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第3話:ん~……こりゃ詰んでるわ!!

 勝利の熱気が冷めやらぬブリッジで、ヒルデが俺のもとに歩み寄ってきた。

 その表情には感嘆と、同じくらいの困惑が入り混じっている。


「……お見事でした、クラウス様。しかし、何故敵が撃ってこないと確信できたのですか? 一歩間違えば、我々は今頃宇宙の藻屑でしたよ」


 彼女の問いに、俺は肩をすくめて答える。


「簡単な理屈だ。まず敵艦隊の陣容が巡洋艦3隻という点。これは本格的な侵攻部隊にしては軽すぎる。恐らくは偵察か、定期巡回の任務中だったんだろう」


 俺はモニターに残る敵艦のデータを指差す。


「そんな程度の連中に、現場での独断専行権限なんてあるわけがない。そんな『指示待ち』の連中が、撃てば味方に当たるかもしれない状況になったらどうする? 万が一、を想定して一旦思考が停止する。敵が撃って来ないと分かれば、後はこっちが最大火力を叩き込むだけだ。同じ理屈から、一隻がやられれば後は尻尾を巻いて逃げていくのは分かってた。そういう連中は往々にして、得られるかもしれない功績よりも、目の前にあるリスクの拡大を恐れるものだからな」


 そう言って、俺は万事が自分の思い通りだったと笑って見せる。


 もちろん、ここまで上手くいったのは上振れも上振れだと言っていい。

 しかし、それを全て自分の実力だと思わせることが勝負事においては何よりも重要だからだ。


「素晴らしい戦術眼です。ところでクラウス様……今朝の食事に、何か悪い物でも入っていましたか?」

「それは、どういう意味だ?」

「失礼。ですが、以前の貴方様なら敵影を見た瞬間に、悲鳴を上げて我先にと逃げていたでしょうから」


 相変わらず、口の減らない側近だ。

 しかし、その声色には以前のような冷たさだけでなく、確かな敬意が含まれているように聞こえた。


「それで、クラウス様。勝利の余韻に浸っているとこを申し訳有りませんが」

「ああ、言われなくても分かっている」


 俺はヒルデの言葉を遮り、モニター上の宙域図を指でなぞった。


「総員、警戒を解くな。デブリ帯をスキャン。脱出艇及び生体反応のある残骸を全て回収しろ」


 俺は淡々と命令を告げる。


 戦闘後の処理は戦闘そのものと同じくらい重要だ。

 敵艦の残骸は資源になるし、乗組員は捕虜にすれば情報や身代金にもなる。


「はい、直ちに作業班を向かわせます」


 通信士からの返答を受けて、ようやく一息つく。

 そうして一通りの回収作業を指示し終えたところで、ヒルデが改めて問いかけてきた。


「作業が終わり次第、どうされますか? 先程の戦闘により、軽微ですが本艦も損傷を受けました。ここは一度、視察は取り止めて、本星へと帰投した方がいいと思われますが」

「視察ってどこに行く予定だったんだっけ?」

「植民惑星M179です。視察、及び献上物である希少金属の回収です」

「う~ん……」


 顎に手を当てて、考え込む。


 別の惑星、見てぇ~~……!!

 宇宙から巨大な宇宙戦艦に乗って見下ろす惑星は、壮観だろうなぁ~~……!!


「いや、安全は確保できているし、このまま行こう」


 悩んだ末に、元の予定を完遂することにした。

 せっかくなら異星人の姿も見てみたいしな。


 ***


 そうしてまたしばらくの航行の後、眼下に赤茶けた地表を持つ惑星M179が現れた。

 大気圏を降下し、指定された着陸ポイントへと降り立つ。


「お~……こいつは壮観だな……」


 トラクタービームで地表面へと降り立った俺の目の前に広がっていたのは、地平まで続く巨大な『キノコ』の森だった。

 それも単なるキノコではなく、それぞれが意志を持ってモゾモゾと蠢いている。


「この惑星の原生生物『マイコニド』です。菌糸をベースとした知的生命体ですね」


 ヒルデが、俺がまだ『ワープ酔い』としてるだろうとでも言うように解説してくれる。

 大仰な宇宙戦艦から降りてきたというのに、キノコ共は俺たちの存在を全く気にしてない。

 単純に知性が低いのか、それとも既に見慣れた光景ということなんだろう。


 ヒルデ曰く、俺たちライン家はこの惑星に巨大な降雨プラントを提供し、その見返りにこの惑星の地中から取れる希少金属を受け取っているらしい。


『……水、感謝。我ラ、約束、果タス』


「うおっ! な、なんか頭に声が響いたぞ!?」

「彼らの王の言葉です。マイコニドは群体としての性質を持っており、このように念話によって王の意志を全体へと伝播します」


 言葉通り、眼前に座している一際大きなキノコが触腕を振るうと、全てのキノコが俺たちへと向かって一斉に頭を下げた。

 その動きは、まるで熟練のRTSリアルタイムストラテジープレイヤーのユニット操作を見ているようだ。


「群体生物か。一切のラグもないのは見事なもんだな。でも、俺らも身体を乗っ取られたりはしないよな?」

「彼らの胞子を体内に取り込んでしまえば、あるいは……冗談です」


 ギョッとして口を塞いだ俺に、ヒルデが真顔で言う。


「冗談を言うならせめて分かりやすく欲しいんだが」

「申し訳有りません。ですが、ご安心を。そもそも我々が現在着用している衣服は、最新鋭の全環境対応型宇宙服です」

「宇宙服って、これが?」


 自分の着ているゴテゴテとした貴族服の襟を掴んで、聞き返す。


「はい。見た目こそ装飾的ですが、生地にはナノマシンが編み込まれており、微弱な防護フィールドを常時展開しています。真空、高放射能、そして未知の細菌や毒ガスに至るまでを防ぎます」

