第1話:主人公を探して
「ヴァルキュリアを増産する」
執務室に招集したヒルデとライラを前に、俺は高らかに宣言した。
俺が提唱し、ライラのチームが開発したU.S.E.R.専用人型機動兵器『ヴァルキュリア』。
U.S.E.R.と呼ばれる異能者の力をそのまま発揮できる兵器であり、その性能は既存の宇宙戦争の常識を根底から覆した。
この機体こそが、ライン家が他勢力に対して唯一リードしている切り札であり、この脆弱な勢力の生命線。
この俺――クラウス・フォン・ラインが銀河皇帝になるという覇道シナリオの勝利条件を達成するには、ヴァルキュリアの早期増産による戦力増強は絶対条件だ。
「増産って……本気で言ってる?」
俺の言葉に、開発チームのリーダーであるライラが冷ややかな反応を見せる。
「なんだ? 不服か?」
「いや、私はいっぱい作れた方が楽しいけどさ。肝心要のU.S.E.R.がいないじゃん。U.S.E.R.がいないヴァルキュリアなんて、単なる劣化戦闘機の棺桶みたいなもんでしょ。それに燃費問題もまだ解決できてないから、一機に付き二人は必要になるんだよ?」
「だから、開発と並行してU.S.E.R.も探すんだよ」
「探すって、領主くんさぁ……それこそ本気で言ってる?」
はぁ……と大きな溜息を吐き出し、ライラが更に続けていく。
「前にも言ったけど、U.S.E.R.って全宇宙に100人もいないんだよ? おまけに、見つかれば軍や研究所にモルモットとして連れて行かれるからみんな必死で素性を隠してる。そんなのを今から見つけるなんて、砂漠で特定の砂粒を探すようなもんでしょ。こんな辺境の惑星に二人もいたのが奇跡以上の奇跡なんだから」
「そう。本当だったら奇跡みたいなことが起こってるってのが重要なんだよ」
ライラの言うように、一口で探すと言っても、この世界はとんでもなく広い。
そこから都合よく協力的なU.S.E.R.を見つけ出すなんて、ほとんど不可能だと言っていいだろう。
だが、俺には『原作知識』というメタ視点がある。
もちろん、俺はこのゲームのことを1mmも知らず、知識はかなり限られている。
それでも、これまで得た知識をいくつか結びつければ、得られる情報は少なくない。
まず、俺が持っている知識の中で確実なものはヒルデが原作キャラだということ。
SNSでファンアートがよく流れてきたことも加味すると、人気キャラであることも窺える。
彼女が原作キャラであれば、同じくU.S.E.R.であり、主君である俺――クラウス・フォン・ラインも原作キャラだろう。
しかし、初期レベルの低さと、以前のヒルデの辛辣な態度を考えれば物語中盤以降に登場するキャラである可能性は低い。
考えうる役割は、序盤で主人公たちに成敗される小悪党の帝国貴族。
もしかしたら、ヒルデに見限られ、本当に介錯されるのが正しい結末だったのかもしれない。
そして、もう一つの情報がこのライラ・ブラウン博士と彼女のチームが乗っている輸送船。
両者ともにやたらと奇抜な見た目をしていて、これもまた原作要素である可能性は高そうに思える。
原作がSFファンタジーRPGであることを考えると、当然主人公たちが星々を航行できる移動手段は必要になる。
つまり本来のライラは俺ではなく、主人公たちと接触し、協力関係となるキャラクターだったんじゃないだろうか。
これらが一同に会しているのが奇跡ではなく、原作序盤のストーリー展開が起こした必然と考えれば、話は全く変わる。
主人公……あるいはその関係者は、この惑星ローレライの周辺にいるんじゃないかという予測が立つ。
「どういうこと?」
「それは……説明するのがややこしいというか難しいから、とにかくお前のチームはすぐに二号機の開発に取りかかれ。詳細はパイロット候補が見つかってからにするとしても、基本設計くらいはできるだろ?」
原作知識というメタ視点の話をするわけにもいかないので、適当に受け流す。
「へ~い……雇われの身は辛いねぇ……」
ライラが文句を言いながらも背を向けて、工廠へと戻ろうとした時だった。
「……クラウス様。それについて、一つご報告が」
それまで黙って控えていたヒルデが、静かに手を挙げた。
いつもの無表情だが、どこか空気が重い。
「報告? なんだ?」
「予算が、もうありません」
彼女は淡々と、しかし衝撃的な事実を告げた。
「……え?」
「ですから、当家の金庫は既に空です。二号機を作る余裕など、どこにもありません。フリスト一機を建造し、先日の戦闘で消耗した機体の補修費を計上した時点で、我が家の財政は破綻寸前。それどころか、近隣の商会から多額の借金までしている状況です」
ヒルデが提示したホログラムの帳簿には、真っ赤な数字が並んでいた。
「……おい、ライラ!」
「えっ!? 何!? アタシ!?」
部屋から出ようとしたところを呼び止められたライラが、身体をビクっとさせる。
「空ってどういうことだよ! 空って! 最初のテストをした時はまだ余裕あったろ! お前が見た目にこだわりすぎたせいじゃねーのか!?」
「はぁ!? 見た目は大事でしょ! 開発チームの士気に直結すんの! それに『予算は気にするな、最高のものを作れ』って言ったのはそっちじゃん!」
「加減があるだろ! 加減が! まじで空になるまで使い切ってどうすんだよ!」
「そのおかげで最高の機体ができたんだからいいじゃん!」
俺が責任転嫁しようとすると、ライラも負けじと噛み付いてくる。
確かに言った。言ったが、まさか金庫が空になるまで使い込まれるとは思わなかった。
「……クラウス様。いかがなさいましょう。新たに『呼吸税』を導入して、領民から徴収しますか? それとも、植民惑星から強制徴収でも? 逆らう場合は私が――」
「ヒルデちゃん、俺が冷静にならざるを得ないような怖いことを言うのはやめて……」
氷のような目つきで腰の剣に手を添えるヒルデを制止する。
せっかく、フリストの活躍で領民の支持を少しばかり取り戻せたのに、そんなことをしたら急転直下だ。
今は領民の支持よりも大事なことがあるとはいえ、いたずらに支持率を下げるのはなぁ……。
「ん~……どうすっかなぁ……」
腕を組み、執務用の椅子に深く腰掛けて考え込む。
二号機を作らないわけにもいかないし、やっぱり領民からちょっとずつ徴収するしかないのかな。
でも、これ以上領民の支持が下がって変なマイナスイベントが発生しても嫌だしなぁ……。
かと言って、他に方法があるかと言われると、何か売れる物とかあったっけ……。
マイコニドって食べたら美味いのかな……。美味しくないし寄生されたりしそうだよな……。
他に商品になりそうなもの……商品、商品……あっ、そうだ! 絶好ものがあるじゃないか!
うんうんと一人で唸っていると、不意に頭の上に豆電球が点灯したような閃きを得た。
「いいことを思いついた」
「いいこと?」
「やはり、呼吸税ですか? それともマイコニド等の呼吸が必要のない生物からも取れるように生命活動税でしょうか?」
首を傾げるライラと過激派のヒルデに向かって、俺は不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「フリストを売ろう」
今日から二章を投稿していきます!
皆さんに楽しんで頂けるように頑張るんで、ブックマークと評価がまだの方は何卒よろしくお願いします!!




