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第4話:スカウト

「スカウト……だと……?」


 俺の言葉に、オッサンの方が目を白黒とさせて困惑する。

 一方、赤い髪の女は烈火のごとく顔を赤くして噛みついてきた。


「ふざけるなッ! 私たちを愚弄してるのか!?」

「いや、至って真面目なんだが」


 俺は肩をすくめながら二人を観察する。

 オッサンの方は、歴戦の猛者というような雰囲気……まあ、よくいる『忠義に厚い古参キャラ』と言ったところか。

 主要キャラかモブか、判断が難しいラインだ。

 ただ、ある程度の話し合いができそうな人間である雰囲気は感じる。


 一方、女の方はと言えば、燃えるような赤髪に、意志の強そうな瞳。

 そして何よりも、この状況下でも俺を睨み返してくる胆力。

 かなりの主人公力、あるいはヒロイン力を感じるが、こっちはまるで話を取り合ってくれそうな気配がない。


 ただ、ようやく当たりを引いたか……と、内心で安堵の息を吐く。

 俺の『名君クラウス・フォン・ライン作戦』に引っかかった反体制組織を巡ること、これで四箇所目。

 前の三つは単なるゴロツキ崩れや、理想に溺れただけの烏合の衆だったが、ここは本物なようだ。


「そもそも貴様、何故ここが分かった?」


 オッサンの方が呻くように聞いてくる。

 剣の柄を握る手には脂汗が滲み、背後のフリストへの警戒を解いていない。


「もうバレてるのが明らかなのに、今更そんなことを聞く意味あるか?」


 俺は苦笑交じりに答えるが、向こうは納得していない様子だ。

 まあ、種明かしをしてやるのも悪くはない。


「簡単な理屈だ。俺の豹変に、お前たちは慌てて他の組織と密に連絡を取り始めただろ? 『これは一体どういうことだ』ってな。後は領内のネットワークを監視して、不自然に増えた暗号通信の発信元を辿るだけでご覧のとおりだ」

「そのためだけに、あんな大掛かりなことを……!?」

「別に、そのためだけってわけでもないけどな。領民の不満度が溜まったら、一揆やら暴動やらのマイナスイベントが発生して面倒くさいし」

「まいなす……?」

「こっちの話だ。とにかく、これで少なくとも、俺とお前たちが敵対する理由はなくなっただろ? 俺は善政を敷く。お前たちが憂う圧政はもうない。だったら、仲良くしようじゃないか」


 俺はフレンドリーに笑いかける。

 だが、赤い髪の女の瞳から敵意が消えることはなかった。


「ふざけるな! 何をしようと、帝国の全てが私の敵だ! どれだけ善人を気取ろうと、帝国貴族は帝国貴族! その事実は変わらない!」


 彼女は叫ぶと同時に、腰のホルスターに手を伸ばした。


 無謀だ。

 今の俺はフリストのシールドの内側にいる。

 歩兵の銃程度では、傷一つ付けられやしない。


「ひ……セリア様! おやめください!」


 オッサンが慌てて女の手を抑え込む。


「放してグスタフ! この男は……!」

「なりませぬ! 今ここで動けば全滅ですぞ!」


 そのやり取りを見ながら、俺は「ふ〜ん」と鼻を鳴らす。

 今の銃に手をかける動き、かなり素早く、迷いがなかった。

 フリストを前にして、余程の自信がなければそこまでできないはずだ。


「おい、そこの女」


 俺はセリアと呼ばれた彼女を真っ直ぐに見据えて、尋ねた。


「お前、U.S.E.R.か?」


 その単語が出た瞬間、セリアの肩がビクリと跳ねた。

 流石は直情タイプ、動揺がモロに出すぎだ。

 思わず吹き出しそうになるのを堪え、俺はさらに畳み掛ける。


「それと、さっきそっちのおっさんが言いかけた言葉……『ひ』ってのは……もしかして、『姫』か?」

「……っ!?」


 こっちも図星か。

 俺はインカムのスイッチを入れ、フリストの中にいるヒルデに話しかける。


「ヒルデちゃん、ライン領(うち)の近辺で比較的最近、帝国に滅ぼされたり併合された小国とかってある?」


 数秒の間を空けて、フリストから無線通信でヒルデの返答が届く。


『このライン領……第九銀河区と隣接する第八銀河区は、かつてイグニア王国という一恒星系からなる国でした。しかし、数年前の帝国軍による侵攻で主星は陥落。王家は滅亡し、星系は帝国にへ併合されました。今はアース派の支配領域下にあります』


