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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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「役立たずの聖女はいらない」と追放されました。宿屋の回復がHP5になったそうですが、私は戻りません。元勇者だった魔王様に一生離さないと囲われて、幸せすぎてそれどころじゃないんです。

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/02/20

「なんの役に立っているのかもわからない、役立たずの聖女はいらない」


 突然、国王に言い渡されて、私は追放されました。


 都市の城壁の前に、勇者を目指す若者への温情の初期装備と共に私は外へ捨てられた。


 意気揚々と城門をくぐり冒険に旅立つ勇者候補の若者達の間で、私はぽつねんとしています。


 いえ、私も若いんですけどね、見た目は。


 聖女としての力は国を支えるだけでなく、私の見た目も若く保っている。


 この力を軽視した事でこの国の根幹が消失しました。


 もうどうなっても知りません。


 こうなっては、私が魔王を倒すしかありませんわ!



 目の前に全滅しかけの勇者候補のパーティーが倒れています。


 敵は恐ろしい……スライム!?


 え、スライム!?



 ボコッ!


 さすがに戦闘が苦手な私でもスライムは一撃で倒せる相手です。


 勇者候補パーティーを回復させて話を聞くと、


「レベル上げのためにギリギリまで深追いしてしまって……」


 あー、あるあるですね。


 私も転生前のRPGではよくやりました。


 全滅したら所持金は半額ですから、HPが一桁になる前のこまめな宿での回復が大事ですよね。


 一旦街に戻ると別れましたが、お話しした方が良かったかしら?


 もう、宿屋で一晩で回復する事はないと——。


バサッ!


 目の前に黒い物体が現れる。


「お前が聖女か」


 禍々しいそれは人ではない、そして圧倒的な力……。


 魔王だ——!!


「お前が追放されたと聞いて駆けつけたのだ。今度は私だけの聖女になってもらおうか」


 魔王を倒しに行くつもりでしたけど、今ではありません。


 戦闘経験の乏しい私はあっという間に魔王の腕に捉えられて、連れ去られてしまいました。



 私の聖女としての能力は、どんな怪我も病も呪いも、一瞬で回復させることが出来るというもの。

 

 私を見つけた先代国王が、「この力は、たった一人に独占させるよりも広くみんなの為に使おう」と、私の力が国中に広がるように祈りの部屋を用意して下さいました。


 それにより、宿屋に泊まると一晩で体力や精神力など、あらゆることが回復するシステムが構築されていたのです。


 私がいないので人間側のこのシステムはお終いです。



 魔王城の一室、魔王のプライベートルームに案内された私。


 魔王城の他の場所とは違い禍々しさのない、完全な人間の部屋ですね。


「聖女、待たせてすまない」


 そう言って入って来たのは人間の青年です。


 魔王様はどこに?


「さっき君が俺にかかっていた呪いを解いてくれたから人間に戻れたんだ」


「え!? 魔王様って人間だったの!?」


「まあな、魔王の存在に関わる呪いだから解けないはずと思っていた。聖女には勇者にかけられた呪いだけ解いて欲しかったんだが、君の力は俺が思った以上らしい」


「……存在に関わる呪い……?」


 不思議に思いながら、人間の姿の魔王様がイケメン過ぎてドキドキしてしまう。


「ま、魔王様! ゆ、勇者が来ました!」


 部屋の前で魔物が呼んでいた。


「またか、勇者の数が多すぎるんだ、君のせいでね」


 そう言って笑う。


 ああ、宿屋システムの事を言っていて、私がここにいるから既に使えなくなっている事を知っているのね。


「ちょっと待って、宿屋システムがなくなっても、今いるのは全回復されてる勇者よね?」


「魔王からのサービスで全回復する事もある」


 いや、冗談を言ってる場合じゃない!


「人間に戻ったあなたで戦えるの!? 私が戻してしまったのに!」


「まあ、俺が倒されたら倒されたで、挑戦者の勇者が次の魔王になるだけだ」


 え? 魔王の存在に関わる呪いって!?


