ぱあと13 出迎えはグレネードランチャー
「なぁなぁイチハラくん」
うららかな午後、6月に差し掛かる日の空は 太陽光線が眩しかった。
「イチハラくんは 普段聞く曲、どっち多いん? 邦楽? 洋楽?」
「……邦楽」
「は〜、Aなんじゃな」
窓枠に反射する光を見てしまい、思わず目を細めた。一定のリズムを刻む電車の車両にぼおっと座っていると、車両内の話し声が耳に入ってくる。帽子のばあさん、親子連れ――平日の昼下がりは実にのどかだ。
「んじゃ、『物事を決めるときどっちが多い? A:思い切って即決、B:練りに練って思案』?」
「Aで」
律儀に答えちゃってる俺も俺だが、隣で聞いてくる奴も奴だった。
「『苦手なタイプはどちらかといえば? A:自己中 B:毒舌家』」
「断然にB」
どうせ俺はモノで釣られた人間だ。なんか呼んでくるとか言われて慄いていくことにしちゃった人間だ。
……自己嫌悪だ。
後悔する点が多すぎる。どうして過剰反応したんだ、俺。話に食いついちゃって乗っちゃって電車でコイツと一緒に座っちゃってんだ、俺。人間として堕落の道を歩んでいるような気がする。
「『目玉焼きにはどっち派? A:ケチャップ B:マヨネーズ』」
「…Aならまぁいけるような……って、なんだその通な選択は!」
「おっし、出たで! 『あなたは【池上 架恋】タイプ』やって」
「しかもそれが最終問題!?」
――前略 単身赴任中のお父様。出張中のお母様。
現在息子は、『トキメキ☆奪還! イザナ(もとい和谷くん)カムバック大作戦☆☆』を絶賛遂行中です……!
でびるにお願いっ! ぱあとさーてぃーん
「――っと、こんな感じや。よく当たるじゃろ〜『魔女れんキャラ占い』!」
小型ムックの『ときめきすてき☆魔女れんオフィシャルファンブック1.5』を閉じて、磯辺が同意を求めてきた。……同意しろというのは、さっきまで磯辺がうだうだと言っていた占い結果についてだろうか。残念ながら回想中だったので 全て耳から耳に通して流してしまった。生返事と曖昧日本語でその場を誤魔化してみた。
「こないだ部でもやって盛り上がったんよ! 罰ゲームはそのキャラコスで部員にお披露目って決めてな。和谷くんも確か罰ゲーム組やったような」
「いや和谷が来ない理由ってそれだろ絶対」
こんな副部長に占いを強制的にやらされてるんだろうか。和谷を含めた新入生に同情してしまった。
「……それで。まだよく聞いてないんだけど、和谷ん家ってどれ位かかるんだ?」
巷で噂のスパカで入ったはいいが、行き先は知らない。既に学校のある駅から二駅は離れている。がたごんがたごんと、電車は高台を渡っていた。
「次の駅で降りるで。なんや家、自営業やっとるんじゃって」
「自営業、ねぇ……」
コンビニで買った昆布オニギリをほおばりながら思案する。一瞬どこぞの社長令嬢の姿を和谷と合わせて思い浮かべてしまった。釈然としないが、あの性格は世間に歯向かうお嬢様ともいえなくもない。
ちょっと想像してみる。押したらリンゴォンと鳴る豪華なインターホン。執事が用件を聞いて本人に伝える。
「お嬢様、下僕と名乗る男子生徒がお出でです」…「あら、そしたら地下にPDW/P90とグレネードランチャーがあったわよね。あれで丁重にもてなしてあげなさい」 「仰せのままに」 「くれぐれもご近所に迷惑が掛からないよう『処理』して、いいわね?」
……とかなんとかにっこり笑顔で会話しちゃってたりなんかして……
…………。
「イチハラくーん? なんじゃ カオ強張っとるけどどないしたんー?」
「いかん、ボディアーマーをも貫通するサブマシンガンになんぞ太刀打ちできん…!」
「……はぇ?」
――そんなこんなで、目的の駅に到着する車内アナウンスは聞こえてきた。
二駅戻れば 学校の最寄になる駅。あと一駅進めば大型モールのある都市に出る。
反してここは、駅前がにぎわうだけの普通の各駅らしい。
そんなローカルな駅に降りた俺は、辺りをきょろきょろと見回して、一つしかない改札口を探した。
「あ、コッチや」
先に見つけたのは磯辺だ。歩きつつ、俺は華麗な手さばきで懐から財布を取り出した。首都圏の私鉄鉄道画期的システム――「ICカードで 財布の中からでも改札口にかざして即スルー!」という例のスパカを使うためだ。
「イチハラくんもスパカで入ったんやろ? 便利やし使て大助かりじゃな、コレ」
ぴぴっ。またもや先に磯辺が実況中継して改札口を出る。
そうだ、何を勝手に想像して怖気づいてんだよ、俺!
PDW/P90? グレネードランチャー?
想像の産物に負けてどうする? ただの女子生徒がそんなもん警備に使うはずない。
『虎の巻』の誘惑に負け、演劇部バックに居る巨大な影に怯えたとはいえ……此処まで来たからには居場所を探して敵地調査せねばならんのだ!
そう……俺はどんなブロックもススッとかいくぐってみせる!
意気揚々気分のまま、スパカ(スイスイパッシング・スーパーカードの略称)でGO!と思った矢先。
――ぴぴぴっ。
「がふっ」
改札口で 容赦なく行き先をブロックされた。
このカードは残金を印字してくれない画期的カードだった。
<ぱあとさーてぃーん 終了>
※でびるにお願いっ! どうでもいい補足コーナー※
『ときめきすてき☆魔女れんオフィシャルファンブック1.5』
とは、『魔女っ子ヴィーナス 恋して☆恋々』の特別編集ムック版である。
A5版特殊サイズで発売。
その中の「魔女れんキャラ占い」は、対象者の生年月日・星座・干支に加え、AかBどちらかで答えるチャート式の結果を照らし合わせて占うというもの。カリスマ占い師・ミスティック秋野が監修。
以下、同書同コーナーより抜粋。
★池上 架恋タイプ★
かれんちゃんタイプのあなたは、いつも前向き、明るくて元気な子。さっぱりしていてポジティブだから、まわりの子からも好かれているわ。けれどその反面、人との調和を大切にするあまり、気疲れしちゃっているところも……。ヘヴィな環境にでも順応できてしまう適応性はさすがね。けれど、大きな悩みもいくつか抱えてしまっているはず。まわりの人に話してみたら、楽になるときもあるかも知れないわよ。
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