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ぱあと18 開封!必勝CD

 ――ぱきょっ。

 製氷用トレーの対角を反対方向にじり、氷を取り出す。

 適当にグラスの中に入れ、烏龍茶のペットボトルを小脇に抱え、氷入りのグラスを持って階段を上る。

 両手がふさがっていたので、足で自室のドアを開けると。

「あっカサネ! 気がきくなあ〜〜 ちょうどボク喉 渇いてたんだっ♪」

 俺のベッドでくつろぐ ゴスロリちゃんが居た。

「お構いなくでいいからねっ。 でも持ってきてくれたし、うん、遠慮なくいただきます☆」

 いつから俺のベッドはお前の指定席になったんだよ。

 問いただそうとしたが、相手は既に 腕を目一杯伸ばして受け取ろうとしている。

 仕方なく 烏龍茶を注いだグラスを渡すと、喪服として到底機能しない華美黒服を召した少女は、からんからんと回して ごくごく飲み出した。

「はぁ〜〜っ おいしっ」

 CM会社も起用してくれそうな 爽快笑顔だが。

 …ここで一つ確認しておきたい。

 繰り返しになるが、俺は明日、学生の難関であるテスト最終日を控えていたはずだ。

 単身赴任中で父親も居ない、母親は海外出張中でしかも一日延びたとか言って居ない、弟妹は寮生活で元から居ない、そんな家事アシストのいない期間、俺は家事を取捨選択・放棄or実行し、三日間の試験期間を乗り越えなければならない生活真っ只中なわけだ。

 なのに何故、俺はまだ学生服で 一夜限りの勉学を始めていないのか。

 冷蔵庫の烏龍茶を取り出し、冷凍庫から製氷用のトレーを取り出し、グラスを二つ持って、せせこましく こいつをもてなさにゃならんのか。

「ん? カサネ、どうかした?」

「……。とっとと 報告会でもなんでも始めてくれ」

 フローリング床に座って相手を促す。思考がループ地獄になる前に、考えることを放棄した。

「和谷についてだろ? 俺の方は 本人の家に行ったら張本人に遭遇して門前払い、関与人に話を聞き出す前にこっちから退散したぞ」

 自虐的な笑みが出る。まったく、今日は朝からマキシ先輩に遭遇するわ、テスト後に呼び出されるわ、成り行きで演劇部の磯辺と和谷の家に向かうわ、和谷と遭うわ、慌てて逃げ帰ってくるわ……気力と体力を磨耗する一日だった。

 そんな一日をくどくどと相手に言ってもしょうがないので、簡潔にまとめたつもりだ。

 『あのコについて確認しておきたかった』から来た、とルイアントーゼは言っていた。あのコ、とは俺を呼び出したという和谷のことだ。昨日『ボクはボクで調べてみるから』とも聞いたし、ともすれば報告会とは和谷の件に違いない。

「お前は何か分かったのか?」

「うん、ざっとだけど」

 そう答えるなり、ルイアントーゼは 手持ちのノートを広げた。

 もしやあれは 俺の着歌設定も書き込まれていた「ノート☆デス」か……?

「調べて分かったよ。あのコは 8月10日生まれのしし座で、AB型。1年3組所属、出席番号は35番。隣の町からカサネの学校に通ってる。家族構成は祖父母と同居。両親はお仕事で海外に行ってて、この春 祖父母の家に下宿し出したんだって」

