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ぱあと12 トキメキ☆奪還!大作戦

 廊下に俺の声の余韻が響く。

 はっ……しまった。他に突っ込み箇所は山ほどあっただろうに、思わず 目には見えないはずの星マーク羅列についてツッコんでしまった!

「そうと決まればまずは敵地調査や! 善は急げ、鉄は熱いうちに打て、覆水盆に還らずの精神でかっとばすでっ」

 最後のは慎重に行けって意味だろ。条件反射でそんなツッコミもしそうになったが、前半の磯辺の言葉に ん?と首をかしげる。

「……敵地調査?」

「だってな、決めたんよ! 生き別れのハトコを会わせるってなっ」

 めげずに磯辺が宣言する。は、生き別れのハトコだ? いまいち話の筋が見えない俺に、エセ弁使いは握りコブシに力を込めたまま、目を見て話し出した。…此方が気圧されてしまう、情熱の炎の色だった。

「夏の高原地、遠い血縁関係にあった二人は金柑の木の下、何も知らずにはしゃいでいた―― しかし某組織の陰謀で、幼い二人は引き裂かれてしまう… 時は流れ、成長した少年は、都市の学園で少女の姿を見つける―― 感動の再会…だが運命とは時に残酷で厳しい――、彼女は彼のことを覚えていなかった…引き裂かれたショックで彼女は記憶を封じ込めてしまっていたのだ……! 

『俺!俺、俺だってば、俺だよ!覚えてないのか……!?』、『いやっ……あなたを見ると頭が痛くなるの…近寄らないで……っ』 少年は此処に誓う、少女を某組織から助け出すことを! この初夏あなたに贈るサスペンスラブ、開幕――てな感じなんじゃろ!?」

「長!長ぇよ!妄想語り長っ!」

 なんで夏なのか高原地なのか金柑の下なのか某組織の陰謀が絡んでくるのかオレオレ詐欺師とイタい彼女のやりとりっつーかとか いかん これもどこから切り込めばいいのか解らん!

 えーと…これは、磯辺の中で 俺と和谷が『遠い親戚で事情有りの仲』と認識されたってこと、か?

 感動の再会を果たすべく、ここは自分が一念発起して奮闘しちゃろう、と……

 脚本担当らしい捩れっぷりだが、もえ続ける情熱をこのまま放っておくことも出来ず、俺は声を掛ける。

「あのな、磯辺」

「大方、思わず名乗ったら、警戒されて今に至っとんのやろ?」

 ……微妙に合ってる。

「こーゆーのはな、ちょっとずつ話して理解を深めさせるんじゃ。恐い思われたら終わりやで?」

 ……確かに。

「要するにっ、フラグ立ての道も一歩からじゃっ!」

 ……おい、旗立ててどうすんだよ。

 思い違いも甚だしい。…甚だしいが、そこはかとなく合ってるだけに、否定できなかった。

「明日の練習になにがなんでも来させなあかんじゃろ? せやから今からGO☆や」

 今からGO☆。

「ちょっと待て。今からか」

 ようやく「善は急げ」の意味が分かった俺は、すかさずストップを掛ける。

 しかしハァトに火が点いた人間の鎮火は無理だった。

「……純粋に 感動の再会を手伝いたくなった、って言うたらあかんかな?」

 言い聞かせようとする前に、磯辺の演技でもないしおしお声で謝られて、意を突かれてしまったのだ。

 一重でも人懐っこい目が此方を見上げていたので、少しばかり焦る。

「和谷くんのこと、どうしようかと思っとったんやけど……誰も踏み込めなかったんは事実じゃ。イチハラくんが来てくれて、いいきっかけが出来たで。演劇部代表してお礼言うわ。ありがとうな」

「ああ、いや……俺は別に」

 そんな風に真面目に切り返されてしまい、困ってしまった。

「イチハラくんのこと、ダシに使てるみたいで ごめんな。 元々といえばコッチの問題やし……そや、良かったらお詫びに明日のテストの『虎の巻』貸すで?」

「……なんですと?」

 ちょっと揺らぐ。

 いや、さすがにそれで落ちるのは人として問題が。

 微妙な心の動きを 畳み掛けてしまえという考えを磯辺が持っていたとは思えないが――早合点になった奴ほど恐ろしいものはなかった。

「はっ……部長も来んと一緒に行きたくないんじゃな!? そやったら今部長を呼びに……」

「わーーーっ! わーったわーった!! だからそれだけは呼ぶな!」

 ダッシュで戻ろうとしていた磯辺の服の裾を 千切らんばかりに掴んでいたのは、言うまでもない。

 


 ――しかし。

「腹減った……」

 校門を出て三分後、早くも後悔した。ハラヘリゲージがMAXだった。

 普通だったら直行で家に帰れたものを……。こうなると頭上に揺れる銀杏並木も恨めしい。

 俺の呟きを聞いたのか、てっくてっくと前を歩く磯辺が振り返る。

「あ、そっかイチハラくんは何も食うてへんもんな」

 部室に弁当持ち込んで おかまいなしに提案してきた奴に、今更気が付かれた俺。

 ふと気が付く。

「そういやなんでお前 部室に居たんだ?」

「ほへ? ああ、明日の練習の打ち合わせや。部長からスペシャルな代役紹介する言われてな」

「……」

 聞かなきゃよかった。

「そや、駅に着いたらどっか行こか? 裏路地にいい店あるの知ってるで」

 いつでも元気なエセ弁ちびっ子は、何かアイデアを思いついたらしい。

「『フィルド・ロック』っちゅー喫茶店なんやけど。今ならランチやっとるはずや」

「……今一時過ぎだろ。あそこは二時過ぎないと待つ」

 腹が減って不機嫌なので、俺は要点だけ返す。磯辺があれ、と言いたげな顔をした。

「イチハラくん知っとるんか、その店」

「親父とマスターが知り合いなんだよ。向こうは俺ら兄弟全員知ってる。……やりにくいったらねぇ」

 磯辺に詳しく言わなかったが、俺が一時過ぎに出向きたくないわけはもう一つあった。

 今の時間帯だと 遭ってしまう危険性がある。 

 そう、マキシ先輩に匹敵――いや それ以上に関わりたくないあのマスターが 居るかも知れないからだ。

 思い出す……俺ら兄弟三人が初めてあの地に足を踏み込れた時のこと……

 ワゴンに乗ってやってきたのは マスター直々に手を奮ったという料理の数々……

 眩いばかりの豪華なスイーツを、「いっただっきまーすっ」と口に運んで……

 思い出すのは…… デコと……メガネと……

「……。そこのコンビニでなんか買ってくる」

 蘇ってきたおぞましい記憶を頭から振り払い、俺は いつものコンビニに駆け込むのだった。

 

 <ぱあととぅえるぶ 終了>


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