第6話:スキルツリーだ、これ!!
「連れていきなさい」
ヒルデの指示に応じ、警備兵たちが氷漬けのセバスチャン(仮)と腕を失った男を引きずっていく。
あとに残されたのは、血と氷の散らばった応接室と、未だ呆然としている俺だけ。
「申し訳ありませんでした、クラウス様」
ヒルデが、俺の足元に膝をつき、深く頭を垂れる。
「私が側にいながら、あのような不埒な輩の接近を許してしまったこと……痛恨の極みです。この不始末、如何様にして償えばいいか……」
「いや、いいよ。助かったし。それより顔を上げてくれ」
俺は引きつった笑みを浮かべながら彼女を立たせる。
償いとか言い出して、その場で腹を切ったりしかねない雰囲気だ。
その忠誠心はありがたいが、全体的に重すぎて時々胃が痛くなる。
「それよりもヒルデ。さっきのあれは何だ?」
「あれ、とは?」
「あの氷だよ。一瞬で、あの爺さんの手が凍りついたやつ。あれは魔法か?」
俺の問いに、ヒルデが怪訝な表情を向けてくる。
「……クラウス様。やはり、記憶の混濁が未だ深刻なようですね。『U.S.E.R.』や『星源術』のこともお忘れとは」
「ゆーざー……? せいげんじゅつ……?」
突如出てきた聞き慣れない専門用語に、首を傾げる。
「はい、『U.S.E.R.』――正式名称は『Universal Source Execution Realizer』。端的に言えば、宇宙の根源へのアクセス及び実行権を持つ者の総称です」
「ほえー……」
いきなり、宇宙の根源とか話の規模がデカくなりすぎて間抜けな声しか出ない。
「そうしてアクセスした根源の力を現実に具現化したものが『星源術』です」
「はえー……で、ヒルデちゃんはその『U.S.E.R.』って奴なわけだ」
「そうです。そして、クラウス様……貴方もです。それも覚えていないとは、本当にひどいワープ酔いのようですね」
「えっ!? 俺も!? じゃあ、俺もさっきの魔法みたいなやつ……えーっと、『星源術』とかいうのを使えるってこと!?」
思ってもいなかった新情報に、素っ頓狂な声を上げる。
てっきり、片田舎の無能ボンボンかと思ったらやるじゃねーか。
「それは、個々の素養に拠るので私からはっきりとは言えません」
「……と言うと?」
「『U.S.E.R.』毎に、アクセス可能な領域は異なります。百聞は一見に如かず、ということでご自身の目で確かめられては?」
『どうやって?』と、首を傾げる俺にヒルデが大きく溜息を吐いて説明してくれる。
「左手のブレスレットに触れて、意識を集中させてください。そうすれば、『視える』はずです」
「ブレスレット……おお、これか……これに触れて……」
奇妙な幾何学模様が彫られた銀のブレスレットに触れて、言われた通りに意識を集中させる。
まるで、スピリチュアル系アイテムのセミナーに参加させられてる気分だ、と思っていると――
――ブォンッ……!
(うおっ……! なんだこりゃ……!)
視界が暗転し、目の前にまるで宇宙のような無数の光の点が広がった。
光の点と点は複雑なラインで結ばれ、巨大なネットワークを形成している。
(こ、これは……!)
そして、その光にはそれぞれ名称やタグのようなものが付けられていた。
『演算速度上昇』『記憶容量拡張』『物理定義強固化』
「スキルツリーだ、これ!!」
その既視感が有りすぎるシステムに、思わず現実で大声を上げてしまう。
「スキルツリー……?」
「な、なんでもない。ちょっと、あまりに見覚えがありすぎただけで……」
訝しむヒルデに適当な釈明をして、再び意識を集中させる。
暗転した視界の中に広がる大小様々な星々のノード。
それを繋ぐラインに、未解放エリアを覆う黒い雲。
何度見ても、それは現代のRPGでは標準搭載に近い、スキルツリーのシステムだった。
やはり、ここはRPGの世界だったという推測が当たっていたのと同時に、微かな光明が見える。
スキルツリーが使えるのはつまり、俺がこのゲームの主人公やその仲間たち――プレイアブルキャラクターと同等の力を持っているということだ。
これを上手く利用すれば、この窮地を切り抜ける可能性が転がっているかもしれない。
そう思って、今見える部分のツリーの端から端までを確認してみるが……。
(俺のスキルツリー……スタート地点、悪すぎない……?)
その期待はすぐに、冷水を浴びせられることになった。
現在表示されているツリーの根本――最も強い光を放っている星の周辺を確認しても、戦闘系らしきノードが全く無い。
あるのは、【艦艇運用効率化】や【資源抽出効率上昇】、あるいは【超技術工廠】といった内政・生産系スキルと、それを効率化させるためのステータスばかりだ。
辛うじて戦闘用に使えそうなのは、【物理防御力増加】【星源力最大値増加】(多分、MP)くらいしか見当たらない。
ヒルデが百聞は一見に如かず、と言ったのはこういうことか……。
「どうかされました?」
現実に意識を戻すと、彼女が俺の方を見て尋ねてくる。
「いや、俺のスタート地点が戦闘系からめっちゃ遠いっぽくてさ……」
「でしょうね。以前もそれを知って、やる気を無くしていましたし」
本当に、どうしようもないクズだなこのクラウスとかいう男は……。
初期レベルは6で、所持スキルポイントは12しかなく、取れるノードの数も、現状ではかなり限られている。
近場の内政・クラフト系ならともかく、戦闘系のスキルまで手を伸ばすには全く足りない。
これじゃ、自力で強くなって窮地を切り抜けるのは流石に難しい。
「ちなみに、ヒルデちゃんはどこら辺から始まってんの?」
「私は【近接戦闘系】や【身体能力強化系】と、後は【氷雪星源術】の周辺ですね。それ以外はからっきしですが」
なるほど、彼女は典型的な『前衛アタッカー』としてデザインされたキャラクターらしい。
俺とは真逆で羨ましい。
俺もそっち側だったら、まだなんとかなった可能性もあったかもしれないのに……と考えたところで――
(いや、待てよ……真逆……?)
ふと、俺の脳裏に一つの考えが閃いた。
俺には戦う能力はないが、『創る』能力があるらしい。
逆に、ヒルデには創る能力はないが、圧倒的な『忠誠』と『戦う』能力がある。
脳内でバラバラだったパズルのピースが、カチカチと音を立てて嵌まっていく。
現状、自軍の戦力は戦艦一隻で、対する敵は数千隻。
まともに艦隊戦を挑めば、100%負ける。
だが、そこに敵が存在を知らない未知の兵器を送り込めればどうなるだろうか。
圧倒的な戦力が覆されるのは、いつだって既存の戦闘ドクトリンがひっくり返された時だ。
どうせ不可能なら、全ての常識をぶっ壊す方向に賭けてみるのは悪くないんじゃないだろうか。
そうして前世で培った思考の果てに、俺は一つの結論にたどり着いた。
……作るか! 人型機動兵器!




