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第8話:ロボットを作ろう

 超感覚を持った人間が、人体と同じ感覚で動かせるロボットを作ろう。


 口で言うのは簡単だが、実際に作るには、超えなければならない技術的ハードルがいくつもある。

 それは、超銀河レベルの文明を以てしてもそう易易と達成できるものじゃない。


 まずは駆動系――アクチュエーター。

 人型である以上、各部の関節の動きは最も大事だと言っていい。

 必要なのは生物的な靭やかさと、U.S.E.R.の反応速度に対して限りなくラグを減らした瞬発力。

 だが、そうなると油圧や空気圧、電気系では再現できない。

 人間の筋肉と同等の柔軟性と、鋼鉄の強度を兼ね備えた次世代の駆動系が必要だ。


 次に、それを支える骨格――フレーム。

 宇宙空間を縦横無尽に駆ければ、当然凄まじいGがかかる。

 パイロットと機体を守り抜く剛性。

 そして、搭乗者の『星源力』を隅々まで伝導させる神経としても役割も求められる。


 そして、各部にエネルギーを供給する動力炉――ジェネレーター。

 巨大な質量を動かし、バリアを展開し、ビームを撃つ。

 それだけの莫大なエネルギー源を、出力に対して小さな機体に押し込まなければならない。


 その他にもロボット開発というのは、まさに人類の叡智を結集させた技術が盛り沢山に必要になる。


「想像してたよりも大変だな」

「なになに~? 領主くんさぁ、もう怖気づいちゃってんの~?」


 まだ穴だらけの仕様書を見ながら呟いていると、ライラ肩越しに顔を覗き込んでくる。

 俺たちは、ライラの輸送船兼ラボをライン家所有のドックへと移し、開発作業を本格的に始動させていた。


「怖気づいたわけじゃない。ただ、まだまだ足りないものが多いなと思っただけだ」

「ふ~ん……とりあえずさ、駆動系は『流体結晶アクチュエータ』を試そうと思ってるんだけどさ」

「流体結晶?」

「イェス! 電気信号で瞬時に硬化・収縮する流体合金! これなら人間の筋肉にかなり近い運動が再現できるってわけ!」


 両手の親指を立てて、興奮気味に言うライラ。


 彼女のチームには、種々のスペシャリストたちが揃っていた。

 構造力学、エネルギー工学、材料工学、機構学……。

 