「へぇ~……」


 この世界の技術レベルと美的センスの歪さに驚いている間に、マイコニドたちによってコンテナの積み込みが終わった。

 王個体が再び触手を振り、別れの挨拶を送ってくる。


『約束、果タシタ。マタ……』


 俺たちは彼らに別れを告げて、再び宇宙戦艦へと乗り込む。


 ***


 無事に本来の任務を果たした、本星への帰路。

 俺は艦長席に座りながら、そろそろ覚悟を決めて聞かないといけないことがあるなと考えていた。


「なあ、ヒルデちゃん。ワープ酔いの影響なのか、まだちょっと記憶にあやふやなことがあるから聞きたいんだけど……」

「はい、何でしょうか?」


 俺の問いかけに、ヒルデは『またですか……』的な溜息を吐きながらも椅子を回転させて向き直る。


「俺らのライン家って今、どんな状況なんだっけ?」

「やはり、何か悪い物でも食べましたか?」

「食べてない食べてない。まだ記憶が混濁してるから状況の整理をしておきたいなって思っただけ」

「失礼しました。では、いよいよ現実逃避も限界だと悟られたのですね」


 本当に忠実な側近なのか、と思うくらいに辛辣な物言いをされる。

 ただ、その言葉は俺の予想が悪い方に的中しているのを強く示唆していた。


「では、こちらをご覧ください」


 そう言って展開されたホログラムには、無数の銀河が渦巻く巨大な銀河団の姿が映し出されていた。

 美しい光景だが、俺の目が吸い寄せられたのは、それが二色の色で真っ二つに塗り分けられていることだった。


「これは?」

「現在の帝国の勢力図です」


 ヒルデが淡々とした口調で解説をはじめる。


「ご存知の通り、我が『銀河帝国アスガルズ』は現在、建国以来最大の内戦状態にあります。きっかけは三年前の先代皇帝陛下の崩御と、それに伴う後継者争いです」


 あー、よくあるやつね……と相槌を打ちながら続く彼女の説明を聞いていく。


「帝国主星ヴァルハラを含む領域を支配しているのが、第一皇子であらせられるバルドル殿下を擁立する『アース派』。正規軍の大半を掌握し、中央集権による統治を掲げています」

「なるほど。歴史的にはこっちが一応は正統後継者ってことね」

「はい。対して、赤く塗られた領域は有力貴族たちが結託し、大公ニョルズを盟主に据えた『ヴァン派』です。地方分権と貴族の特権拡大を掲げ、豊富な資金力で私設軍や傭兵団を雇入れ、正規軍に対抗しています」

「ふむふむ……」


 俺は顎に手を当てて唸る。

 拡大しすぎた帝国でよくありがちな内乱パターンだ。

 ストラテジーゲームなら俺はどっちの勢力でもそれぞれ少なくとも100回ずつはプレイしている。


「つまり、今の帝国は真っ二つに割れて血みどろの殺し合いをしてる最中ってこった」

「その通りです。両勢力の力は拮抗しており、戦線は膠着状態。それでも主張は真っ向から対立しているせいか、和睦に至るような気配もありません」

「ふ~ん……で、我らがライン家はこの『ラグナロク』に、どう関わってるわけ?」


 命名規則から推測した言葉でこの内乱を表し、ヒルデに話の核心についてを尋ねる。


 明確な領地内で、敵巡洋艦に拠る無警告での攻撃。

 そして、こんな仰々しい戦艦でわざわざ植民惑星への視察に行かなければならない現状。


 答えはもうほぼ出ているような気もしたが、一応聞いておかなければならなかった。


「それつきましては、こちらを御覧ください」


 ホログラムが拡大操作され、青と赤の巨大な勢力圏がぶつかる境界が表示される。


「こちらが我がライン領です」


 拡大された地図の真ん中に、針の先程の小さな小さな『白い領域』があった。


「見ての通り、アース派とヴァン派の両勢力の緩衝地帯のど真ん中に位置しています」

「随分と肩身の狭い場所だな」

「はい。そして現在、両陣営共にこのライン領を喉から手が出るほど欲しています」

「へぇ、それだけ俺に魅力があるってこと? それともあのキノコ生命体?」

「どちらも違います」


 ヒルデは俺の冗談を一蹴して、更に続けていく。


「最新の演算結果において、ここがビフレスト……つまり、帝国領内のいくつかのワープ航路の新たな交差点と成り得ることが発覚したからです」

「ほー……それってつまり、うちを押さえたら敵の領内に拠点を作れるに等しいってこと?」

「そういうことです。これまでは両派共に、静観勢力には手出ししないという暗黙の了解がありましたが、こうも膠着状態が続けばそうも言っていられなくなったのでしょう。両陣営共に、『敵陣営のものになるくらいなら滅ぼしてしまおう』という方針で固まったようです」

「なるほどなるほど」


 大体予想していた通りの事実が改めて告げられ、俺は思った。


 ん~……こりゃ詰んでるわ!!

ここまで読んで頂いてありがとうございます。


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作者の執筆モチベーションも上がるので、何卒よろしくお願いします。

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