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第2話:ヴァルキュリア販売計画

「フリストを」

「売る!?」


 俺の提案に、ヒルデとライラが続けて困惑の声を上げる。


「そうだ。前回のヴァン派艦隊との戦いは今や全宇宙に発信されて、最高のプロモーションになった。あの力に今、世界中の勢力が興味を持っている。『あのヴァルキュリアなる兵器は何だ』ってな。そいつらに開発データを売りつければ、間違いなく莫大な資金源になる」

「いやいやいや、本体じゃなくて技術でもダメっしょ。ヴァルキュリアの技術が唯一、君ん()が他に優位性を持ってる戦力なのに、それを他所に売って技術面で並ばれたら元も子もないじゃん」

「本当にそうか?」


 反論してきたライラの目を見据えて言う。


 確かに、フリストが当家の生命線なのはその通りだ。

 でも、その技術が他に流出する=イニシアチブの喪失というのは俺の考えとは少し異なる。


「どういうこと?」

「俺たちが持っている優位性は機体そのものか? いや、違う。希少なU.S.E.R.を搭乗させて戦う兵器、という運用方法での優位性だ。さっき、お前も言っただろ? こんなのはU.S.E.R.が乗ってないと単なる劣化戦闘機の棺桶だって。売りつけるのは、その部分だけだ」

「な、なるほどぉ……」

「だとしても何も知らない連中は飛びついてくるだろう。なんせ、この未知の人型兵器の実力を目の当たりにしてるんだからな。その真価がガワじゃなくて中にあるとも知らずに」


 感心するライラに、俺は更に続けていく。


「それでもいずれは気づく奴も出てくるだろう。これは、U.S.E.R.を搭乗させるロボットなんだってな。けど、その前に俺らは時間的な優位と集めた金を使って……宇宙中からU.S.E.R.を集める! 連中が気づいた頃には、こっちにはヴァルキュリアの軍団が出来てるってわけだ」

「おー……」


 吟じた俺に、ライラが小さく拍手を送ってくれる。


「悪辣だねぇ。詐欺師の才能あるんじゃない?」

「褒め言葉として受け取っておく…………というわけで、ヒルデちゃん。早速、この話に飛びついてきそうなカモ……もとい、顧客のリストアップを頼む」

「条件は?」

「金払いさえ良ければ誰でもいい。大手軍需企業、中立コロニーの自警団、あるいは辺境の小惑星国家の独裁者……喉から手が出るほど『力』を欲している連中ならな。ただ念のために、アース派とヴァン派との繋がりは薄そうなところで」

「承知いたしました」


 ヒルデは一礼すると、タブレットを取り出し、素早い手付きで操作を始めた。


「彼らにとって、ヴァルキュリアは『一機で戦局を変える魔法の杖』に見えているはずです。足元を見て、徹底的に吹っ掛けましょう」

「頼もしいな。ライラ、お前は売り渡すためのモンキーモデルのデータを作成しろ。カタログスペック上はそれっぽく見えるけど、コアとなるU.S.E.R.同調システム『アストラル・コンバーター』はオミットした廉価版だ」

「りょーかい。手抜きはポリシーじゃないけど、これで二号機三号機も作れるならしょーがないかぁ……」


 二人の頼もしい部下に指示を出し、俺は窓の外を見る。

 こうして、俺の劣化ヴァルキュリア販売計画は幕を開けた。


 ***


 結果から言えば、俺の目論見は大成功だった。

 いや、成功しすぎだと言ってもいい。


 俺たちの販売した廉価版ヴァルキュリアの設計データには、宇宙中から注文が殺到した。

 二大勢力の狭間で怯えていた中小国家や、看板商品が欲しい新興企業にとって、たった一機で艦隊を壊滅させた人型兵器の技術は、喉から手が出るほど欲しい『夢の兵器』だったらしい。

 核の技術を排したガワだけのそれは、操縦難易度が無駄に高いだけの『手足がついた戦闘機』でしかない代物なのだが、奴らはそれに気づかない。


 俺とヒルデの二人が成し遂げた奇跡が、見事に連中の目を眩ませたのだ。


 こうして、ライン家の口座には連日バグったような桁の金額が振り込まれ続けた。

 真っ赤だった帳簿は瞬く間に黒字に転換し、借金は完済。

 宇宙各国の主要通貨からグレーな電子通貨までが、唸りを上げて俺の懐へと飛び込んできた。


「……笑いが止まらんとは、このことだな」


 積み上がった数字を見ながら、俺は悪い笑みを浮かべる。

 これだけの金があれば、宇宙の彼方へと逃げて、辺境の惑星で末代まで遊んで余生を過ごすこともできるだろう。


 でも、今回の俺が選んだのは銀河制覇を目指す覇道シナリオ。

 この金もちゃんと、それに活かすように使わなければならない。


 まずは当然、ヴァルキュリアの新型機への投資。

 U.S.E.R.にはヒルデのような近接戦闘主体以外にも、数多くの戦闘スタイルのキャラがいるだろう。

 それに即したフリストとは異なる設計思想の新型の開発に加えて、星源力供給の問題も解決しなければならない。

 後者については俺の新しいアイディアで解決の見通しは立ちそうだが、それを実現するのにはまた多くの予算が必要になる。


 もう一つは、U.S.E.R.の発見と確保。

 ヴァルキュリアの運用には、少なくとも一機につき一人のU.S.E.R.が必要になる。

 敵対勢力の連中がヴァルキュリアのカラクリに気づけば、全宇宙でU.S.E.R.の争奪戦が起こる。

 それまでに最低でも10人、できれば20人以上のU.S.E.R.を自勢力に引き入れておきたい。


 そのためにはとにかく金を使って情報を集める必要がある。

 だが、ライラが言ったように、ただ闇雲に探すのは砂漠から特定の砂粒を見つけ出すようなものだ。


 そんな方法では、どれだけ金があっても足りない。

 手元の情報から推測できる主人公たちの属性に対して、確実なアプローチが見込める方法。


 そんな魔法のような手法が何かないだろうか……と、執務室で一人考えていると――


「あいつら……まだやってんのか……」


 不意に、正門前に集結してシュプレヒコールを上げている市民集団が目に入った。

 ヴァン派の艦隊を追い払ったパフォーマンスで多少は誤魔化せたが、あれもいい加減なんとかしないとマイナスイベントに発展するかもしれない。


「悪徳領主は去れ!」

「我々にパンと自由を!」


 狙撃対策の強化ガラス越しでも聞こえてくる怒号。


 彼らの主張はもっともだ。

 あの旧クラウス・フォン・ラインが、まともな政治をやっていたとは思えない。

 奴が私欲を肥やしていた代わりに、民は飢え、インフラは死に、未来への希望は徐々に潰えていったんだろう。

 この惨状こそが、レジスタンスや革命家といった連中が活動するための絶好の土壌だ。


 貧困、差別、暴力。

 それらが蔓延る場所には、必ずと言っていいほど救済を掲げる英雄の影がある。

 本来のシナリオ通りなら、俺は彼らに倒されるだけの悪党として、この怒りの炎に焼かれる運命だったわけだが……ん? 待てよ……。


 再び、俺の頭の上に豆電球がピカッと点灯する。


「そうか……俺が探す必要なんてなかったんだ……」


 俺はポンッ……と、拳で手のひらを打った。


 逆転の発想だ。

 砂漠から特定の砂粒を探すのが難しいなら、向こうから飛び込んでくるような『磁石』を置いてやればいい。

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