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ぷろろーぐ<まえのひ☆>始まりは、モナド

 些細ささいなことで世界は一変する――日常なんてそんなもんだ。

 そうしていつしか、一変した世界でのらりくらり過ごすようになる。

 父(単身赴任中)と母(今日から三日間の出張中)と、寮生活の弟一人と妹一人がいるという家庭環境の中、何不自由なく暮らしていた俺の日常は、ある日突然こんな一言から非日常に切り替わった。

「おっかえりなさ〜〜い☆ おめでとうっ!次の使い魔権はキミに決定したよっ」

 がちゃりと自室の部屋のドアを開けた俺は、そのままばさっと荷物を落とした。

 どこぞの漫画で出てきたのと似たようなパターンだった。

 よく言えば踏襲、悪く言えばパクリ、弁護するならオマージュだった。

「……はい?」

 一体全体何をどうしたら、俺の部屋に 変な格好をした女の子がにこにこ笑顔で出迎えてくれちゃってる状況になるのだろうか。

「えっとね、ボクの名前はルイアントーゼ! ルイでいいよ。キミがカサネだよね?」

 しかも黒い服の変な格好をして、無駄な肉付きのない太股をばっちり見せつけながら、『ボク』とか一部の通好みな喋り方で語りかけてくれちゃってるんだろうか。

「あれ、どーしたの?? う〜ん、もうちょっとはやりのアレみたいに登場したほうがよかったかな……」

 女の子は肩までの黒髪をさらっと靡かせながら、ううんとうなった。

「……誰だよオイ」

 ぴよぴよと頭の中でひよこが数羽回っている。かろうじて俺は、それだけ言えた。

 明日からテストだってのに、なんだこの非現実的な光景は。

 一夜漬けする予定だったのに、なんだこの闖入者ちんにゅうしゃ訪問応対の図は。

「分かった! じゃあ今度はカンっペキなイリュージョンでレーザー光線をびびーっと……」

「はやりのアレってテンコーかよ!」



  でびるにお願いっ! ぷろろーぐ



 ルイアントーゼと名乗った女の子の話は 概略すると、こうだ。

 世の中には悪魔検定協会とかいう悪魔召喚に関する機関があるらしい。俺はそのなかの使い魔になる申請をして、審議の後に正式に承認されてしまったらしいのだ。

 悪魔検定協会の使い魔セクションで働くルイアントーゼは、上の勅命ちょくめいにより言い渡す役をおおせつかってって来た、と…。

「……ハイそーですかっていくかっ!」

 今目の前にちゃぶ台があれば、俺はそいつに向かって投げ飛ばしたことだろう。裏に画鋲ガビョウが張ってあっても気合で吹っ飛ばせたかもしれない。

「どっから忍びこんできたんだおまえは!? 不法侵入のコスプレっ子罪で訴えるぞ!?」

「ひどーい! これ、ゴスロリのメイド服バージョンだもんっ」

「へぇ〜、レースのディティールがなんかゴージャス〜♪ ……って、アホかぁっ!」

 かわりに手刀でツッコミしておいた。

「大体なあ! 俺はそんな機関に申請した覚えなんて、これっっぽっちもないんだよ!」

 カ・エ・レ!・カ・エ・レ!と、手で追い払う仕種をして、退場コールの意思を精一杯表示する。

「え〜っと」

 が、何処吹く風。いつの間にかベッドに腰掛けていたルイアントーゼは、どこぞからA4サイズの黒いノート(ノート☆デスって書いてあるが気にしないでおく)を取り出し、ぱらぱらめくっていた。

「じゃあちょっと確認するね。まず、キミの名前はイチハラ・カサネ。この街の公立高校に通う二年生」

「ああ」

 是非以前に そのまま追い返してやればいいのに、律儀な俺ったら!

「2年3組、出席番号7番。好きな食べ物は丼物と四川麺しせんめん。着歌設定はイニエの『きっと、どこかへ。』」

「……なんでそんなことまで知ってるんだよ」

 ちなみにイニエとは、今をときめく正体不明のハスキーボイスシンガーだ。俺は20代後半の美女だと踏んでいる。

「で、明日から三日間のテスト期間に入る、と」

 そうだ。俺は明日から地獄が続くんだ。こんな奴と話している場合じゃないんだ。

「あとねえ、学校行く途中でキミ コンビニ寄ってコーラ買ってたでしょ?」

「ストーカーすんな」

 それなのに 律儀にツッコミしてる、素直すぎる俺ったら!

「しかもコ○・コーラでもなくペ○シでもなくドク○ー・ペッパー」

「人の趣味をとやかく言うな!」

「あと……… う〜ん、あ、学校入るとき右足から入ったでしょ?」

「今 思いついたように言ったな」

「だからー。テストの前日にドク○ー・ペッパー限定チェリーバニラ味を飲んで、『ぷっは〜。○○い、もう一杯!』って言って 学校の校門を右足から入ると、自動的に悪魔協会に使い魔志願者としてエントリーされるんだってばぁ」

「超こじつけな条件だろそれ! あーもう適当なこと言ってるんじゃねぇよこのコスプレっ子!」

「ああ〜〜っ また間違えたあ! コスプレとゴス服は趣旨が根本的に違うんだからねーーっ!?」

 ぎゃんぎゃんわめき合ったこと小一時間。

「わーったわーった、この際俺が悪魔でも使い魔でもなんでもいいから!」

 すでに窓の外は暗くなっていた。

 このままだとテスト時間がどんどん削られていくことを判断した俺は、取り合えず聞いてみることにする。

「ルイアントーゼ、とか言ったな。で!? その悪魔とやらになった俺はどうしたらいいんだ?」

 やっと自分のことを分かってくれた!と、相手は笑顔になって 間を置く。

 何を話すのかと思えば、そのコスプレっ子改めゴスロリちゃんは、天真爛漫てんしんらんまんな表情で――

「下僕になるんだよっ」

 とまあ、およそ顔に似つかわしくない発言をした。

「よしっそうか下僕か! って下僕かよおい!?」

「これから数日以内に、キミを喚び出すヒトが現れる……」

「……ノリツッコミも無視か。無視なのか」

 律儀なためにうな垂れる俺を、彼女は真剣な面持ちで見ていた。

「そのヒトの希を七日間以内に叶えること。それがキミの使命なんだ」

 唐突すぎた。そもそも意志に反して悪魔なんてなれるものなのか?

 面食らっている俺に、ルイアントーゼはそれ以上とぼけたことを言わなかった。

 消え際、彼女はこう告げたのだ。

「覚えておいて。カサネ、キミは召喚されるモノ――悪魔になったんだから」


 ……それから俺の新しい日常が始まった。


 <ぷろろーぐ 終了>

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