降りた憶えもないバス停にて
夜のしじまに身を委ね、ふと自分という存在すら曖昧になるような瞬間のために、この物語は編まれました。
正しいはずだった道筋を外れ、二度と戻れない時間の途中に取り残されたすべての人へ贈る、ささやかなプロローグです。
車窓車窓に浮かぶ影を見送り、誰かの降りた足跡だけに灯る見知らぬ停留所で、夜の底に忘れてきた自分の名前をひとり探している。
降りた覚えのないバス停にて
最後の灯台のように点滅する時刻表
見憶えのない地名が
漆黒の闇にぽつりと浮かんでいる
ポケットのなかで丸めた往復切符
行きの記憶はあるのに
帰るべき場所の輪郭だけがひどく曖昧だ
バスはとっくに去り
赤いリアランプの残像すら夜に溶けた
どこで間違えたのだろう
正解の降車ボタンを押したつもりで
私は失くした日々の途中で降りてしまった
誰も待っていないベンチの冷たさに腰を下ろすと
吹き抜ける風が
どこへも帰れない私を優しく笑った浮かぶ影を見送り、誰かの降りた足跡だけに灯る見知らぬ停留所で、夜の底に忘れてきた自分の名前をひとり探していた
ポケットのなかで丸めた往復切符
行きの記憶はあるのに
帰るべき場所の輪郭だけがひどく曖昧だ
バスはとっくに去り
赤いリアランプの残像すら夜に溶けた
どこで間違えたのだろう
正解の降車ボタンを押したつもりで
私は失くした日々の途中で降りてしまった
誰も待っていないベンチの冷たさに腰を下ろすと
吹き抜ける風が
どこへも帰れない私を優しく笑った
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ふと立ち止まった時や、自分の居場所を見失いそうになった夜の静けさを重ねながら書き上げました。
どこかへ行きはぐれてしまった夜に、この小さな物語がそっと寄り添えたなら幸いです。




