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第2話:拉致ってきちゃって

(嘘だろ……)


 俺はライラが突きつけてきたタブレットの画面を凝視したまま、冷や汗が頬を伝うのを感じていた。

 画面の中で、無骨な人型機動兵器がバーニアを噴かし、不格好ながらも確かな挙動で機動している。

 

「これ、マジモン?」

「マジモンもマジモン。アタシらのヴァルキュリアにクリソツ……っていうか、基本フレームの構造はそのまんま『アレ』だね」


 ライラが観念したように、肩を竦める。

 アレとは即ち、俺たちが資金難を解決するために世界中にばら撒いた『廉価版ヴァルキュリア』の設計データだ。


 確かに、俺は売った。

 背に腹は代えられないし、核心である『アストラル・コンバーター』をオミットした劣化品など、誰にも扱えるはずがないと高をくくっていたからだ。


 だが、画面の中では確かにその機体が動いて、一定以上のパフォーマンスを示している。


(想定外だ。早すぎる)


 俺たちの設計データから、それを模した機体を作るまでは想定内だ。

 だが、人型機動兵器という本来なら現実の運用に即していない欠陥兵器を、ここまで制御するには『U.S.E.R.』と『アストラルコンバーター』が不可欠。

 俺たち以外の勢力がそこまで辿り着くには、もっと時間を要すると想定していた。

 技術面に加えて、運用方法と二つの大きなハードルが存在するからだ。


(マズい……非常にマズいぞ……)


 ヴァルキュリアの優位性が崩れれば、俺たちが有している戦力の価値は暴落する。

 本来の予定なら連中が気づく頃には、俺を除いて5~6人のパイロットを揃えている算段だったが、まだ半分にも満たない。


 俺は思考をフル回転させ、次の一手を模索する。


 まずは情報の出処だ。

 敵を知らなければ対策の打ちようがない。

 

「ヒルデちゃん! すぐにこの動画の出どころを調べてくれ! どこのどいつが作って、誰が乗っているのか――」

「既に調査済みです」


 俺の指示が飛び切るよりも早く、涼やかな声が返ってきた。

 振り返ると、ヒルデが手元の端末を操作し、新たなウィンドウを空中に展開させているところだった。


「仕事が早くて助かる!」

「クラウス様の憂いを払うのが私の務めですので」

「で、どこのどいつだった!?」

「動画の発信元は、帝国と隣接する中立自治区『アルフヘイム』。そこに拠点を置く新興の兵器開発企業『スチール・ホライゾン社』による、投資家向けのプロモーション映像です」

「中立自治区……スチール・ホライゾン……」

「はい。そして、この機体に搭乗しているテストパイロットも特定できました」


 画面が切り替わり、一人の男の顔写真が表示される。


 派手な金髪に、襟足だけを長く伸ばした髪型。

 整った顔立ちだが、口元には人を小馬鹿にしたようなニヤけた笑みを浮かべている軽薄そう奴だ。


「名前と素性は?」

「ティーン・ベイン。流れの傭兵です。ここ数年は各地の小規模な紛争地帯を渡り歩き、戦闘機乗りとして活動していたようです」

「戦争狂のU.S.E.R.ってことか……まずいな……帝国に目を付けられて、雇われでも――」

「いいえ、クラウス様。彼はU.S.E.R.ではありません」


 俺の懸念を、ヒルデがあっさりと否定した。


「えっ?」

「U.S.E.R.ではなく、単なる戦闘機パイロットです」

「いや、でもヴァルキュリアもどきをここまで乗りこなして……」


 ヴァルキュリアは脳波を読み取り、U.S.E.R.が持つ超感覚を機体にダイレクトに反映することで人型という形状を最大限に活かしている。

 U.S.E.R.以外の人間が乗り込み、通常の操作系だけを利用する場合は手足のついた劣化戦闘機の棺桶でしかないはずだ。


「本当か? 情報を隠しているだけじゃないのか?」

「こちらをご覧ください」


 疑う俺に、ヒルデが一枚の写真を表示させた。

 それはコックピットの中や軍服姿ではなく、何故かナイトプールのプールサイドで撮影された写真だった。

 派手な柄の海パン一丁で、両脇にビキニ姿の美女を抱え、シャンパングラスを掲げてウェーイしている男の姿。


「……なんだこの写真は」

「彼のSNSから掘り出したものです。注目すべきは、彼の左手首」


 ヒルデが画像を拡大する。

 美女の肩に回された男の左手首は露わになっており、そこには何の日焼け跡も、装飾品も見当たらない。


「……無いな」

 