 更に彼女自身も全体の監督をしながら、自身の専門である推進機及び姿勢制御装置の開発に従事してくれていた。


「植民惑星から持ち帰ってきた希少金属の中に、フレームに使えそうな素材はあったか?」

「その辺についてはジモっちに任せてるけど、質の良いのが揃ってるってバリ興奮してたからいけんじゃね? 知らんけど」


 徹夜続きでテンションが普段にも増して上がっているのか、キャッキャと笑って答えられる。

 この優秀さとギャルさのギャップに未だ慣れないが、とにかく彼女のおかげで真っ暗だった俺の未来に光明は差し込んできていた。


 ただ、それでも足りないものはまだまだある。

 特に問題なのが、機体全体を制御する操作系の開発。


 U.S.E.R.がその超感覚をそのままに、人体と同じ感覚で機体を制御するという特殊な仕様のために既存のシステムはまるで使えない。

 オペレーティング・システムを一から開発する必要ある上に、脳波による制御には脳神経科学といった医療分野に近い知識や技術も必要になる。


 ライラのチームは機械工学の専門家は揃っているが、ソフト方面に関しては一から開発を主導できる人間がいない。

 どうにか彼女のツテで探してもらっているが、今のところはあまり芳しくない状況だ。


「あー、マジで無理! 脳味噌とか専門外すぎ~!」


 お手上げとばかりに、ライラがデスクに突っ伏した。


「機械ならドンと来いだけどさ~……人間の神経と機械を直結させるのは、もうほとんど医学の領域じゃん? アタシのチーム、そういうグロいのダメな子ばっかだしー」

「医学とグロを近似ジャンルにするな」


 ツッコみながら俺もどうするべきかを考える。


 俺のU.S.E.R.としてスキルツリーはまだ、初期状態のままで置いてある。

 現状スキルポイントは限られ、振り直し(リスペック)の方法も定かでない。

 そうなると、人を集めた上でそれでも足りなかった技術を特化させるのが、最も賢い使い方になる。


 だが、ライラの集めたチームが思っていた以上に優秀なこともあり、今のところは温存できていた。

 つまり、ここは適切な使い所ではあるのだが……。


 一旦、スキルツリーを開いて確認する。


 医学系(おそらく回復スキル関連)のノード群は近くもないが、そう遠くもない。

 残っているポイントを全て消費すれば、ギリギリ届く範囲だ。

 しかし、これが脳科学の分野までサポートしているかは分からない。

 この段階で取るのは、かなりの賭けになってしまう。


「ヒルデ。外部からの招聘はどうなってる? 興味を持ってくれそうな科学者はいたか?」

「いえ、今のところ良い返事はありません。アース派とヴァン派の両派閥と緊張状態にある当家と関係を持ちたいと思うような物好きはそういないようです」


 ヒルデは、機嫌よくコンソールを操作しているライラを見ながら続けて言う。


「やっぱりそうか……だったら仕方ないな。俺のスキリツリーでなんとか――」

「あの、クラウス様……僭越ながらお尋ねさせていただきますが、まだワープ酔いの影響が残られていますか?」


 こうなったら仕方ないと覚悟を決めかけた俺の言葉を遮って、ヒルデが言う。


「え~、なに~? 領主くんって、ワープ酔いとかしちゃうんだ~! か~わい~! 飴舐める~?」

「何? ヒルデちゃん、それはどういうこと?」


 茶化してきたライラを無視して、その言葉の真意を尋ねる。


「わざわざ外部から招聘しなくても、当家には適任者がいると思われるのですが……もしや、本当にお忘れですか?」

「え? 誰? もしかして、ヒルデちゃん?」


 言ってきた当人を見据えながら聞き返す。

 確かに頭は良さそうな知的美女だけど、脳神経科学の専門家っぽいかと言われると何か違う気もする。


「レティシア様です」

「レティシア……って、()()?」

「はい。()()、レティシア様です」


 二度告げられた名前から、その姿を思い出す。

 レティシアと言えば、この家に帰ってきた時に砲弾のような勢いで飛んできたとんでもないブラコン妹だ。


「ヒルデちゃんこそ、なんか間違ってない? ()()が優秀な科学者って?」

「はい。齢9歳で帝国中央医科大学に入学12歳で卒業され、博士号を3つ取得されています。知能指数は200を超え、特に脳神経科学の分野においては、国内で右に出る者がいない若き権威とされています……本当にお忘れですか?」


 忘れてたというか知らないし、信じたくない。

 そんな人類の至宝みたいなスペックをしている少女が、あんな残念なブラコンムーブをかましているなんて。


「……本当にぃ?」

「事実です」


 尚も疑う俺に、ヒルデは『残念ながら』と頭に付いてそうな口調で深く頷いた。


 ***


「おーい、レティシアー? いるかー? 入るぞー」


 コンコン、とノックして部屋に入る。

 ファンシーなぬいぐるみで埋め尽くされた部屋の真ん中――噂の天才少女がふくれっ面でベッドに座り込んでいた。


「……お兄様なんて知りません」


 第一声が、それだった。

 俺が何かを言うよりも早く、プイッと顔を背けられてしまう。


「どうせ、あの泥棒猫たちとイチャイチャしてたんでしょう? 私、知ってるんですからね。このところずっと、他の女の船に籠もって……可愛い妹のことなんかほったらかしで……」

「悪かった悪かった。最近、構ってやれなかったのは、本当に俺が悪かった。でも、これは緊急を要することで……」

「知りません! 私、拗ねてますから!」


 ベッドにゴロンと寝そべって、顔を背けられる。

 これが本当にIQ200の姿か……?


「そう言わずにさ。お前の頭脳が必要なんだよ。この不肖な兄に力を貸してくれないか?」


 めんどくせぇ……と思いながらも、ひたすら下手に出続ける。


「ふんっ、そんなこと言って。どうせ、用が済んだらポイですもの」

「そんなことないって。俺がどれだけお前を大事に思ってるか。その証拠に、一区切り付いたら何でも言うことを聞いてやるから……な?」


 俺の言葉に、ピクッとレティシアが反応した。


「……今、何でもって言いました?」

「えっ? あ、ああ……お茶会でも散歩でも、何でも付き合ってやるから……なっ? 手を貸してくれよ」


 両手のひらを重ねて必死に懇願する俺に、レティシアは無言でジッと俺の顔を見つめる。


 その灰色の脳細胞で何かを考えているのか、数秒ほどの沈黙が続いた後――


「もう、仕方ないお兄様ですわね……」


 そう言って、彼女はベッドから起き上がると、俺の胸元に飛び込んできた。


「ただし、先の約束は決してお忘れなきように、しっかりとニューロンに刻んでおいてくださいね?」

「あ、ああ……もちろん……」


 上目遣いで見上げられながら、細い指先がこめかみをツンツンと突いてくる。


 なんだろう、このゾワッとする感覚は。

 ただのブラコン妹のかわいいおねだり……のはずなのに、IQ200の脳科学者という情報が追加されただけで、底しれない不穏さを感じる。


「約束する。男に二言はない……」

「うふふ……では、これで『契約』は成立ですわね」


 彼女は俺の腕をギュッと抱きしめると、甘えるように頬を擦り寄せる。


「それから契約中は他の雌猫との時間も最低限になるように、私が一秒単位で管理させていただきますので」


 可愛らしいはずが、底知れない恐怖を感じる笑みに、俺もなんとか笑顔を作って返す。

 そうして改に天才妹を加えて、遂に役者が揃ったロボット開発は、最初の関門を迎えることになる。

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