「あー、なるほどなるほど……そういうストーリーだったか……!」


 俺は手のひらをポンと打った。

 亡国のお姫様が、生き残った騎士たちと共に祖国を復興のために悪の帝国と戦う。


 王道中の王道。

 コテコテのテンプレストーリーだ。

 だが、それ故にこのセリアなる女が、主人公かヒロインである確率は更に高まった。


「はいはい、読めた読めた」


 一人で納得して頷く俺に、セリアが戸惑いの表情を向ける。


「な、なんなの……?」

「つまり、お前らの最終目標は『打倒銀河帝国』なんだろ? だったら、俺たちは利害が一致してる」


 俺はセリアに向かって、右手を差し出した。


「もう一度言う。俺と手を組もう。俺も帝国をぶっ壊さないといけない事情が――」

「断る」


 俺が言い切るよりも先に、冷たい拒絶の言葉が突きつけられた。


「どうしてだ? WIN-WINの関係になれると思うが?」

「貴様が帝国貴族だから。それ以外に理由が必要?」


 中で炎が燃え盛っているような瞳で見据えながらはっきりと言われる。

 損得勘定よりも感情が優先……ってわけか。

 正直、一番やりづらいタイプのキャラクターだ。


「そうか……だが、お前の部下の考えは違うようだがな」


 俺は視線をオッサン――グスタフへと向ける。

 そっちは剣こそ手放していないものの、少なくとも俺の言葉に耳を傾けようという気配を漂わせていた。


「グスタフ! まさかこんな奴に同調するわけないわよね!」


 セリアが語気を強めて食ってかかる。

 だが、グスタフは冷静に、諭すような声で彼女に言った。


「セリア様、落ち着いてください。彼奴の言葉を全て信じたわけではありません……が、少なくとも彼らの目的が我らの命ではないことは確かです」

「なっ……」

「我々を殲滅するつもりなら、問答無用で空から撃ち下ろせば済む話です。わざわざ機体から降りてきて、対話を持ちかけた。その真意、聞く価値はあるかと」


 セリアは唇を噛み、なおも俺を睨みつけるが、反論はできないようだ。

 グスタフは彼女を軽く制し、俺の方へ向き直った。


「クラウス・フォン・ライン。貴様の目的が『帝国の打倒』だとして……我らを引き入れようとする具体的な理由は何だ? 戦力を期待してのことなら随分と杜撰ではないか?」


 鋭い質問に、俺は少し考え込む。


『イグニア王国を再興し、反帝国の旗印にする』

『亡国の悲劇をプロパガンダに利用する』


 適当な理由はいくらでも思いつく。

 だが、このオッサンはなかなかに切れ者だ。

 中途半端な嘘は、かえって不信感を招く可能性が十分にある。


 つまり、ここは――


「俺は、U.S.E.R.を集めている」


 勝負どころだと判断して、俺の手札で最も重要な切り札を開示する。


「……U.S.E.R.を? 何故だ?」


 グスタフが眉をひそめる。

 俺は背後にそびえ立つ、青き巨人を親指で指し示した。


「この人型機動兵器『ヴァルキュリア』は、U.S.E.R.にしか動かせない専用機体だ」


 その瞬間、グスタフの顔色が変わり、セリアもハッと息を呑んだ。

 それは今、銀河中の勢力が喉から手が出るほど欲しがっている、ヴァルキュリアの『核心』に迫る情報だ。

 本来ならトップシークレットだが、今の彼らにそれを明かしたところでリスクはない。

 金も技術もないレジスタンスが、その情報を知ったところで、ゼロから同等の機体を作れるはずがないからだ。


「……なるほど。そういうことか」


 グスタフが納得したように頷く。

 俺たちがセリアの『身柄』ではなく、彼女の『資質』を求めていること。

 そして、その対価として彼女に祖国解放の力が与えられること。

 全ての理屈が繋がり、確かに俺たちがWIN-WINの関係が築けるという説明がついた。


「……少し、時間を頂きたい」

「グスタフ! 貴方、本当にこいつと協力する気なの!?」

「祖国を滅ぼし、先王夫妻……貴方様のご両親を殺めた帝国に対する怒りは重々承知しています。が……しかし、怒りだけで目的は達せません。悪魔と罵りながらでもいい。利用できるものは利用し、生き延びて……そして力を手に入れる。それこそが、亡き王への最大の弔いになると、私は考えます」

「っ……!」


 セリアは唇を噛み締め、俯いた。

 反論したくても、その言葉があまりにも残酷な『現実』であることを、彼女自身が一番理解してたのだろう。


「一旦、話はついたみたいだな」


 俺は頷くと、ワイヤーリフトのグリップを握った。


「では、後日改めて正式な会合の場を設けよう。具体的な日時と場所については、追って連絡する」


 言い残し、俺はフリストのコクピットへと戻っていく。


「上手くいきましたか?」

「ん? ああ、多分な」


 コクピット内で直接問いかけてきたヒルデに返事をすると、彼女は機体のスラスターを吹かす。

 上昇する視界の中で、赤い髪の少女が、まだ納得いかないという顔でこちらを睨み続けているのが見えた。


 ***


 それから数日後。

 領主の館の執務室で、俺は空間に投影された複雑な設計図と睨めっこをしていた。


「ジェネレーターの出力係数はこれでいいとして……問題は排熱か」


 俺が今進めているのは、次なる戦略の要――ヴァルキュリア二号機の基本設計だ。

 あのセリアという女、髪色や性格からして適合する星源力の属性は間違いなく『炎』。

 フリストが近接特化なら、二号機は高機動砲撃戦仕様にするべきか、それとも一点突破の突撃仕様にするべきか……。


「妄想……もとい、構想が捗るな」


 俺がニヤリと笑い、新たなパーツのデータを組み込んだ、その時だった。

 部屋の隅で端末を操作していたヒルデが、誰かとの通信を終え、こちらを振り返った。


「……はい。了解しました。クラウス様にもお伝えします」


 いつになく神妙な顔つきで通話を切るヒルデに、俺は手を止めて眉を上げる。


「ん? 何かあったか?」

「監視班からの報告です。先ほど、例の旧イグニア残党の地下アジトから旧式の戦闘艇が一機、発進しました」

「……ほう」

「搭乗者は一名。進路は第八銀河区――旧イグニア王国主星方面。どうやら彼女が、単独で突撃したようです」


 俺は数秒間フリーズし、そして深く溜息をついて天を仰いだ。


「……直情型だなぁ」


 俺の呟きが、虚しく部屋に響いた。

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