 俺は息を呑んだ。

 U.S.E.R.の証である手首に浮かぶ銀色のリングがない。

 あれはアクセサリーの類ではなく、U.S.E.R.の資質に目覚めた者の肉体に浮き上がる生体紋様だ。


 外科手術でも消すことはできず、U.S.E.R.である限り一生付きまとう刻印。

 それがないということは、コイツが紛れもなく『ただの人間』であるという動かぬ証拠だった。


「マジか……」


 俺は色んな感情が入り混じった深い息を吐き出した。

 他勢力がヴァルキュリアを完全に再現したわけではないという点では安心した。


 だが、安堵は一瞬で新たな戦慄へと変わる。

 U.S.E.R.ではないということは、戦闘機の操縦技術だけであれを動かしているということだ。

 それはある意味で、より恐ろしい事実だった。


 ヒルデがヴァルキュリアに乗った時の性能を100点とするなら、あの動画の動きは精々40~50点といったところだろう。


 単体で見れば、絶対的な脅威ではない。

 だが、本来0点であるはずの『ただの人間』がその点数を叩き出しているという異常性。


 もし、この技術が体系化され、量産機にフィードバックされたら?

 数千、数万の40点が、数機の100点に襲いかかってきたら?


「……放置するのは、危険すぎるな」


 この男は、俺の想定するゲームバランスを崩壊させかねない特異点だ。

 放置すれば、思わぬ不都合を生み出しかねない。


「いかがなさいますか、クラウス様」


 ヒルデが冷徹な瞳で俺を見据え、静かに問う。

 彼女が考えていることは、当然俺の頭の中にも浮かんでいた。


 腕を組み、しばし熟考する。

 どうするのが、俺にとって最良の結果を生むか……。


「ヒルデちゃん」

「はい」

「こいつ、拉致ってきちゃって」


 ――――――

 ――――

 ――


「拉致ってきました」


 執務室の床に、ドンッと簀巻きにされた物体が置かれる。


 これぞ規模が小さい勢力の優位性。

 様々な認証プロセスが必要な大規模な組織と違って、トップダウンで下された指令がすぐに実行される。


「流石、仕事が早い。何か問題はなかった?」

「はい。所詮は新興企業のテストパイロットなので、碌な護衛もなく、夜道を背後から殴打で一撃でした」

「自治区から出る時の物品検査も大丈夫だった?」

「はい。私の星源術で体温を低下させ、生体反応を極限まで鈍らせました」

「生きてるよね?」


 俺の質問に、ヒルデがつま先で簀巻きにされた物体を突く。


「む~! む~!」


 言葉にならない声を上げて、水揚げされたマグロのように暴れ出した。

 良かった。ちゃんと生きてるみたいだ。


「ヒルデちゃん、とりあえず話せるようにしてやって」

「はい」


 俺の指示に従い、ヒルデが拘束の一部を解いていく。


「ごふっ……! げほっ、かはっ……!」


 荒い呼吸と共に、猿ぐつわを床に吐き出される。

 ティーンは、充血した目をしばたたかせながら、周囲をキョロキョロと見回した。

 焦点が定まっていない。無理もない、いきなり後頭部を殴打されて気絶し、目が覚めたら知らない部屋の床の上だ。


「な、なんだ……ここ……? 俺は……確か、飲み屋の裏で……」


 混乱の極みにある彼に、俺はあくまで余裕のある領主としての態度を崩さずに声をかける。

 

「目が覚めたか? 手荒な真似をしてすまないな」

「……あ?」


 彼は状況が飲み込めず、呆けたような顔で俺を見上げる。


「ここはライン領だ。俺が命令し、彼女に貴様を連れてきてもらった」


 連れてきたというか拉致なんだけどな。


「ライン領……ってことは、テメェが……解放の英雄クラウス・フォン・ラインか……」

「ご名答。知っていてくれて光栄だ」

「知らねぇわけねぇだろ。今や、全宇宙がテメェの話題で持ち切りだからな」


 簀巻きにされて床に寝かされたままにも拘らず、俺に対してはっきりと物を言う。

 混乱から立ち直るのが早い。

 やはり、戦場を渡り歩いてきたという経歴は伊達ではないようだ。


「で? そんな有名人が、しがない傭兵風情を拉致して何の用だ? まさか、茶飲み友達が欲しかったわけじゃねえだろ?」

「これはお前で間違いないな?」


 宙空に、先日ライラに見せられた例のプロモーション動画を映し出す。


「ん? ああ、そうだな。チョロい割には、なかなか割の良い仕事だったぜ」

「だったら、単刀直入に言う。お前を買いたい。この類まれな操縦技術が欲しい」

「へぇ……流石に、物を見る目はあるってわけだ」


 俺の言葉に男は寝転んだ状態からピョンと跳ねて、その場に座り直す。


「だったら、普通はVIP待遇で持て成すもんじゃねーのか? 少なくとも、こりゃ英雄のやり口じゃねーだろ」

「周りが勝手にそう囃し立ててるだけで、自ら名乗ったわけじゃないからな。それに、もしも断られた場合に他勢力への流出を危惧して、別の手段が打てるようにしておくべきだろ?」