「……ほお」

 やたら詳しい。 

 にしても、和谷が三世代同居形態じゃなくて、下宿であの家に居たというのは意外だ。

 一体全体コイツはどこで調べてきたんだろう。矢継ぎ早に出てくる調査結果を聞きつつ、俺のコップにも烏龍茶を注ぐ。

「好きな雑誌は週間生活情報誌で、玉子焼きはみりん派。マチウケはドーナツ屋ケータイサイトの無料配信画像、ちなみに今はポソ様ぶどうゼリーバージョンらしいよ」

 …ほんとーに、コイツはどこで調べてきたんだろう。

「それからあのコの極秘サイズは――」

「ごふぅっ!?」

「23.5だって」

「……あ、そっちね…」

 なんか単語に反応してしまった自分が嫌だ。

 ルイアントーゼの発言に驚いて、烏龍茶を危うく吹くところだった。

「っと、まあ 今日分かったことだと、こーんな感じかな」

 ノートをぱたんと閉じる。

「カサネがお宅訪問してたってのはすごいねぇ。知り合い見つかったんだ?」

「ああ、運良く モラルの欠けた危ない先輩とエセ方言野郎が居たんでな」

 演劇部二人のペースに巻き込まれたことが原因で、俺は和谷から「最悪最低」なんて言葉を投げつけられて帰ってきたわけだ。思い返すと何故か虚しい。

「……トモウが気付いてなければいいんだけど」

「は?」

「順調みたいでよかったなって。あのコに接近してさくさく希を聞きだすぞ、おーっ☆」

 ガッツポーズを突き出すルイアントーゼ。残っていた烏龍茶を飲み干すと、すっくと立ち上がった。

「じゃ、また来るよ! カサネのテストのお勉強、邪魔しちゃいけないからねっ」

 勝手に乗り込んできたのはお前なんだが。

 もう帰るのか? …尋ねようとして、ルイアントーゼが廊下で言っていたことを思い出した。

 ……これから行くところあるって言ってたな、そういえば。

 こいつもいろいろと忙しいのかも知れない。例えば、悪魔検定協会の胡散臭い仕事とか何とかで。

「烏龍茶ごちそうさま。お勉強、がんばってね」

「ルイ」

 そのまま出て行こうとしたルイアントーゼを、声で引き止めた。

「ほら、これ」

 部屋の隅に置いたままのビニール袋を掴み、相手の眼前に突き出してやる。

「煎餅もらったから。お前、持ってけよ」

 和谷の実家の店でもらった煎餅だった。ばら売りで売っていた桜海老煎餅。そういえば俺は こいつの顔がちらついて、練り切りから煎餅にシフトせざるを得なかったのだが――折角煎餅好きがいるんなら、そいつに食べてもらったほうが和菓子屋のおばさんも喜ぶってものだろう。

「………」

 眼前の白い袋に 何が入っているのか分からなかったらしい。受け取ったルイアントーゼはぼうっとしていた。

 開けてみろよ、とジェスチャーしてみせる。

 言われるままにルイアントーゼはビニール袋を開いた。すると、その中から ばら売りならではの小さな紙袋に入った煎餅が五枚ほど出てくる。

 海老の匂いが、ふわりと小袋の中から香る。単語を区切って、ゆっくりとルイアントーゼが訊いてきた。

「…あ、これ、ボクに?」

「お前の知り合いなんて他に知らないだろ。 お前にだよ、お前。……ま、ぬれせんじゃなくて桜えびだけどな」

 今の俺の言葉のどこに反応したのか、ぼうっとした相手の顔が、境に ぱっと弾けた。

「あ……ありがとうっ! カサネ……ボクの言ったことちゃんと覚えててくれたんだ……っ」

 若干違うが、まあいい。

 大事そうにまたビニール袋に仕舞うと、宣言さながら俺に言った。

「ナカバもトモウもきっと喜ぶよ! みんなで食べるね!」

「お、おう」

 ……ナカバ? トモウ? 

 仲間の名前だろうか。追求する余地も与えず、ルイアントーゼは開けっぱなしだったドアから出て行った。

「ホントにありがと! カサネ、勉強も使い魔権のこともファイトだよっ」

 嵐のような訪問者は、ガッツポーズと煎餅とともに去っていった。




 静かになった環境。

 集中するにはもってこいの時間帯。

 よし……今なら俺は、やれる気がする!

 通学用のスポーツバッグから、茶色の紙袋を取り出した。期待に胸膨らませ、がさごそと中身を漁る。

 出てきたのは三冊の本と、不織布のケースに入っている一枚のCDだった。

 ……これが噂の『虎の巻』と…必勝CDってやつか…!

 本はご丁寧にカバーまで掛けられている。付箋が貼られていて、幾度も使われたような本だ。

 ……磯辺……今宵俺は お前の『虎の巻』に賭けることを誓うぜ……っ!

 もはや俺を阻む者はこの家に居ない!

 が、勢い良く本の頁を開いた俺は、勢い余ってカバーを剥がしてしまった。

 ぺらん、と捲れた裏表紙に、読者を煽るような本のうたい文句が書き綴られている。

 そこには――



『魔女っ子ヴィーナス恋して☆恋々 〜真夏のラヴリィ*マーメイド〜』

 待ちに待った臨海学校! すこぅし海がニガテなかれんちゃんも、仲の良いみんなでお泊りするのは楽しみなのです☆ 一緒の班になった紫朗しろうの優しさにどきどき、明雁あかりも今日は男の子に見えちゃってドキドキ、乙女のハァトは揺らぎっぱなし! でもでも待って、こんなところにまで『ノクトゥルヌス』のメンバーが!? 真夏の海はとってもキケン! 『魔女れん』ファン待望のノベライズ、登場です!



 ……磯辺ーーーーーー!?


 <ににちめ☆終了>


◆<ににちめ☆>市原 重の一日。(カッコ内は話数)


早朝 コンビニで森本と出会う(6)

朝 マキシ先輩と遭遇(7)

テスト開始 関が遅れて教室に来る(8)

12:00位 テスト終了後すぐマキシ先輩に呼び出される(9)

13:00位 『トキメキ☆奪還! 魔女れんイザナ(もとい和谷くん)カムバック大作戦☆☆』開始(12)

13:15位 校門を出てコンビニで食料調達(12)

13:30位 磯辺にチャート式占いをさせられる(13)

14:00位 和谷と鉢合わせる(14)

14:15位 和菓子屋「ゆうなぎ」で桜えび煎餅をゲット →退散(15)

14:30位 退散後、磯辺に『虎の巻』をもらう(16)

15:45位 電車に乗る(17)

16:15位 家に帰ってルイアントーゼと話す(18)

16:50位 『虎の巻』の中身を知る(18)

17:00位 明日のテストに向けて一夜漬けをするはずが……

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