様子を伺うような上目視線。

 警戒されているのか、それとも演劇部員にしては雰囲気が違うと思ったのだろうか。

「まあ、成り行きで知り合いになったというか……主の捕獲作戦というか」

 昨日もマキシ先輩に同じ問いを聞かれたと思いつつ、答える。

「じゃあウチらの今の状態、知ってんですよね」

 女子生徒は通学指定(カバン)の柄を握り直し、ファスナーからはみ出している クマキャラクターのマスコットをいじり出した。つっけんどんな言い方だった。

 ……『ウチら』。

 この女子生徒は……もしかして、和谷と同じ演劇部ってことか?

「……なあ、それってどういう…」

「そしたら市原 重(イチハラカサネ)って名前聞いたコトないですか?」

「は?」

 聞き出そうとして、逆に訊ねられた。自分の名前が出てきたので、素っ頓狂な一言が出てしまう。

「身分不相応にも演劇部の眞喜志マキシ部長に迫ったっていう不届き者の二年です。一年前にも暴挙を働いたケダモノで、昨日なんか眞喜志部長の唇に頬を擦り付けたらしくて」

 デコ女子はつっけんどんな言い方から一転、コロコロと笑って説明を始める。

「へ、へぇ……」

 ……はい?

「で、今 ウチら『眞喜志悠私設使節団ウィ・ラヴ・マキシマム』が総力を挙げて探してるんですよ。演劇部のツテで潜り込もうとしてるって聞いたから、もしかして知ってるかなーって」

 ……『眞喜志悠私設使節団ウィ・ラヴ・マキシマム』?

 はたと気付いた。

 『ウチら』って……演劇部じゃなくて、そっちの意味でってことか?

「まあ、ウチは演劇部に居るから特権なんですけどねー。眞喜志部長の演劇練習見られるし」

 マキシ先輩。その使節団。出てきたのは自分の名前で、触れ回っているのは昨日の朝の唇擦り事件。

 みんなのアイドル・マキシ先輩に 何かやらかしたケダモノを、メンバーが総力を挙げて(=血眼になって)探している、と……

 ……もしかしなくとも、これは。

「そ、それってやっぱり見つかったらどんな感じになるんだろうなぁ、ハハハ」

「そりゃあやっぱり 粛清しゅくせい ですよねー。学園の生けし宝である眞喜志サマをけがしたんだからー、やっぱり断獄?制裁?公開処刑?」

「ハハハ、そうか、見かけたら一報入れておくさ。ではアデュー」

 冷や汗が俺の背中を伝ったのと、逃げろ警戒コールが頭に響いてきたのはほぼ同時。

 本能で悟った俺は、回れ右をしてダッシュ――しようとしたのだが。

「あ、イチハラくんじゃー! イッチハラカッサネくーん、和谷くんの教室で会うなんて奇遇やなあーっ」

 って、オイーーーーー!!(泣)

 ……なんで磯辺がこのタイミングで突如現れて俺のフルネーム言いながら駆けて来んだぁああああ!?

 心の中で一気にツッコんだ。

 廊下の向こうからすったかすったかとはしゃいでくるのは、例によって磯辺だったのだ!

 スタートダッシュでコケた俺は、つんのめりつつもなんとかデコ女子生徒の様子を伺う。 

「………」

 相手はマスコットをカバンから引き抜き――『本体』を持ち上げているところだった。

 紛らわしいことに、マスコットはデカストラップだった。よかった、今の磯辺の呼びかけは聞いてないか! ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、デコ女子の引き上げた本体が光る。相手はパカリとケースを開くと、ゼロナンバーを押し続けていた。紛うことなき連絡手段ケータイでしっかり通報されていた!

鴫森シギモリ会長、こちら会員ナンバー2943、布施 羽苗江(フセ ハナエ)です。はい、ターゲット確認、作戦KBIKの承認アプローヴを。――了解、追従(ラジャー ウィルコ)

「イチハラくん、もしかして和谷くん引きとめようとしたん――」

 もはや デコ女子の通話内容も磯辺の呼びかけも、最後の部分まで聞かずにダッシュした。

「あれっ、イチハラくーん!?」

「ああっ! 会長、逃げました! 捕獲対象ターゲット逃亡ロスト追跡を要請(トラックドダウン)! マキシマムメンバー、作戦遂行せよエクシキュートゲットー!!!」

 背中で聞いたこの叫び声を機に、廊下があわただしくなる。

了解、追従(ラジャー ウィルコ)! オレらの眞喜志さんを穢した輩は即 大破撃沈だぜ!」

「みなさん来て! 我らが眞喜志さまを穢した不潔魔がここに! ここに居るわよぉ〜〜〜!!」

 教室の戸という戸からバン!ババン!と一斉に出てきたのは マキシマムメンバー。

 なんでこんなタイミングで!? お前ら今までどこに居たんだよ!? テスト終わったんだからとっとと帰れよ!

 多々ツッコミが浮かぶが、入れるどころではない。今は喧騒から離れることが先決だ。ヤバい、俺。無事に帰れるかどうか分からない。…危険は危険でも、命の危険まで感じたのはここ最近なかったはずだが!

 そして俺は、今更ながら最大のツッコミを自分に課したのだった。

 

 ……つーか……俺が総動員で捕獲されてどうするよ!?


 <ぱあととぅえんてぃー 終了>

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