「ふんっ……脅しとは、ますます英雄なんて柄じゃねーな」


 俺の脅し文句を、鼻で笑って受け流すティーン。

 流石、死線をいくつも掻い潜ってきただけあって肝が据わっている。


「貴様が傭兵として戦場を渡り歩いているのは金が目的だろう? だったら、好きな額を言え。言い値で雇っ――」

「ちげーよ」


 ティーンが俺の言葉を遮り、ニヤリと笑って言う。


「金? んなもんいくら積まれたって、どうだっていい。俺が欲しいのは『熱』だ」

「熱……?」

「そうだ。俺はそれを求めて、宇宙中の汎ゆる紛争を渡り歩いてきたんだよ。なんせ、今の大国同士の戦争はつまらねえったらありゃしねぇからな。何万キロも離れた場所から、顔も見えねえ相手と大出力ビームを撃ち合うだけの単なる作業だ。そこには駆け引きも、技量も、命のやり取りをする高揚感もありゃしねえ。ただの消耗戦。戦闘機乗りの役目なんて、艦隊が主砲のチャージする時間を稼ぐだけの『動くデコイ』でしかねえ。それすらも無人機にとって変わられつつあって、今や俺らの価値なんて、そこらの使い捨てカイロ程度のもんだ」


 彼は吐き捨てるように言う。

 戦闘機乗りとして、己の腕一つで戦場を駆けてきた男だからこその不満。

 現代の艦隊戦においては、一パイロットの個人の技量など大局の前には誤差の範囲でしかない。


「だが、あんたらのヴァルキュリアとかいう機体は違う」


 ティーンの瞳が、ギラリと光った。


「あの動画を見た時、震えたぜ。敵の息遣いが感じられる距離まで肉薄し、その喉元を食いちぎる……あれこそが、俺の求めていた『闘争』だ。これなら、俺の全てをぶつけられるってな」

「……なるほど。じゃあ、あの機体のテストパイロットとして名乗り出たのも自分の技量を見せつければ俺が接触するのを見越してか」


 道理で、やたらと落ち着いているわけだと納得する。


「全部が全部ってわけじゃねーが。その通りだ。まさか、こんな連れて来られ方をするとは思ってもなかったけどな」


 ククッ……と笑って、彼は更に続けていく。


「俺の要求は単純だ。あんたらの作った『本物のヴァルキュリア』に乗せろ。あんな偽物じゃねぇ。フルスペックの機体にな。んで、俺を前線に出せ。死が目の前を行き交う大戦争の最前線の『熱』を味わわせてくれりゃ……テメェの手駒としてでも何でも働いてやるよ」


 突きつけられた要求に、俺は少し思案する。

 目的が金ではなく、ただ自らの欲望に忠実な戦争狂。

 手綱を握り続けて御すのは少し面倒かもしれないが、確かな戦力になるのは間違いない。


「良いだろう。望み通りの『熱』が味わえるかはお前次第だが、この世で最も死に近い場所に送り込ん――」


 こうして、乱暴過ぎる邂逅からは想像もつかない形であっさりと交渉が成立しようとしたが――


「ダメ。却下」


 部屋の隅で、これまで黙っていたライラが突然異議を挟んできた。


「私は絶対に反対」


 やや怒りをにじませたような口調で続けて言われる。

 普段のテンション高めな様子とは真逆の、淡々とした口ぶりがその本気度を伺わせた。


「なんだよ、急に。確かに本来必要な要件は満たしてないけど、こいつの腕が確かなのは見ただろ? 今はどんな奴でもパイロットの確保が――」

「でも、男の人じゃん」

「……は?」

「ヴァルキュリアには女性しか乗っちゃダメ。だって、ヴァルキュリアなんだから」


 俺の顔をジッと見据えながら、淡々と理由を語るライラ。

 唯一まともだと思っていた女が、これ以上にないめんどくさいことを言い始めた件について。

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ノーマルタイプで強い!ヤ○ン枠? オールドタイプ最強候補。
もんがー もんがー(@桃太郎 ばとるもんがーでござったか。震えるぞはぁと() クラウス的にはありがたいユニットやね。 環境を用意してやれば(ほぼ)裏切る心配がない ライラちゃんがスンってなってる…
面倒くさいけど、ここはエインヘリャル作って乗せよう
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