「とにかく、私も行きますよ。回復なら任せて、魔王様!」



「せ、聖女様がどうして魔王の味方を!?」


 さすがに魔王城まで来れる勇者パーティーだ、レベル上げで全滅していた勇者とは違う。


 物理、魔法、呪い……、さまざまな攻撃で魔王様の体力を削って来る。


 けれど、私の回復力さえあれば、勇者など敵ではない。


 全滅した勇者パーティーは数分のタイムラグの後に、光に包まれて教会に運ばれる。

 これも誰かの能力を使って構築されたシステムなのかしら。


 教会で目覚めた後の勇者に突きつけられる金額を考えたらアコギすぎるけど……。

 宗教法人だから無税だろうし。


 そう考えたら私の宿屋システムって良心的だったわ。

 善良だから追放なんてされるのよね。


 こんな事なら宿屋からマージンを取っておくんだった。



「ありがとう、聖女。君がいなければ勇者に倒されていたよ」


 魔王様は部屋で禍々しい衣装を脱いで人間の姿になっている。


「呪いが解けたのなら魔王なんて辞めればいいでしょ?」


「そんなことは出来ない! 今以上に魔物たちが一方的に蹂躙されてしまう。レベル上げと称してどれだけの魔物が無意味に殺されていると思うんだ!」


 何気なく言った一言が魔王様を怒らせてしまう。


「すまない、聖女。俺は元勇者だ。俺自身が何も考えずに魔物を蹂躙する側だったんだ……」


 ……魔王様にも葛藤があるのね……。


「ま、魔王様! ゆ、勇者が来ました!」


 部屋の前で魔物が叫ぶ。


 ま、また!?


 宿屋システムはすでにないけれど、一晩で回復していた勇者のストックがまだいるらしい。


「……行くか……」


 魔王様はすごく疲れていそうだわ。


「お供します!」


 その後も、元気な勇者パーティーが数組やって来て、魔王様の過酷さを身を持って体験できた。


 一晩寝たら全回復って凶悪すぎるシステムだったのね!


 でも、今夜からは一晩で全回復するシステムは無くなるの。


 そして、夜が明けた——。



 勇者たちは目が覚めて、体力も魔力も精神力も、何もかもが回復していない事に驚いた。


 HP1は5くらいに。


 自然に回復する分は回復しているがすぐに冒険に出られる回復量じゃない。


 すぐに回復ができる施設には行列ができ、回復ができる道具は飛ぶように売れた。


 しかし、それも無限に回復できるわけではなく、施設の回復用の魔力がなくなり、道具も売り切れた。


 いつかは回復する、しかし、回復するまでの時間が長すぎた。


 勇者たちの冒険はこれまでと全く違うものになった。


 慎重になり、少しでもダメージを受けたら街に戻る。


 一日に倒される魔物は劇的に少なくなった。



 魔王様にプリンを食べさせて貰いながら魔物の報告を聞いた。


 このところ勇者の襲撃が全くなくなっていて、人間側の混乱振りは体感出来ていた。


 宿屋システム……本当に人類の要レベルのすごいシステムだったのね。


「これはすごいな。君を『役立たずの聖女』と呼ぶなんて、無能な王がいたものだな」


 魔王様はプリンをまたひと匙掬って、腕に抱いた私に食べさせる。


 パクパク


「本当ですね。きっと今頃は勇者たちに責められてボコボコにされているかも知れませんね」


 私は魔王様の腕の中で甘やかされて、トロトロに溶けていた。

 王の末路などには実は全く興味がない。


「聖女、他に欲しいものはあるか?」


 魔王様はプリンがなくなるとすぐに次に欲しいものを聞いてくれます。


 食べ物や服に宝石、色々なことはもう叶えてもらったのでもう欲しいものなんてありません。


「魔王様にずっと抱っこしていて欲しいです……」


「そうか? 聖女はもう魔王専用で一生ここから出られないんだ。欲しいものがあったらなんでもいうんだぞ」


「はい、魔王様、大好きです」


 元勇者の魔王様の熱い胸板に抱かれて、赤ちゃんみたいに甘やかされて、幸せすぎます。


 聖女はIQ1になってます。


「ま、魔王様! 大変です! ゆ、勇者が集団で来ました!」


 部屋の前の魔物の叫びに、IQが一気に回復した。


 勇者が集団でって、どういうこと!?


「囚われた聖女を返せと要求しています」



 魔王城に集まった勇者たちは私、聖女の返還を要求していた。


「聖女様! 帰って、帰って来て下さい! あなたを追い出した国王はもういません!」


 後ろに何か引きずっていると思ったら、磔にされた国王が出て来ました。

 服はパンツのみで、王冠だけが国王だった名残りを残しています。


 顔は腫れて、身体中があざだらけ、本当にボコボコにされていました。

 まだ息はあるようです。


「この全ての元凶の国王はもう俺たちの王ではありません! 魔王の好きにして構わない! だから、どうか、聖女をお返しください! ……せめて、せめて宿屋システムだけでも……!」


 勇者の一人が涙を流しながら訴えてます。

 他のみんなも泣いているようです。


「あんな汚いおっさんと聖女を交換できるか」


 魔王様が怒っています。


「この無能が!」

 交渉が決裂すると、国王に勇者が石を投げました。


 しかし、数十組の勇者パーティーが集まって魔王城に攻め込まれたらさすがに、こちらに勝ち目はないように思います。


「……魔王様」


「君は俺のものだ。絶対に手放すつもりはない」


 抱きしめてくれる魔王様は相変わらず力強いけど、私の心には不安が広がります。


 そして、魔王城の前で勇者軍団と魔王軍の戦いが始まりました。



 勇者たちは宿屋での回復は出来ないことを知っているから、かなり慎重でムチャな攻撃はして来ません。


 それでもさすがに魔王様を倒してもおかしくないほどの実力者揃いの勇者軍です。

 魔物たちは抵抗虚しくやられていきます。


 ジリジリとゆっくり、確実に魔王軍は後退させられていく。


「まずは勇者たちに魔力を使わせよう。回復手段がなくなれば余裕もなくなっていく」


 魔王様の的確な指示で、魔物たちは状態異常など、勇者が回復や防御に魔力を回さなければいけない攻撃方法に切り替える。


 膠着状態が続くが、確実に勇者側の精神を削っている。


 しかし、魔物の方も魔力は無限じゃない。


 むしろ魔力が少なく、普段から魔力切れで攻撃手段がなくなり倒されることも多い。


 消耗戦なら勇者側が有利か……!


 魔王様に焦りの色が伺えた。


「聖女、君と過ごせて楽しかったよ。もっとたくさん甘やかしたかったけど」


 そんな事を言う。


 魔王様が私に触れる手が温かくて悲しくなる。


 たった一人なら体力も魔力も呪いも、あらゆることを回復させられる私だけど、魔物全員を回復させることはできない。


 魔物を一匹づつ回復することはしてるけど、私のところに来て回復、また戦いに行くとなると、時間と空間のロスがあり戦略上不利になるところもある。


 私が移動して回復して回っても、回復場所にムラが出るから、そこを勇者につかれてしまえばかえって不利になる。


 力があるのに役に立てられない、ここでは国王に言われた通りの『役立たずの聖女』だ。


 ……宿屋システム……。


 私の力を全世界に行き渡らせるために構築されたシステムだ。


 ……そんなことが出来ていたなら、今ここで、私の力で魔物を回復させることも出来るのでは?


 前国王が私の為に用意したのは、祈りを世界中に届ける為の部屋のみ。


 マイクに向かって呼びかける。


『勇者のみなさん、おはようございます。回復の時間です』


 あれは、……ラジオ!


 受信機がないから誰にも聞こえてはいませんでしたが、あれはラジオです!


 ……きっと声が届く事が条件だったんでしょう。


 なら……!


 ここにはラジオの道具はないけれど、大声をだせば戦場全体に声は届くはず……!


「魔物の皆さーん! 回復の時間でーす!!」


 私の思いっきり叫んだ声が風に乗って遠くまで飛んでいく。


 声が光になり、魔物たちは回復していく。


「聖女……!」


 魔王様が驚いている。


「ば、ばかなっ! 全回復だと……!」


 勇者たちは戦意喪失して帰って行った。


 国王を残して……。


 ……いえ、持って帰ってください!


 あ、勇者たちが国王を連れ戻しに戻って来てくれました。


 と思ったら、


 国王の頭に乗っていた王冠を乱暴にもぎ取っていきます。


 王冠を取られたら、ただのパンツ一丁の汚いおじさんです。

 本当に不法投棄はやめてください!


 勇者は国王を振り返る事なく去っていきます。


「ひどいな……。これでは、どっちが魔物かわからない……」


 魔王様の呟きに、勇者の回復システムだった自分を思い出してゾッと寒気がした。



「申し訳ありません! 聖女さま! どうか、どうか、勇者たちの元には返さないで下さい!」


 勇者たちにボコボコにされた国王が、腫れた顔に涙と鼻水を垂らしながら泣き叫んでいた。


「聖女、君の力は本当に想像以上だったよ。これからもずっと、一生手放さないよ」


 私を膝に乗せて抱きしめる魔王さまが囁く。

 魔王様の指先からチョコレートの欠片が私の口に運ばれる。


 パク


 魔王様の指先まで食べてしまいそうな私を魔王様はとろける笑顔で見ている。


 私もまた魔王様の甘やかしに身体を溶かされる。


「うわあああん、せ、聖女さま、お願いします!」


 甘やかし享受モードのIQ1になった私には、魔王様以外の言葉は届かない。


「国王は人間側のトップにいたんだ。事情を詳しく知っているはずだ。利用出来るところもあるか……」


「魔王様、私以外の人を見ちゃ嫌です……」


「……すまない、聖女。回復させる時間も勿体無いな……」


 魔王様が手で合図すると魔物がやって来て、国王を引きずっていきます。

 その後、彼の姿を見た者はいません……。


 ただ、魔王城の隅で魔物に怯えながら掃除をしている男がいるとかいないとか……。


 私の唇の上で、魔王様のキスとチョコが溶けて甘い。


 私はとっても幸せです。

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